琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

るろうに剣心 ☆☆☆☆



あらすじ: 幕末から明治になり、かつて「人斬(き)り抜刀斎」として恐れられた剣客・緋村剣心佐藤健)は「不殺(ころさず)」の誓いのもと流浪人となっていた。流浪の旅の途中、剣心は神谷道場の師範代・薫(武井咲)を助けたことから、薫のところで居候することに。一方、街では「抜刀斎」を名乗る人物による人斬(き)り事件が発生しており……。

参考リンク:映画『るろうに剣心』公式サイト


2012年24本目の劇場鑑賞作品。
20時からのレイトショーで、観客は20人くらいでした。
この映画館の平日の夜としては、まずまずの入り。


週刊少年ジャンプ』連載中からリアルタイムで読んでいて、コミックスも持っている僕としては、『るろうに剣心』が実写映画化されるという話を聞いて、「ああ、ネタ映画の歴史が、また1ページ……」と思っていました。
ところが、この映画、公開されてみるとけっこう評判が良くて。
まあ、話のタネに、という感じで観てみたのですが……


実写化されたのを目の当たりにしてみると、どうして今まで、『るろうに剣心』って、実写映画化されなかったんだろう?
逆にそれが疑問になってしまうくらい、「良い実写映画化」だったと思います。
そうだよね、たしかに『剣心』って、これまで培われてきた時代劇や明治維新もののフォーマットを活かせるし、巨大ロボットとかも出てこないのだから、『デビルマン』よりも、よっぽど「実写化しやすい」はずなのに。


とはいえ、この映画のデキの良さを支えているのは、そういう「時代劇の経験」だけではなく、キャストの魅力が大きい。
剣心役の佐藤健さんと神谷薫役の武井咲さんの「まだ色がついていない、瑞々しさ」みたいなのがすごくいい感じなんですよ。
こういう名作マンガの実写化って、「原作と違う!」というのがどうしても先に立ってしまいがちなのだけれども、この映画は、「おおっ、剣心が『おろ?』って言った!」とか、そういう細かいところが、すごく観ていてすごく嬉しくなってしまう。


香川照之さんの武田観柳は、「うわ、また『いかにも香川照之がやりそうな(香川照之しかやらなさそうな)役攻撃』だ!」と苦笑してしまったし、ややオーバーアクトなのでは、と感じたのですが、よく考えてみると、『るろうに剣心』っていうのは、「フリークス」の敵キャラが少年誌とは思えないくらい出てくるマンガなんですよね。
映画になって、急に「きれいな話」になってしまうほうが、かえって興ざめだったかもしれません。


剣心の内心の葛藤とか、剣を握りながら、「不殺」を貫こうとする矛盾とかがしっかり描かれていたのも好感度が高かった。
いやほんと、実写でみていると、「不殺」ってまどろっこしいというか、「そんな連中、もうぶっ殺しちゃったほうがいいんじゃないの?」とか思えてくるんですよ。
「目の前の人を殺める」痛みと、「殺さなかったばかりに、かえって無辜の犠牲者を増やしてしまうこともある」という現実と。
『剣心』って、悪い連中が、そう簡単には「改心」しない作品だからさ。
そういう「非ジャンプ的な世界観」が、『剣心』の魅力だったんだけど、剣心や薫の「見かけ」だけじゃなくて、そういう「残酷さ」「フリークスの世界」を尊重してくれた制作陣は素晴らしい。


あと、殺陣のシーンもかなり良質です。
動きのスピード感や迫力も素晴らしいのですが、剣心をはじめとして、剣士たちが立っているときの「佇まい」が良いんですよ。
必殺技が地味っていえば地味なのが残念かも。


これはたしかに「原作ファンも納得できる映画化」だと思います。
原作に対する「敬意」が感じられるんだよなあ。
ただ、ストーリー的には、けっこう途中のプロセスを丁寧に描いているため、「スケールが小さい」「敵も少ない」ような気はします。
でも、この映画の場合は「壮大ストーリーを早送りで説明する」よりも、「物語は小さく、短くても、剣心という人間の成り立ちの説明に時間をかける」ことを選んだのは、大正解ではないかと。


細かいところに違和感はあるのですが、これはまぎれもなく『るろうに剣心』です。
「大人の学芸会として面白い」のではなく、「原作の世界に入り込める喜び」


原作ファンも、原作をよく知らない人も楽しめる、良質の「人気マンガの映画化」だと思います。
これは続編「あり」だよなあ。

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