琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】超<集客力>革命 ☆☆☆☆


内容紹介
美術館に人を呼ぶために、外観を変え、最寄りの駅名を変え、多数のイベントを企画。集客のために死力を注ぐ"美術館界の革命児"が教える集客のマジック。

 金沢21世紀美術館の初代館長として、年間入場者130万人を超える大成功をもたらした著者による「美術館に人を集める方法」。
 サザビーズへの転職を経て、現在は、兵庫県立美術館の館長に就いておられるそうです。

 
 著者の「美術館に人を集めること」へのこだわりに、僕は驚かされました。
 美術館の館長なんて、「いい作品を集めて、好きな人が見に来ればいい」なんて、鷹揚に構えている人ばかりだと思っていたから。
 まるで「優秀な営業マン」みたいです。

「今日の入場者数は何人?」
 私は一日一度は必ず入場者数を確認することにしている。館に出勤している日はもちろん、出張先からも必ず一日に一度は電話を入れて確認する。
 漫然と入場者数を気にしているのではない。年間入場者数の目標を立て、そのためにクリアしなければならない一日あたりの入場者数を意識しているのだ。
 2011年度の兵庫県立美術館の年間入場者数の目標は約80万人。2013年度は100万人をめざしている。
 そこで入場者数が少ないときに対策を打たなくてはならない。まず、テレビや新聞で取り上げてもらえるように広報が声をかける。私自身が電話をかけることもある。もちろん、ただ、「取り上げてください」では取り上げてはくれない。ニュースになるようなネタをこちらで用意しておくことが大切だ。著名人に観覧してもらったり、イベントを増やすことも検討する。お金をかけずにどんなイベントができるか、知恵を絞るのである。
 ニュースづくり、イベント企画はスタッフみんなで考える。とくに展覧会を担当する学芸員には中心になってもらう。そこで私は展覧会を企画した学芸員に、毎日、展覧会場へ行くようにと言っている。お客さまがどんな顔をして作品を見ているかを自分の目で見てほしいからだ。お客さまが何か困っていることはないか、満足しているかということも気にかけてほしい。


 展覧会にたくさんの人を集めるためには、こんな「工夫」もあったそうです。

 展覧会を「当てる」ためにもっと工夫すべきだと思っているのが展覧会のタイトルだ。
 タイトルがつまらなければ、どんなに内容がよくても、そのよさの片鱗さえ伝えられない。面白さが伝わらなければ、見に行きたいと思ってもらうことは難しい。
 2010年に兵庫県立美術館で開かれた「麗子登場!!―名画100年・美の競演」はタイトルが人を惹きつけた好例だ。つけたのは兵庫県立美術館の担当学芸員だが、「麗子登場!!」とはよくつけたと思う。


(中略)


 展覧会の目玉はタイトルにおある「麗子象」。誰もが美術の教科書で知っている、岸田劉生の作品だ。「麗子像」は、神奈川県立近代美術館のコレクションにもともとあるもので、この展覧会のためにどこかから借りてきたわけではない。しかし、「麗子像」が「登場」する、という表現には、この展覧会自体がニュースであるかのような新鮮さがある。集客から見ても、お客さまも通常のコレクション展としては異例の観客動員数となった。
 美術にもともと興味を持っている人と、美術に特別な興味は持っていないけれど、たまには美術館にも行ってみたいという人の知識や意識の差は相当に大きい。展覧会のPRの難しさは、そのどちらにも届くようなタイトルや、仕掛けを容易しなくてはならないことだ。美術ファン寄りにすると小難しくなる。一般向けにしすぎると展覧会の内容とのギャップが大きくなってしまう。その二つのバランスをどう取るかが難しい。
「麗子登場!!―名画100年・美の競演」は、タイトルに華やかさとユーモアがあって、興味を惹く。内容と乖離もしていない。なんだか面白そうだ――そんな期待をかきたてる。
 展覧会のタイトルも、観客とのコミュニケーションの重要なポイントなのだ。

「展覧会のタイトル」といえば、「○○の画家・××展」みたいなものばかりだというイメージがあるのですが、この「麗子登場!!」には、たしかにインパクトがありますね。
こち亀』かと思いましたけど。
たしかに、同じ内容の展覧会でも、タイトルによって、受けるイメージや「集客」は違ってきそうです。
「麗子像」っていうのは、ちょっと怖い感じがする作品なので、「登場!!」っていうのもうまくイメージをとらえていますし。
しかしこのタイトル、展覧会としてはかなり「異質」ですから、よく採用したものだよなあ。


この新書のなかで、美術館ファンにもっとも有用なのは、第5章の「世界の美術館ベスト10」と、第6章の「お手本にしたい『小さいが魅力的な美術館』」だと思います。
とくに、長年たくさんの美術館をみて、つくってきた著者が選んだ「小さいが魅力的な美術館」は、行ってみたくなるところばかりです。
しかし、紹介されている美術館は欧米のものばかりで、「美術館文化」は、いまのところ、欧米が圧倒的に優位なのだなあ、と寂しくなるのも事実なんですよね。


ちなみに著者が選んだ「世界のトップ美術館ベスト10+1」は、以下の通り(順不同)。

ルーブル美術館(パリ)
大英博物館(ロンドン)
プラド美術館マドリッド
メトロポリタン美術館(ニューヨーク)
ポンピドゥー・センター(パリ)
テート・モダン(ロンドン)
ボストン美術館(ボストン)
シカゴ美術館(シカゴ)
ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン)
ニューヨーク近代美術館(ニューヨーク)
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)


著者は、「アートにふれること」が人間を豊かにするということの一例として、こんな話を紹介しています。

 子どもたちに美術館で学んでほしい。その一方で、教育の場にももっと個性的な建築デザインが導入されてもいいのではないかと私は思っている。学校の校舎を個性的にすることは、子どもたちの意識を変えるきっかけになるはずだからだ。
 これは私だけの考えではない。石川県加賀市にある市立錦城中学は安藤忠雄さんが設計を手掛けている。市長が安藤建築の大ファンだったことから依頼があったという。
 この学校の建築デザインはすばらしい。安藤さんといえばコンクリート建築で有名だが、この学校は加賀市の木材で造られている。舟のかたちをした建物は、一見、学校とは思えないほどユニークだ。
 校長に話を聞いたところ、安藤さんの新校舎になってから、生徒たちが変わったという。旧校舎時代には、校内で生徒同士のいざこざがあったり、窓ガラスが壊されたりと、いわゆる「荒れた」時期もあったそうだが、新校舎になってまったくそういうことがなくなったという。
 どこにでもある同じような没個性の四角い箱の校舎ではなく、世界に一つ、どこにも例がない学校に通っているということは生徒にとっても誇りが持てることだと思う。学校を愛することができれば、自然と校舎を大切にする。建築表現の多様さを体現した空間のなかで感性に刺激を受けながら勉強できるとは、なんと幸せなことなのだろうか。安藤さんは錦城中学のほかにも伊東市の野間自由幼稚園など、教育環境に関わる設計にも積極的だ。

僕も「安藤忠雄さんの校舎になって、荒れなくなった子どもたち」の気持ちが、わかるような気がします。
環境が、デザインが、人を変えることって、やっぱりあるのだと思うのです。
もちろん、「それですべてが解決する」というほど簡単ではないのだろうけれども。


美術館好きは、読んでみて損はしない新書だと思います。
日本の美術館にも、もっともっと人が来るようになってほしい、そして、素晴らしい作品をナマで見られるようになってほしいと願っています。
(あんまり混むのも、それはそれで辛いんですけどね)


 以下は余談です。
 僕が住んでいる九州の大宰府に「九州国立博物館」というのがあるのですが、ここは開館当初は、「太宰府天満宮にお参りに来た人も、気づかずにスルーしてしまう」ような施設でした。
 ところが最近は、『阿修羅展』『ゴッホ展』などの、いままで九州まで来ることはなかった、大きな展覧会が行われるようになって、たくさんの人でにぎわっています。
 この秋には、フェルメールの『真珠の首飾りの少女』もやってくるのだとか。
 美術館って、同じ「ハコ」でも、そこで働いている人たちの頑張りで、こんなに存在感を増すことができるのだなあ、と嬉しく感じています。
  

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