琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

航空大革命 ☆☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
人と人との出会いこそすべての基本、今後20年間で旅客輸送量は2倍に、徹底したリストラと不採算路線の整理、顧客の上位2割が全収益の80%を、これからも増えそうな「マイルの奴隷」、今後10年で登場する新機種は?価格は、利便性は、どうなるのか?世界のエアライン10年後を大胆予測。

僕はもともと、「なんであんな鉄のかたまりが空を飛べるんだ?派」で、飛行機は苦手だったのですが、年齢とともに乗り物酔いもだいぶマシになってきたせいか、最近はけっこう好きなんですよね、飛行機。
他に何もできないから、けっこう本を読むのも、はかどるし。
以前は1年に一度乗るかどうかだったのですが、ここ数年は、年に3〜4回くらい利用するようになりました。


この数年、日本でも、LCC(ローコストキャリア(格安航空会社))が話題になっています。
今年(2012年)は、ピーチ、ジェットスター・ジャパンエアアジア・ジャパンと、3つのLCCが日本で周航し、日本の「LCC元年」とも呼ばれているそうです。
僕自身は、まだ一度もLCCに乗ったことがないのですが(そもそも、飛行機にそんなに高頻度に乗っているわけでもありませんから)、この新書では、これからの航空業界の10年についての著者の「見通し」が紹介されています。

 エアバスは2011年9月に最新の航空機市場予測「グローバルマーケット・フォーキャスト」と発表した。
 それによると、世界の空を飛ぶ旅客機は現在の1万5000機から、2030年までには3万1500機と2倍以上に増加。古くなった旧型機から環境効率の優れた新型機への入れ替え需要などから、新たに2万7800機が必要になるという(貨物機900機を含む)。金額にすると計3兆5000億米ドルという規模である。
 これらの数字の背景にあるのが、人々がこれまで以上に空の移動を必要とするという考え方だ。航空機による旅客輸送量(RPK=有償旅客キロ)は毎年、年間で平均4.8%ずつ増加し、今後20年間での旅客輸送量は2倍以上になる――そうエアバスは予測する。
 一方のボーイングが予測する数字も、これに近い。こちらは2010年6月に発表された調査結果だ。厳密にエアバスよりも数字は若干多めで、今後2030年までにデリバリーされる航空機は旅客型と貨物型を合わせて3万3500機。金額ベースで4兆米ドルと試算している。旅客輸送量の推移もエアバスの予想よりやや高く、年率で5.1%ずつ増加していく。今後20年間ではやはり倍増する計算だ。

 この10年、同時多発テロリーマン・ショックなど、さまざなま「逆風」が吹き荒れているように思われますし、JALの経営破綻のニュースを聞いていると、空の旅の需要は「頭打ち」なのではないかと僕はイメージしていたのですが、実際はそうでは無いようです。
 そもそも、わざわざ人間が飛行機で移動しなくても、インターネットでのやりとりで済むことが多くなったじゃないか、とも感じるのですが、実際は「人と人が直接コミュニケーションすること」の価値が、あらためて見直される面もあるのですね。
 確かに、大きな取り引きをするのであれば、いくらメールでやりとりをしても、「相手がどんな人間か」というのは、わからない気がします。
 「対面コミュニケーション」というのは、大事な取り引きであればあるほど、重視されてしかるべきなのでしょう。
 それに、中国やインドなどの経済発展+安く乗れるLCCが世界中に広まったことにより、これまで飛行機に乗らなかった、あるいは乗れなかった人たちが、新たな乗客となっていく、というのも、この先10年間の大きな変化になっていくようです。

 
 マレーシアに本部を置くLCCエアアジアグループを率いるトニー・ヘルナンデス氏は、航空業界に参入した2001年当時のことを、こんなふうに語っているそうです。

「われわれが航空業界に参入した当時は、マレーシアで飛行機に乗れるのは人口のわずか6%に過ぎなかった。だったら、残りの94%の人たちのために安い飛行機を飛ばせば、必ず大きなビジネスになる。そう確信したんだ」

この話を読んで、僕は、こんな話を思い出しました。

ある未開の地に2人の靴のセールスマンがやってきた。
原住民がみんな裸足であるのをみて、1人は、「誰も靴なんか履いてない。こんなところで靴が売れるわけがない」と嘆いたのに対して、もう1人は、「おお、まだ靴を履いていない人が、こんなにたくさんいる!ここは宝の山だ!」と驚喜した。

「経済力が低く、貧しい人が多いから、飛行機の需要はないだろう」
そんなふうに考えてしまいがちなのですが、見方を変えれば、「飛行機に安く乗れるようにすれば、需要を掘り起こせる」ということでもあったのです。


もちろん、著者の見方は、あまりにも「楽観的すぎる」のかもしれませんが、世界全体の流れからいえば、「まだまだ、飛行機の潜在的な乗客はたくさんいる」のは間違いないようです。
九州のハウステンボスなどの観光地でも、中国からの観光客をたくさん見かけるようになってきて、「中国は豊かになってきたのだなあ」と実感します。


LCCは「潜在的な需要にこたえる」だけではなく、就航地では、こんな変化も起こっているそうです。

 アジアの新興国に限らず、LCCが台頭した国・地域では旅行者の動向や人々の生活にきわめて顕著な変化が起きていることが実証されている。
 まず、それまではバスや船などで長時間かけて移動していたいわゆる低所得層の人たちが、格安チケットを手に入れることで飛行機を利用できるようになった。さらには、以前は旅行に出かける(飛行機を使う)動機にはならなかったような理由で、人々が移動を始めている。
 早くからLCCのネットワークが発達したヨーロッパでは、たとえば隣の国の腕のいい歯医者の治療を受けるために月に2回程度、国境を超えて通院している――そんな人たちが現れた。東欧諸国の温泉地には安い保養所が多く、イギリスやドイツなどからLCCを利用して気軽に訪れる人たちも増えている。コスタ・デル・ソル(太陽海岸)の玄関口をして知られるスペイン南部の街マラガでは、セカンドハウスの建築ブームが起こった。これもLCCの路線網が広がったことでヨーロッパの各都市からいつでも安く行き来できるようになり、別荘地としての価値が高まったからだ。
「新しいフレンチの店がオープンしたらしいから、週末にみんなで食べに行こうよ」
 そんなふうに申し合わせて簡単に他国へ飛んでいく若者グループも出て来てきている。ひと昔前では考えられなかったことだ。LCCはまさに、人々のライフスタイルそのものを変えてしまったといっていいだろう。

もともと用事がある人が、安く飛行機で移動できるだけでなく、安く飛行機に乗れることで、新たな需要が生まれる場合もあるんですね。
ここまで「グローバル化」が進んでしまうと、東欧諸国の安い保養所では、地元の人の居場所が無くなってしまうのではないか、というような不安を感じる面もあるのですけど。


この新書のなかでは、JALがはたしてきた歴史的な役割や、急速な「復活」にも触れられています。
2010年1月の経営破綻から、わずか2年半。
大規模なリストラや不採算路線からの撤退などにより、JALの収益性は、驚くほど改善しているようです。
(今年中には、再上場も検討されているのだとか)


ルフトハンザ航空の「ファーストクラス専用ターミナル」の話もすごかった。
専任コンシェルジュがいて、車で来れば帰国時まで駐車場でお預かり(ワックスがけつき)。
ターミナル内には、シャワールームを備えた個室もあり、搭乗時間が近づくと、コンシェルジュが声をかけにきてくれます。
搭乗機へは、メルセデスのSクラスかポルシェ・カイエンで飛行機のすぐ下まで送迎。
世の中には、こんな世界もあるんですね……


「ひたすらコストカットをして安く」のLCCが伸びてきている一方で、既存のキャリアは、「快適な空の旅のためなら、金に糸目は付けない」という顧客の囲い込みを行ってきているのです。

 ビジネスクラス1人分で、エコノミークラス4人分に匹敵します」
 ある大手エアラインの幹部は、一般的な航空会社の収益構造についてそう説明してくれた。
 エコノミー運賃の低下が進めば、経営における上級クラスの重要性はより高まる。大手にとって低運賃勝負には限界があるとすれば、サービスがよければ高い料金を喜んで払ってくれる層をターゲットとするのは当然の流れだろう。一方で、全収益の20%しか生み出さない残る8割の層をターゲットに、徹底した低コスト化で十分に利益を出しているのがLCCなのだ。

 こういう話を聞くと、「ビジネスクラスがあのくらいサービスされているのも、当然だよな……」という気もしてきますね。
 ああいう人たちがいてくれるから、僕たちが安く飛行機に乗れるという面もあるわけで。
 少なくとも「4分の1しかサービスしてもらってない」という感じではないですし。


 あと、僕も気になっていた、というか一度は乗ってみたいと思っている、新機種・ボーイング787の話も興味深いものでした。
ボーイング787は、「新しくて、乗り心地の良い飛行機」というだけではなく、LCCと「棲み分け」(「競争」というより、まさに「棲み分け」)していくための「武器」でもあったのです。


 ボーイング787は、機体全重量の50%以上がカーボンファイバーをベースにした複合材でつくられており(従来はアルミ合金(ジュラルミン)を使用)、同じサイズの中型機よりも燃費が20%も改善されているそうです。
 中型機でありながら、ボーイング747−700や777と同じくらいの長距離のフライトが可能で、同じ距離ならより多くの重量を、同じ重量であれば、より長い距離を運航することができます。

 米国シアトルの郊外にあるボーイングのエバレット工場で会った同社の幹部は、787の”戦略性”について私にこう説明してくれた。
「長い距離を飛ばすには大量の燃料が必要なため、大型機を使うというのが条件になります。だからこれまで10時間を超える長距離路線では、大型機の350とか400ある座席が常に埋まるような高い需要がないとビジネスとして成立しませんでした。しかし、たとえば787のキャビンをビジネス席を中心にレイアウトすると、150〜200席程度の構成になります。787はそれくらいの乗客数で長距離を飛ばしても、燃費がよくてコストを抑えられるから十分にペイできる。つまり787を使用することで、従来は不可能だったいろんな路線への就航が可能になります。エアラインビジネスは今後、787の登場で間違いなく変わっていきますよ」

 787は、「よりきめ細かい路線選択をユーザーに提供するための飛行機」でもあるのです。
 なんのかんのいっても、煩雑な乗り換えよりは、直通便のほうが圧倒的に便利ですし。
 その一方で、エアバスはゴージャスな超大型機A380を開発し、輸送効率と乗客の「特別な体験」を提供しようとしています。
 ここでもまた、「大手機体メーカーどうしの棲み分け」が行われているのです。
(ただし、ボーイングエアバスも、それぞれ、中型機や大型機も開発しています)


 飛行機関連では、閑散とした地方空港とか、アジアの「ハブ空港」が、日本からシンガポールや韓国の空港に移ってきていることなど、なんだか景気の悪い話ばかりの印象があったのですが、今後も希望が持てる業界なのだなあ、と感じる一冊でした。
 ボーイング787、僕も一度乗ってみたいなあ。
「乗り心地も素晴らしくて、揺れないし、耳も痛くならないので飛行機に乗っている気がしない」そうですよ。

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