「ガード下」の誕生――鉄道と都市の近代史(祥伝社新書273)
- 作者: 小林一郎
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2012/04/03
- メディア: 新書
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内容紹介
ガード下には、居酒屋のような店舗から、住宅、さらには保育園からホテル、墓地までがある。 全国のさまざまなガード下を訪ね歩き、ガード下という空間がいかにして生まれ、どのように発展してきたのかを、本書は探ります。 ガード下は疑問の宝庫。所番地は? 所有権は? 使用料は? 禁じられていることと許されることは? 本書ではガード下の範囲と概念を学問的に規定し、戦前・戦後から高度経済成長時・そして現代の3つに時代区分をした上で、ガード下にまつわる疑問に答えながら、一風変わった街歩きの楽しさを伝えます。 ガード下の歴史を知ることは、日本の近代史を知ることにつながります。本書を読めば、いつものガード下の居酒屋は昨日とは変わって見えてきます。写真多数。
書店で見かけ、おお、なかなか面白そうな新書だ!と即買いしました。
「ガード下」は、誰のものなのか?なんて、あんまり考えてみたことなかったし。
この新書によると、
ところで、ガード下の所有者は誰なのか。
建設事業者の9割ほどを公的資金で賄う現在の高架橋建設まで含めて、戦前からのものも現在のものも、ガード下は鉄道会社のものである。この物件を鉄道会社が土地と桁下までの空間を貸し出したり、賃貸物件として貸し出したりしている。借り手からいえば、一方は借地、一方は借家。借地は自分で家を建てなければならないが、借家は、できあいの建物を利用するだけとなる。
ということで、ガード下はきちんとした不動産物件である。
ただ、古くから貸し出されている物件については、権利・所有関係がかなり入り組んでいる物件もあったようだ。
ということで、言われてみればもっともな話ではあります。
「線後のどさくさにまぎれて占拠した人が、そのまま居座っている」というようなイメージが僕にもあったのですが、実際は「普通の土地と同じ」なんですね。
ガード下は公的な道路ではなく私有地なので、番外ではなく、きちっとした所番地の住所が配分されている。もちろん、郵便物も通常の配達として扱っている。このため、多くのガード下住居で郵便受けが確認できる。
住所についても同様で、「ガード下だから特別扱い」ということは無いのです。
著者は、ガード下の用途を
(1)店舗
(2)事務所
(3)住宅
(4)倉庫
(5)駐車・駐輪場
の5つのグループに分けています。
駅舎からの距離は店舗系がもっとも近く、倉庫と駐車・駐輪場系がもっとも遠い。人通りの多い駅前はガード下としての商品価値が高いということが、ここで明らかになっている。
「ガード下」というと、なんとなく「ちょっとうらぶれた飲み屋」みたいな印象があるのですが、その用途はさまざまで、実際に店舗として使われているのは、立地のよい一部だけのようです。
この本を読んでいると、「ガード下」に風情を感じてしまうのは、ロマン派の思い入れのたまものであって、実際は「上に線路があるだけの普通の店舗」がほとんどなのかな、という気がしてきます。
放っておくには惜しいスペースでもあり、あれこれ利用されているようですが。
この新書、最初のほうの「ガード下豆知識」は興味深かったのですが、全体の半分以上を占める「都心と関西のガード下の紹介」については、九州在住の僕にとっては、まったく土地勘の無い話で、わざわざ訪問しようと思うほど惹かれもしませんでした。
その土地に愛着がある人や、鉄道と生活史に興味がある人にとっては、貴重な資料ではあると思われるのですが。
「ガード下の建築的なデザイン」なんて、意識したことなかったものなあ。
「ガード下って、ちょっと面白そうだな」、というくらいの興味のレベルでは、ちょっと歯が立たない新書かもしれません。
好きな人には、たまらないんじゃないかとは思うんですけどね。