- 作者: 吉田豪
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2014/11/07
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (17件) を見る
内容紹介
「サブカル男は40歳を超えると鬱になる、って本当!?」プロインタビュアー吉田豪が、そんなテーマに沿って、リリー・フランキーをはじめ、大槻ケンヂ、みうらじゅん、松尾スズキなどのメンバー(ほか、川勝正幸、杉作J太郎、菊地成孔、ECD、枡野浩一、唐沢俊一)に全力インタビュー! クイック・ジャパン誌上で『不惑のサブカルロード』 と題 して連載されたものに、精神科医にしてサブカル者である香山リカへの新規インタビューや、吉田豪自身の補稿もくわえての書籍化。イラストは、『プロレススーパースター列伝』『男の星座』の原田久仁信。
「サブカル男の40歳」かあ……
僕はまさに「その時期」だけに、けっこう身につまされながら読みました。
いやもちろん、ここに登場してくる「スーパースター」たちに比べると、僕のサブカル度なんて、微々なるものではありますけど。
この本を読んでいると、男にとって「40歳」というのは、ひとつターニングポイントになる年齢なんだな、と痛感します。
僕自身も、日々それを思い知らされていますし。
唐沢俊一さんとの対談のなかで、こんな話が出てきます。
吉田豪:結局、サブカルの鬱的なものってなんだろうと考えたときに、体力的な問題が一番大きいのは確実ですけど、40代になって外的要因が増えるなっていう気がしたんですよ。それは、離婚だとか両親の病気だとかそういうことで。
唐沢俊一:そういう意味では、母親と半同居(マンションでの隣同士)になって、朝夕一緒にメシを食うという、あれがいけなかったな。うちは夫婦同業だから、それまでは起きたときから寝るまで、完全に”サブカルギョーカイジン”でいられたわけ。メシ食いながら、資料の死体ビデオとか見ていたわけですよ、夫婦して(笑)。ところが、母親と一緒のときは常識的社会人に戻らないといけない。あのスイッチングが凄く体力的につらいのね。
吉田豪:日常が地味なダメージになるわけですね。
唐沢俊一:サブカルチャー畑の人ってのは、完全に一般社会とは常識を異にした異端の世界の淵に自分を追い込んで、それを商品にして食ってくものなんですよ。それが、母親と向き合うときには親戚のガキが進学したとか病気になったとかいう話に合わせなければいけない。ウチの弟なんかはギャグの矛先を鈍らせないために、親戚付き合いとかは一切断ってるぐらいなのに(笑)。
この本の大きなテーマとして、「なぜ、非体育会系のサブカル男は40歳くらいで鬱になるのか?」というのがあるのですが、まず共通しているのが「体力の低下」。
体育会系のような「基礎体力」が無いので、体力の低下をかなり急激に実感することになり、それがいろんな「抵抗力」を落としていく。
そして、これは「サブカル男子」にかぎったことではないのですが、40代というのは、たしかに「外的な変化」が大きい時期ではあります。
子供の教育とか親の病気とか……
子供がいない時期は結婚していても、なんとなく「お互いの領分」みたいなものを尊重して生活していけるのだけれど、夜中にどんなマニアックなDVDを観ていても、子供が泣きだしたら、すぐに「スイッチを入れ替えて」駆けつけなければなりません。
親やご近所との世間話もこなさなければならない。
そういうのは、たしかに「幸福」ではあるのだけれど、ストレスといえば、まちがいなくストレスではあるわけで。
「大人としてあたりまえのこと」なんですよね、こういうのって。
でも、「あたりまえのことをあたりまえにやる」って、けっこう大変。
ましてや、この人たちは、それで突き抜けて食べていかなければならないのだから。
離婚経験者が多いものなあ、この本に出てくる人たちには。
この対談集を読んでいると、サブカル男たちの「救われなさ」を感じずにはいられません。
桝野浩一さんの回から。
桝野浩一:でも、リリー・フランキーさんや松尾スズキさんみたいにお金があっても憂鬱になるのかと思うと……。
吉田豪:サブカルは成功した人たちがみんな病んでるからこそ、切ないジャンルなんですよね。
桝野:たとえば本がまったく売れなかった時期のほうが、いつかは売れるかと思ってたから幸せで、半端に売れて「あ、こんなものか」と思ったときに、たぶん能力的にこれ以上にはならないから、ホントに希望が持てなくなっちゃって。
「成功」しなければ地獄、「成功」したとしても、なんだか満たされない……
もともと「考えすぎてしまう人たち」なのでしょうね……
この本の紅一点、香山リカさんとの対談では、こんな話が印象的でした。
吉田豪:リリー(・フランキー)さんがブレイクした頃に心を病んじゃったのもそうですけど、呑気でいられない体質なんでしょうね、文化系の人は。
香山リカ:ああ、そういう意味では、それこそ昔のプロレスラーじゃないけど、お金が入ったからキャデラック買うみたいな、それも違うんですね。
吉田豪:ただ天狗になる、みたいなことができない人たちっていうか。そうなったことで余計に人の目が気になったりして。
香山:許されるのか、みたいなね。やっぱり厳罰意識じゃないけど、自分は許されない、みたいな気持ちがすごく強い人たちかなと思って。
売れずに鬱屈し、売れても天狗になれず。
天狗になっている人をバカにしながら、そういう豪快な振る舞いができない自分にコンプレックスを感じてしまう。
ああ、そういうのって、なんだかわかるなあ。
結局、どこに行っても、幸せになれない性質なのか……
ちなみに、町山智浩さんのこんな言葉を香山さんが紹介しています。
町山智浩:「サブカルの人たちが40歳ぐらいでおかしくなるのは簡単だよ。もともとモテなくて早めに結婚して生活を支えてくれた女性がいたのに、モテだしたらほかの女に手を出して家庭が壊れるの。みんなそうだよ!」
正直言って、読むとなにか役に立つという本ではありません。
僕にとっては、あまりに年齢的にリアルすぎて、「じゃあ、どうすればいいんだよ……」と、かえって、ぐったりするようなところもありました。
年を取らないわけにはいかないのだから。
「運動しなくちゃなあ!」とは切実に思いましたけど。
でもまあ、「この人たちも、みんな大変なんだなあ」ということは伝わってきますし、いろんな人の「鬱的なものとのつきあいかた」を知っておくことは、悪いことじゃないですよね。
ところで、これを読んでいて、ちょっと驚いたのが、松尾スズキさんの回での、こんな話でした。
松尾スズキ:でもね、40歳を過ぎると、ものを書いたりしてる人って結構厳しい状況に立ってるでしょ。出版不況で先が見えないところもあるし、ライターっていう職業がいまちょっと不安ですよね。コラムニストって職業も成立しないでしょ。俺もプロフィールからコラムニスト取らなきゃいけないと思ってるんですよ。いまはその不安をウェブがあるってことでうやむやにしてるけど、怖いは怖いよね。
吉田豪:ボクも表面的な露出が増えてるから好調に見えるけど、収入は減ってますからね。
これ、2010年10月のインタビューなのですが、ずっと上昇気流にのっているようにみえる吉田豪さんでさえ、収入が減っているとは……
出版不況は、本当に深刻なんだなあ、とあらためて思い知らされました。