琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

我が愛と青春のたけし軍団 ☆☆☆☆


我が愛と青春のたけし軍団

我が愛と青春のたけし軍団

内容紹介
不世出のコメディアン、ビートたけしを師匠に持つ「たけし軍団」。軍団のリーダー格であるガダルカナル・タカを中心に、つまみ枝豆ダンカン、松尾伴内グレート義太夫ら、総勢8名の軍団中核メンバーが明かすたけし軍団、師匠・たけしの素顔。FRIDAY事件、バイク事故の真相も明かされる。


長年もっとも近くにいた人たち「たけし軍団」が見た、不世出の芸人「ビートたけし」の素顔。
この本は、ビートたけしと、たけし軍団に関するさまざまなエピソードを軍団のまとめ役、ガダルカナル・タカさんが、軍団メンバーたちとの対談をまじえてまとめたものです。


これを読んでいて、まず「ビートたけしという人の凄さ」に圧倒されました。
いつ寝ているのかわからない仕事と遊び、おネエちゃん通い。
そして、軍団のメンバーたちへの、細かい目配り。


ガダルカナル・タカさんは、たけし軍団入りしたときのことを、こんなふうに回想しています。
当時、タカさんは所属事務所が倒産してしまい、半引退状態で、相方のつまみ枝豆さんと一緒に、カラオケスナックをやっていたそうです。
そこにたけしさんがやってきて……

 するとたけしさんが世間話のついでみたいに、酒の入ったグラスを見ながら何気なく言った。
「あれだよな、今度TBSで新番組始まるんだけど、こいつらみたいな若い連中使ってよ、くだらねーことやろうと思ってんだよ。よかったらあんちゃんたちもさ、来て一緒にやれば?」
 予想もしてなかったたけしさんの言葉。
「えっ! 一緒にやる? TBSの新番組? いいの、弟子でもないのに? 本当にいいの??」
 ……一瞬、いろんなことが頭の中で駆け巡ったけど、
「ありがとうございます! やらせていただきます!」
 俺も枝豆も即答してた。
 たぶん、あのとき、たけしさんは店に来る前から決めてたんだと思う。
 それ以前に野球に誘うときにも、おそらく東に聞いて、「実は『お笑いスタ誕』に出てたけど、事務所が倒産していま二人でスナックやってて…」っていう話を聞いたうえで、
「そっか、じゃあ呼んでやれよ」って話になってたんだと思う。あとあと、たけしさんのことを見てると、必ずそういう下調べがあって、いろんな人に手を差し伸べてあげてるから。だから俺らに対しても絶対にそうだろうなって・
 で、いろんな人に手を差し伸べてあげてるから。だから俺らに対しても絶対そうだろうなって。
 で、野球をやって実際に会ってみて、
「あ、こいつら大丈夫だな。じゃあ、拾ってやろう」
 って思って声をかけに来てくれたんだなと思う。そういう意味では俺ら、たけしさんに一応、認めてもらったってことか。


 1983年、上京してから6年目、俺はたけしさんの弟子になった。

 この本を読んでいると、たけしさんが軍団をはじめとする弟子たちのことを、つねに気にかけて、いざというときにサポートする場面が何度も出てきます。
 軍団のひとり、ラッシャー板前さんのお父さんが警察沙汰になる事件を起こしたときの話です。
 ラッシャーさんは、たけしさんや軍団の他のメンバーに迷惑がかかることをおそれ、芸能界引退を覚悟していました。

 「だから僕、もう軍団やめなきゃいけません!」
 覚悟したように言うラッシャー。すると、それまで下を向いて黙ってラッシャーの話を聞いていたたけしさんが突然、
「……くっくっくっ」
 なぜか笑い出した。
「ガハハハハ! いいな、いいな、それいいな!」
 おかしくてたまらないようにゲラゲラ笑ってる。自分の話に笑い出したたけしさんに、ラッシャーはいったい、なんで笑ってるのかわからずに戸惑ったような表情で、
「し、師匠……あ、あの〜」
 するとひと通り笑い終えたたけしさんが言った。
「何もお前関係ないだろ?」
「はい」
「親父の話だろ?」
「はい」
「全部かぶれ!」
「はぁ……?」
 ラッシャーは、たけしさんが言ってることが一瞬、わからなかった。
「お前、それを全部かぶって生きろ」
 そして、たけしさんはニコッとしながらラッシャーに言った。
「お前、間違いなくこれで一回りデカくなるぜ」
 たけしさんの言葉を聞いたラッシャーの目には光るものがあった。
「テレビで言えないのが残念だけど」
 たけしさんはそう言うと、ラッシャーのことを見て優しく笑った。

この話を読んで、僕も目頭が熱くなりました。
日頃どんなに優しい態度をとっている人でも、実際に自分の身に火の粉が降りかかってくるかもしれない状況では、豹変することが珍しくありません。
むしろそれが「普通の反応」でしょう。
ところが、ビートたけしという人は、こういうときにも、微動だにしません。
ああ、こういう人だから、ある意味命がけで、軍団はついていったのだなあ、と。



その一方で、「軍団」は見かけほどラクじゃない(って、『お笑いウルトラクイズ』とかを観ていると、どう考えてもラクには見えませんせんね……)というのもわかります。
たけしさんも「完璧な人間」ではなくて、理不尽なところや、気まぐれなところもあったりするんですよね。


たけしさんの運転手をやっていた、つまみ枝豆さんは、タカさんとの対談で、こんな話をされています。

つまみ枝豆眠いから帰りたいけど、帰らせてもらえないこともあるしね。あるとき、たけしさんを送っていったら、「おもしろいビデオがあるから見てくか、お前」って言われて、「眠いから帰ります」とも言えなくてさ。
「『ターミネーター』っていう映画が、すっげーおもしろいんだよ!」って言われて、眠くてしょうがないのに最後まで見て。それで次の日も送っていったら、「おもしろいビデオがあるから見てくか? 『ターミネーター』がよ、おもしろいんだよ!」ってまた言われて。たけしさん酔っ払ってるから昨日見せたこと忘れちゃってるんだよね。でもそこで「見ました」とは言えないからまた見てさ。たけしさんは酔っ払って億のベッドで寝てるのに、俺はすっげー眠くてしょうがないのに寝ないで必死で見てた。それで俺、『ターミネーター』4回ぐらい見たもん。


ガダルカナル・タカそこでもし、たけしさんが寝てると思って見るのやめたら、突然起きてきて、「お前、なんで途中で帰るんだよ!」とか言われると怖いからね。あの人、平気でそういうことするから。


枝豆:ラッシャーは、「お前、これ勉強になるから見ろ!」って、『まんが日本の歴史』のビデオを10回ぐらい見たっていうから、それに比べたら俺はまだいいかも。

この「寝不足のなか、何度も『ターミネーター』を見なければならなかった話」には、思わず笑ってしまいました。
当事者のラッシャーさんは、かなりつらかったと思うのですが、それはそれでいまこうやってネタになっているのですから、結果的にはプラスになったといえなくもないですね。
それにしても、『まんが日本の歴史』10回は、かなりつらそうだ……


この本では、たけし軍団側からみた「フライデー襲撃事件」や「たけしさんのバイク事故」のときの話や、お笑いウルトラクイズの裏話も書かれています。
あの「フライデー襲撃事件」、リアルタイムで知ったときの僕は、「浮気したあげく、それを報道したマスコミに殴り込みだなんて、ひどい話だなあ……」と半ば呆れていたのですが、たけしさんの言い分をいま読んでみると、たしかに「フライデー側の行き過ぎた取材」にも問題があったように思われます。
とはいえ、みんなそんなに大怪我はしていないようですが、「殴り込み」という行為そのものは、やはり、認めがたいというか、認めてはいけないというか。
たけしさん自身もそんなことは百も承知だったのでしょうけど……

 取り調べ室に行く途中、大塚署の暗い廊下を歩いているとき、たけしさんはちょっと振り返るようにして俺らのほうをチラッと見ると、ボソッと小声で言った。
「悪かったな。お前らには感謝してるぜ…」
 後にも先にもたけしさんから感謝してるなんて言われたのは、そのときだけだ。そして、たけしさんは続けて、
「お前らのことは一生、面倒見るからよ」
 胸がジーンとなった。その言葉だけで俺らは全員、
「もう、どうなってもいい」
 本気でそう思った。

あのとき、そして、バイク事故のとき、「ビートたけしは終わった」と僕は思いました。
ところが、ビートたけしは、終わらなかった。


たけし軍団もなんのかんの言いながら、いまでも主要メンバーは芸能界のさまざまな場所で生きぬいているのですから、たけしさんは「眼力」と「人を育てる力」もすばらしかった、ということなのでしょう。

 ラッシャーがボーヤ時代、たけしさんの取材で横についていると、よくこんな質問をされたという。
「軍団さんはどうやって選ぶんですか?」
 そのときに、たけしさんは横にいるラッシャーのことを指して、
「特にこいつ見て。かわいそうな気するでしょ」
 そう言ったあと、
「絶対ダメでしょ。生きていけないよね、世の中で。そういうヤツ集めるのが俺、大好きなんだ!」
 それが、たけしさん流の俺らに対する優しさだ。隣でそれ聞いてたラッシャーはちょっと複雑な気持ちだったらしいけど。

 この本を読んでいると、たけしさん自身もまた寂しがり屋だったり、人と合わせるのが苦手だったりする「生きづらい人」なのかな、という気がするのです。
 「軍団」がビートたけしを必要としたように、ビートたけしにも「軍団」が必要だったのです、きっと。


 本当に「面白い本」ですし、こんな「生きる場所」があるのだというだけで、「世の中の生きづらさを笑い飛ばしてくれる」一冊だと思います。

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