琥珀色の戯言

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【読書感想】AKB48白熱論争 ☆☆☆☆


AKB48白熱論争 (幻冬舎新書)

AKB48白熱論争 (幻冬舎新書)

内容紹介
人はみな、誰かを推すために生きている! !
なぜAKB48だけが、売れ続けるのか? ――4人の論客が語り尽くした現代日本論。


人が人を「推す」とはどういうことか? なぜ、今それをせずにはいられないのか? 日本のエンタテインメント史上、特異な「総選挙」という娯楽・消費行動を通じて、すべてのメディアを席巻する存在となったAKB48。まさに大衆の願望がAKB48を生み出したと言えるのだ。「あえて」ではなく「マジで」ハマった4人の男性論客が、AKB48そのものの魅力を語り合い、現象を分析することで、日本人の巨大な無意識を読み解き、日本の公共性と未来を浮き彫りにした稀有な現代日本論。


著者について
小林よしのり 1953年、福岡県生まれ。漫画家。ゴーマニズム宣言『戦争論』『昭和天皇論』『反TPP論』などがある。
中森明夫 1960年、三重県生まれ。ライター、エディター、プロデューサー。著書に『アナーキー・イン・ザ・JP』『アイドルにっぽん』などがある。
宇野常寛 1978年、青森県生まれ。評論家。著書に『リトル・ピープルの時代』などがある。
濱野智史 1980年、東京生まれ、社会学者・批評家。著書に『アーキテクチャの生態系』、共著書に『希望論』(宇野常寛氏との)『情報社会の倫理と設計』〈倫理篇〉〈設計篇〉(ともに東浩紀氏との)がある。


いい年したオッサンたちが、自分の論壇での影響力を駆使して、若いアイドルたちとお近づきになり、いい気になってそれを「文化」にように語り散らす本。
……正直、そういう先入観を持って読み始めました。
それは、半分当たっていて、半分外れていたのですけど。


うーん、僕自身はAKB48がそんなに好きでも嫌いでもないんですよね。
でも、総選挙とか前田敦子さんの引退とか、ドキュメンタリーDVDとか「現象としてのAKB」にはすごく興味があるし、かわいい女の子をみると「眼福だな」とは思うのです。
実際に顔をみて判別できるのは、前田敦子さんの卒業後は大島優子さんと柏木由紀さん、そして指原さん、篠田麻里子さんくらいです。

中森明夫僕は、もしかしたらAKBは「反戦後日本」もしくは「反時代的」な存在ではないかと思ったんです。そこで言う時代とは、古市憲寿が言う「絶望の国の幸福な若者たち」に代表される現状ですよ。力量を試されることもなく、そこそこうまくやれるのが今の時代でしょう。昨今、よく議論されているベーシックインカムも、まさに「勝負しない仕組み」ですよね。ところがAKBはそんな時代の方向性とは逆に、すべてを晒されて勝ち負けを判定される。そういう圧倒的な反時代性があるからこそ、これだけ熱狂的に支持されるわけですよ。では、なぜ彼女たちは裁判にかけられ、国民の前で公開処刑されるのか。これはある意味、罰を受けているんです。何についての罪を問われているのかといえば、それは「夢」を持つことに対する罰だと思う。


小林よしのりすごい話になってきたね。


中森:今の世の中では、夢を持つことが許されないわけですよ。大人は「夢を持て」と言うけれど、いざ若者が夢を語り出すと「現実を見ろ」と言う。ツイッターノマド系の連中の愚痴を見ると、実にそんな話が多い。実際、今はみんな公務員や終身雇用の会社で働きたいと思っていて、夢なんかない。ところがAKBの子たちは、明らかに現在の日本の許容度を超えた夢を持っている。それに対する罰ですよ。


僕は、AKB48とそれを応援している人たちをみていて、ずっと疑問だったのです。
AKBって、基本的に「人気至上主義」だし、体育会系じゃないですか。
競争といっても、メディアに露出しまくっているメンバーと、コアなファン以外は名前も知らないようなメンバーが「総選挙」で「公正に」戦っている。
ネットでは、「競争することに疲れた」という声が溢れているのに、AKBに「総選挙なんて、順番をつけるなんて、かわいそうだからやめようよ」という人は、ほとんどいない。
むしろ、「競争があるから、AKBなのだ」。


みんなは、AKBに「夢を託している」のだろうか、それとも、「自分は競争するのが怖いから、かわりに彼女たちに競争してもらっている」のだろうか?

小林:たとえば選挙のあり方についても考えさせるよね。現実の政治は「チルドレン選挙」になっていて、そのとき風が吹いている小泉や小沢や橋下にすり寄れば当選しちゃう。でもAKBの選挙は、みんながメンバーの活動ぶりを1年間見た上で、誰がいいかを決めるわけでしょ。こっちのほうがよほど健全だよ。


中森:しかも選挙の投票はタダじゃん。納税義務を怠ったって投票権は剥奪されない。こっちは汗水垂らして稼いだお金で一人何枚も買って投票するんだから、価値が全然違うよね。さらに言えば、政治家の選挙は組織で支持する候補者が決まっていたりする。自分の意思とは関係なく投票する連中が大勢いるんだ。


小林:こっちは個人の意思だからな。


濱野智史そうなんですよ。こっちのほうがよっぽどピュアで「清い1票」なんですよ。金で買える票のほうがピュアな本気が込められてしまう。そのとんでもない逆説に、民主主義を大事に信じている人たちはもっと驚いたほうがいいですよ。本当に。


小林:だからAKBのメンバーも、自分の1年間を真剣に評価されると感じている。


中森:だからこそ「処刑」と良い宅なるぐらい過酷なんですよ。ダメだったときの顔で、その本気度がわかる。政治家は、落ちようが受かろうが、彼女たちみたいな顔にはならないですよ。

こんな話を読むと、結局のところ、AKBというのは、今の世の中では数少ない「本気で闘っている人たちを見ることができる場所」なのかもしれないな、と思うんですよ。
もはや、政治すら、「流行の人につく」ことだけが「生存戦略」になっているのだけれど、AKBというのは、いろんな人たちが、いろんな武器を使って、みんなに本気でアピールしようとしているから。
でも、「そんなふうにガチンコで勝負させる」ということに対して、世間は意外と反発しない。
結局、「自分以外のところ」での真剣勝負は、けっこうみんな好きなんですよね。

宇野:そう。本当に「推す」って何だろうと最近すごく考えるんですよ。結局「推す」っていうことがないと、今は社会って成り立たないんじゃないかと思う。要するにこれは自分とは何の利害関係もない人を、それどころか関わりすらない人を応援するってことんんです。だから責任も伴わないし、お金で買えるものです。けれど、そういう想像力がないと社会は成り立たない。今までの社会をまとめてきた物語の力はどんどん弱くなっているわけでしょう? だとすると、僕は「推す」という今までの近代社会ではあまり注目されてこなかった人間の心理に根差した公共性のようなものを考えるしかないと思うんです。


濱野:それって社会性の根源だよね。いままで近代社会は個人一人ひとりが責任を持った主体としてしっかり自立するっていうのが大事だと思われてきたけど、そうじゃないんじゃないかってことだよね。

宇野:中途半端にアイドルが好きな人は、AKBのことを「おニャン子モー娘。の再生産」と言うんだけど、これはもっとも愚かなAKB分析だと思います。おニャン子からモー娘。までは、中森さんがおっしゃるようにフェイク・ドキュメンタリーなんですよ。マスメディア=テレビ番組の中で「半分だけ楽屋を見せる」ことで、「これは作り込んでいない、本物ですよ」というサインとして機能させる。これはテレビというマスメディアの性質に強く依存していた。作り手の繊細なコントロールの下で、楽屋裏をちょっとだけ見せる。その「ちょっと」の加減がポイントだった。
 でも秋元康は、明らかにそれをAKBでは捨てている。もう「フェイク」じゃなくていいんです。単に毎日劇場で公演して、Google+を更新させることで女の子の生の姿をひたすら見せればいい。「ダダ漏れ」でいいんです。あとは劇場に通うヲタたちがその感想をソーシャルメディアに吐き出すことで、勝手に盛り上がっていく。で、そのヲタたちの反応の中で面白いものを秋元康がピックアップして、ネタにする。マスメディアを介さない、ソーシャルメディア前提の新しいファンとアイドルの関係を作っちゃったんです。これはかなり革命的なことで、それがAKBの成功要因だし、本質だと思うんですよ。おニャン子モー娘。と同列に語る人は、そこがわかっていない。


この新書のなかで、AKBにハマった文化人たちは、こんなふうに論じています。
いわく、「推す」というのは新しい公共性のあらわれなのだ。
いわく、「ダダ漏れ」だから、AKBは成功したのだ。


僕は彼らの「批評」に「こんな考え方もあるんだなあ」と感心しました。
でも、なんというか、これはやっぱり、「AKBで儲けている側の分析」なのではないか、とも思うのです。
この新書だって、けっこう売れているみたいですしね(僕も買ったし)。


『タブーの正体!』(川端幹人著・ちくま新書)という本のなかに、こんな話が出てきます。

 ただ、ジャニーズ型であっても、バーニング型であっても、芸能プロダクションがタブーになる過程にはひとつの共通する構造がある。それは、彼らがメディアを組み込む形で強固な利益共同体を築き上げていることだ。その共同体に取り込まれた者は、そこから排除されることを恐れ、プロダクションに一切さからえなくなってしまう。
 こうした構造をとてもうまく利用しているのが、今、人気絶頂のアイドルユニット、AKB48だ。AKBのメディア対策は非常に特徴的で、芸能ゴシップを頻繁に掲載している週刊誌や実話誌など、本来は芸能人にとって天敵であるメディアに対して利権を積極的に分配し、自分たちの利益共同体に取り込む戦略をとっている。
 たとえば、密会写真スクープなどで芸能ゴシップの震源地となることが多い写真週刊誌『フライデー』では、「AKB友撮」という連載に加え、グラビアや袋とじ、付録ポスターという形で、毎号のようにAKBメンバーが登場。さらには、人気イベント「AKB選抜総選挙」の公式ガイドブックも同誌編集部で制作され、講談社から発売されている。
 もうひとつの写真週刊誌である『フラッシュ』も同様だ。「今週のAKB追っかけ隊ッ!」といった連載に加え、こちらは「じゃんけん選抜」の公式ガイドを出版している。
 普段はアイドルと縁遠い総合週刊誌でもさまざまなAKBがらみのプロジェクトが展開されている。『週刊朝日』は「AKB写真館」に続いて「AKBリレーインタビュー」と、長期にわたり連載を続けているし、『週刊ポスト』編集部と小学館は、2011年の公式カレンダーの制作と販売を任されている。
 他にも、『アサヒ芸能』のような実話誌から、「日刊ゲンダイ」「東京スポーツ」などの夕刊紙、さらには『BUBUKA』などの鬼畜系雑誌まで、それこそありとあらゆるメディアが、連載、グラビア、記事、写真集の発行といった形で、AKB人気の恩恵に預かっているのだ。
 AKBの連載をしている週刊誌の編集幹部がこんな本音を漏らす。
AKB48AKSという会社が運営しているんですが、ここに秋元康さんの弟がいて、雑誌対策をやっている。これまで芸能プロが相手にしなかったゴシップ週刊誌にもエサを与え、味方にするというのは彼の戦略ですね。ただ、それがわかっていても、我々としては乗らざるをえない。というのも、AKBが出ると、雑誌の売り上げが数千から一万部くらいアップする。雑誌が売れない時代にこれはすごく大きいんです」
 しかも、AKSの戦略が巧みなのは、AKBがらみの単行本や写真集などの出版権を、週刊誌発行元の出版社に与えるだけではなく、週刊誌の編集部を指名して制作させている点だ。このやり方だと、売り上げが編集部に計上されるため、編集部としてはますますAKBへの依存度が高まり、さからいづらくなる。
 実際、こうしたメディア対策が功を奏し、AKB48は今や、新たな芸能タブーのひとつに数えられるようになった。AKBにはメンバーの異性関係や運営会社・AKSの経営幹部の問題などさまざまなゴシップが囁かれているのだが、どの週刊誌もそれを報道しようとはしない。『週刊文春』『週刊新潮』だけは活字にしているが、AKBの利益共同体に組み込まれた他のメディアに無視され、完全に孤立している状態だ。


ここで秋元さんたちがやっていることは、別に「犯罪」ではないんです。
「いろんな雑誌に、AKBの記事を分散して載せている」だけのことだから。
でも、こんなふうにして「利益誘導」を行い、多くのメディアが「AKBだらけ」になっているという事実が、僕は怖い。
AKBで活動しているメンバーたちは、「ピュア」なのかもしれません。
ファンだって、「ピュア」なのかもしれない。
こんなに売れているAKBを認めないのは、ひねくれ者、ではあるのでしょう。


それでも僕は、こんなふうに「文化人」、あまつさえ「ゴーマニスト」なんて呼ばれ、世間の間違った常識に異を唱え続けて、風穴をあけようとしてきた人までが「AKB礼賛」の新書を出していて、「AKBがやってみせた、メディアコントロール」について言及しようともしないことに、不安を感じるんですよ。
「たかがアイドルの話」ではあるし、この新書にも出てきますが、AKBは被災地に10億円もの寄付をして、いまでも定期的に訪問し続けています。
AKB=悪じゃない。
でも、AKBの手法は、「悪用」される可能性が十分にあります。
そもそも、電力会社がメディアコントロールをしてきた手法が、まさにこの「利益誘導」だったのですから。
原発を批判すれば広告を出さないぞ」
「暴力的な圧力」ではなく、「利益を分配しないこと」で、(日本の)メディアは、コントロールできる。
この新書に出てくる4人の論客たちが、「こんな時代だから」ということで、「自分には責任がない、お金で買えるもの」を「推す」のが正しいというのは、時代を語る側の人間として、あまりに無責任ではないか、僕はそう感じています。
昭和の日本の人々は、「軍部推し」のつもりが、いつのまにか自分が徴兵され、戦地に送られてしまったのかもしれません。


率直に言うと、僕もAKB嫌いじゃないですよ。
テレビで歌っていれば、その曲が終わるまでチャンネルを替えないくらいには。
うちの息子も「あいたかった〜あいたかった〜」って、歌っています。


だからこそ、「AKB的な手法」に対しては、一石を投じておきたいのです。
AKBで儲けている人たちは、誰も「本当のこと」を教えてくれないから。
(まあ、こんな記事でアクセス稼ぎをしている僕だって、同じ穴の狢なのかもしれませんがね)


タブーの正体!: マスコミが「あのこと」に触れない理由 (ちくま新書)

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