- 作者: 西部謙司
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/06
- メディア: 新書
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内容(「BOOK」データベースより)
「いかに美しく勝利するか」という至上命題を掲げるチーム、FCバルセロナ。攻撃的でスペクタクルなサッカーにより観る者を魅了し、最後まで攻め抜くスタイルで世界の頂点に登り詰めた彼らのフィロソフィーが、そこにはある。「クラブ以上の存在」というスローガンを掲げ、長い歴史をかけて創られてきたクラブのアイデンティティとはいかなるものか。世界最強クラブと呼ばれる強さの理由と華麗なるサッカー美学の秘密に迫る、バルサの入門書決定版。
EUROでスペイン代表が、史上初の連覇を達成!
しかも、その連覇のあいだには、ワールドカップ優勝をはさんでいます。
実況していたアナウンサーが「EUROの決勝で4対0!」と絶叫していましたが、本当に強い勝ち方でした。
そのスペイン代表に多くの選手をおくっているのが、FCバルセロナ。
スペイン代表のサッカーは、まさに、「バルセロナのサッカー」です。
スペイン代表の試合を観ていると、「あれ、今日はメッシ出てないのか?」と勘違いしてしまうくらいです(メッシはアルゼンチン代表)。
この新書は、まさしく「バルサの入門書」という感じの一冊。
おそらく、サッカーマニアにとっては、「こんな基本的な話をいまさら……」なのだと思われますが、「日本代表のワールドカップ関連の試合はなるべく観るようにしている」程度の「サッカーファン」である僕には、かなり勉強になりました。
では、なぜバルセロナは強く、上手く、魅力的なのでしょうか。
サッカーはシンプルなスポーツなだけに奥の深さがあります。センスやフィーリングといった説明しにくい部分もあります。ただし、バルセロナのサッカーは意外と説明しやすい気もしています。なぜなら、非常に論理的にできているからです。
「われわれのやり方で、ボールを70パーセント程度支配できれば、80パーセント程度の試合には勝つことができる」
これは現在のバルセロナのサッカーの根幹を作った元監督、ヨハン・クライフの言葉であり、プレーの根幹にある考え方です。ボールを支配し、試合を支配する。それが基本的な方針なのですが、面白いのは100パーセント、絶対という考え方をしていないことです。
攻撃的かつ、パスを重視し、ボールの試合率で相手を圧倒する最強チーム、FCバルセロナ。
ここで解説されている「バルセロナの戦術」は、バルセロナの試合に限らず、現代のサッカーを観るうえで、「知っていると、ひと味違う」ものばかりです。
バルセロナの選手たちは、前方へパスをつなげない、つなぎにくい、あるいはつなかってもいい展開(チャンス)にならない、仮にこのパスがつながったとしても、その次のパスでボールを失うだろう、と判断したときにバックパスを選択しているのです。バックパスはより安全なパスですから、パスミスは起こりにくいのです。
もちろん、得点するにはボールを前に進めなければならないわけですが、それ以前にボールを失ってしまったら得点どころではありません。そこでバルセロナの選手たちは、前へのパスではボールを失うだろうと瞬時に判断したなら、いったん失わないパスを選択するという、実は極めて合理的な判断をしているのです。
バルセロナのバックパスは、「出されなかった前方へのパス」の代わりだと考えていいでしょう。または、ミスパスになったかもしれない前方へのパスが、後方へとつながっていることによってボールを支配しているのです。
日本代表がバックパスをするたびに、「なんで後ろに蹴るんだよ、その間に相手は守りを固めてしまうのに……」とがっかりしていたのですけど、この本を読むと、バルセロナはバックパスを多用していること、そして、そのバックパスには意味があることが説明されています。
敵陣に向かって、成功率の低いパスを出すよりも、後ろに向けてでも、確実なパスをつなぎ、パスのコースをつくっていくという「目的」があるんですね。
そして、バルセロナの守備については、こんなふうに書かれています。
FWが守備のために、ただちに100メートルも走って自陣に戻る必要はありません。しかし、どのチームも”ボールのある場所”から守るわけではありません。いきなり自陣ゴールまで戻ることはなくても、多くのチームは”ある程度”戻ってから守備をしています。これをサッカー用語ではリトリートといいます。
(中略)
ところが、バルセロナの守備のやり方は少し違っています。
バルセロナが最初に狙っているのは”ボールのある場所”から守り、できればそこでボールを奪い返してしまうことなのです。
ボールに最も近くにいる選手は、ただちに奪い返すために、ボール保持者へのアタックを開始します。さらに、周囲の選手は次にパスが出ると予測できる場所を素早く抑え込んでいきます。ボールのある場所を包み込むようにしてボールの出口をふさぎ、そこからボールが出ないようにして奪い取ってしまいます。
囲い込んだ地域からボールが外に出てしまったときは、バルセロナもいったんリトリートして陣形を整え、つまり互いにカバーが利くようなポジショニングを取り直して守りますが、それはあくまでも二次的なやり方で、第一にはなるべく速く、ボールのある場所に人を集結させて奪い取ることを狙っています。
攻撃しているときのバルセロナは、どのプレイヤーも比較的ゆったりと動いています。最後のフィニッシュへかかるところでは速くなりますが、それまではあまりトップギアには入れません。
一方で、相手にボールを奪われた瞬間には周囲の選手が全力で奪い返しにかかります。攻撃から守備に切り替わったときのバルセロナは、最も各選手の出力が大きくなる瞬間といえるかもしれません。
ボールを奪われたらただちに全力で奪回に動く、素早くボール周辺の相手をマークして、どこにも展開できないようにしてしまうのです。これは言葉では簡単ですが、非常にエネルギーを消耗します。このような守備を90分間行うのはどう考えても無理でしょう。しかし、バルセロナは90分間全力で守備をするわけではありません。70パーセントは自分たちがボールを持っているとしたら、試合時間の30パーセントしか守備をする必要がないからです。だいたい上限で合計30分間、ボールデッドの時間もありますから、およそ20分間激しい守備の動きができればいいことになります。
なるほど、「ボールを支配する」ということが、こんなふうに「攻撃的な守備」にもつながってくるんですね。
この本を読んでいると、現代サッカーの「戦術」の奥深さに驚かされます。
バルセロナといえば、メッシをはじめとする、スーパープレイヤーたちの集まりで、その個々の才能が強さを支えているイメージだったのですが、その根底には、「チーム編成からの一環した戦略と、試合中の戦術」があるのです。
第6章の「バルセロナと対抗勢力」での、「ライバルチームがバルセロナを倒すための戦略」も興味深いものでした。
バルセロナが本当に強いチームだからこそ、戦術を駆使して倒そうとするライバルたちを、ちょっと応援してみたくもなるのです。
なかでも、名将・モウリーニョ監督率いるレアル・マドリードとバルセロナとの対戦は、読んでいてワクワクしてしまいました。
ああ、監督の力って、やっぱり大きいのだなあ!
FCバルセロナのことを知りたい人だけでなく、「サッカーを『勝った負けた』とはちょっと違った目でみてみたい」という人にもおススメです。