琥珀色の戯言

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【読書感想】妻と別れたい男たち ☆☆☆


妻と別れたい男たち (集英社新書)

妻と別れたい男たち (集英社新書)

内容(「BOOK」データベースより)
本書は「離婚のススメ」や「離婚マニュアル」ではない。実際に別れるかどうかはともかく、ふと「別れたい」「ひとりになりたい」と思ってしまう男の心象にフォーカスした社会分析である。ベースとなるのは、首都圏一都三県在住の四〇〜六四歳の男性二〇〇〇人以上へのモニター調査。今まさに価値観の変化に直面しつつある男たちの、赤裸々な心の風景が浮かび上がる。ベストセラー『下流社会』で若い世代の現実を浮き彫りにした著者が、中高年男性のリアルに迫る。


扇情的なタイトルをみて、ついつい購入。
「離婚を考えている男性たちに取材したノンフィクション」なのかと思って買ったのですが、実際は「首都圏一都三県在住の四〇〜六四歳の男性二〇〇〇人以上へのモニター調査」の結果をまとめたものを新書化した、という感じです。
2000人というモニター数はそれなりの数だとは思うのですが、詳細に解析して「有意差」が出せる数なのかどうかは言及されていませんし、対象も「首都圏一都三県在住」ということで、統計学的にどのくらいの信憑性があるのかは微妙です。


この新書のなかで紹介されているデータのうち、「1998年から男性の自殺が急増」というのを見ると、とくに最近は「男にとって生きづらい時代」なのかなあ、という気がしてきます。

 警察庁の統計によって2010年の自殺の原因・動機を見ると、経済・生活問題が多い。男性では、総数23171件のうち、6711件が経済・生活問題であり、特に40〜50代の男性は経済・生活問題が最大の理由であり。対して、女性が経済・生活問題で自殺する数は727件のみである。
 また、健康問題が理由の自殺は、男性9181人、女性6621人である。女性は自殺の65%が健康問題なのである。

(ちなみに、女性の自殺者総数は1万人くらいで、男性の半数以下です)


とにかく、「男性にとっての生きづらさ」がいろいろ書かれている本なのですが、第一章の終わりには、「アンケート結果からみた離婚しやすい男性のまとめ」が書かれています。

離婚したいと思いやすい夫はこんな人
・自分の学歴が高卒以下
・自分の職業が自由業、自営業
・妻が結婚出産後も継続して働いている
・妻が自由業、自営業


離婚したいと言われやすい夫はこんな人
・自分の年収が300万円未満
・自分の学歴が高卒以下
・妻の年収が200万円以上
・妻が自由業、自営業

うーむ、それって、こんなにたくさん見づらいグラフや表を出して説明しなくても、みんなわかってることなんじゃないの?
もちろん、実際のデータを示すっていうのは大事なことなのですが、この新書の場合、Resultは書いてあっても、discussionに深みが無いんですよね。
そもそも、これを読んで、「じゃあ、離婚しないために大学に入り直すか!」ってわけにもいかないだろうしさ。


まあ、もちろんこういうのには「個人差」があって、学歴も収入もなくても、幸せに暮らしている夫婦はたくさんいると思うのですが、傾向としてはこんなもの、なんでしょうね。
著者によると「年収も学歴も低い人が離婚するのは当たり前すぎてニュースにもドラマにもならない。年収も学歴も高い人が離婚するからこそ、それが珍しいから、ニュースになりドラマにもなるのである」そうです。
やっぱり、「経済的なつながり」というのは、大事なのですよね。
医療業界は離婚率がけっこう高そうですし、「お互いが職を持っていて、それなりに収入がある」状況だと、それはそれで離婚しやすいというのもわかります。


「身も蓋もないことをわざわざ書かなくても……」という新書なのですが、著者が繰り返し述べている、「みんなが『男性化』している社会」というのは、とても印象的でした。

 つまり、男性は、もっと男性的に生きたいから離婚したいのではないし、離婚するのでもない。
 むしろ反対に、男性原理社会、すなわち、仕事ばかりの人生とか、収入や社会的地位が男性を測る基準になっている社会に対する違和感があり、そこから抜け出したいからこそ、離婚をしたいと思い、離婚をするのであり、また主夫になりたいと思うのではないかと解釈できるのではないだろうか。
 逆に言えば、男性社会の中で成功している男性、すなわち、学歴が高く、収入も高く、社会的地位も高く、専業主婦の妻(かつ専業主婦であることに満足している妻)を持っている男性は、主夫になりたいとはまず思わないということである。
 同じように、男性社会の中で成功した女性も専業主婦になりたいとは思わない。これは男性社会で成功した女性が、つまるところ社会的には男性になってしまっているからである。
 そういう意味で現代の社会は、一見女性の地位が向上しているようでありながら、実は男性原理がますます貫徹されている社会である。男性も女性も、学歴が高く、収入も高く、社会的地位も高いことが評価される社会だからである。

医療の世界というのは、比較的男女格差が少ないと言われているのですが、それは「差別が少ない」というよりは、「女性も男性的な価値観で働いている人が多い」からのような気がします。
「だから女医は……」という言葉は、同じ女性医師から発せられることが少なくないのです。
「男女平等」は「それぞれの生き方を尊重する」のではなくて、「男も女も、みんな公平に、男性的な生き方をして成功していいんだよ」という概念にすりかえられてしまっているのかもしれません。
「男なんだから、稼がなきゃいけない」っていうプレッシャーは、なんのかんの言っても、無くなってはいませんし……
まあ、僕の周囲の人の離婚理由を考えると、そんな社会的な要因よりも、相手選びや相性に問題があったのでは……というのが多いんですけどね。


正直なところ、「こんなこと、言われなくてもわかってるよ」と呟きたくなるのです。
逆に言えば「『お金じゃない』ってきれいごとを言う人は多いけれど、夫婦関係っていうのは、お金のような、かなり『現実的な要素』に左右されるものなのだな」ということを確認させてくれる本でもありますね。

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