琥珀色の戯言

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【読書感想】外資系の流儀 ☆☆☆


外資系の流儀 (新潮新書)

外資系の流儀 (新潮新書)

内容(「BOOK」データベースより)
どういう人が成功し、どういう人が失敗するか?上司に逆らうとどうなるか?なぜ人もオフィスもオシャレなのか?MBA取得を機に「ガイシ」の世界に飛び込んだ著者が、自らの経験と豊富な取材で外資系企業の実態と仕事術を徹底分析。「初日からフル稼働を覚悟すべし」「デブは論外」「自分で育て」「会社の悪口は言うな」等、過酷かつ魅力的な環境を生き抜くトップエグゼクティブやヘッドハンターが語る“鉄則”とは。


この新書、序盤はかなり感じ悪かったんですよね。
東大卒、NHKのディレクターから「海外志向」をおさえきれずにコロンビア大学に留学してMBAを取得し、ボストンコンサルティンググループ勤務のあと、他の外資系に転職経験もある著者。
ああ、この人頭いいんだなあ、エリートなんだなあ……と。
東大の卒業生の外資系志望が増えている、という話などを読んでいくと、この新書を僕が地方大学生時代に読んでいたら、なんか「貴族の家柄自慢を聞かされている野良犬」みたいな気分になって、壁に投げつけていたんじゃないか、とか考えてしまいます。
いや、おそらく日本の大部分の学生にとっては、「正社員で、ブラックじゃない企業になんとか就職したい!」というのが現実的な願いであって、マッキンゼーとかゴールドマン・サックスなんていうのは、勝間和代さんの本のなかにしか存在しない世界なんじゃないかな、と。


いきなりコンプレックス全開の内容で申し訳ない。
でもまあ、実際のところ「外資系で働く」というのは、日本人にとっては、「珍しい選択」であることは間違いないのです。

『2010年外資系企業動向調査』(経済産業省)によると、日本における外資系企業数は、全産業でおよそ3000社(調査に有効回答した操業中の会社数)。親会社の国籍別では、アメリカが最も多く900社(30%)、次いでドイツ、中国(香港含む)、オランダ、フランスと続く。
 従業員数で見てみると、外資系企業の常時従業員数はおよそ51万人(正社員37万5000人)。総務省統計局の『労働力調査』(2012年5月発表)によれば、日本国内の雇用者数は、5140万人(正社員3334万人)だから、日本で外資系企業で働いている人は、従業者数全体の1%しかいないことになる。

「従業者全体の1%」が外資系。
この数字をみて、こんなに少ないんだなあ、と僕は思ったのです。
ちなみに、外資系企業のなかで、売上高、従業員数がダントツなのはどこの会社かわかりますか?


圧倒的トップは『日産自動車』なのだそうです。
「日産」の名前のルーツは「日本産業」だそうですから、なんとも皮肉な話ではありますが。


僕は仕事柄、「(買収や合併で)いつの間にか外資系企業になってしまった製薬会社」の人と話をする機会があるのですが、みんな「大変ですよ〜」って言っています。
僕が接しているのは、「地方営業所の営業マン」的な人がほとんどなので、そんなに大きな変化はない場合も多いみたいなのですけど。


中盤から後半にかけては、「外資系企業の問題点」みたいな話がけっこう出てきて、「日本アナグマ」の僕としては、ちょっといい気分になれます。
外資系って、「オープンでみんながものを言いやすい雰囲気」とか「男女平等で、出産や育児に対しても福利厚生が充実している」なんていうイメージがあるのですが、実際は必ずしもそうではないようです。
トップダウン方式で、上司との相性で、干されたり低い勤務評価をつけられたりするなんてのは、日本企業と似たようなものですし、産休・育休制度についても、こんな感じだそうです。

 日本IBMで産休・育休の取得を検討しているMさん(30代・女性)も、復職先は自分で探すのがルールだと語る。
「日本の大企業に勤める友人の話を聞くと、うらやましくなりますね。人事がとても手厚く面倒をみてくれますから。IBMは女性のキャリアアップに理解があるため、とてもフレキシブルに働けますが、何事も自己責任で、復職先も自分で見つけなくてはいけません」
 日本では、「育児・介護休業法」第十条で「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と決められている。日本の大企業は法律を厳格に守っているから、復職の際、同じポジションまたは同等のポジションに戻すのが通例だ。
 ところが欧米の会社では、「同じポジションに戻りたいんだったら、さっさと復職して」というのが本音。産休(Maternity Leave)の制度は会社ごとにあるが、育休の制度はあまりない。外資系企業に勤めていたとき、本社のアメリカ人の同僚が出産後、一ヵ月も経たずに復職して、驚いたことがある。グローバル企業では部門ごとに社員数が厳格に決められているから、育休を取得している間に復職先がなくなってしまう恐れもある。

もちろんこれは「ちゃんとした日本の大企業と比較して」の話ではあるのですが、日本での外資系企業は、けっして「出産・育児について、日本企業より理解がある」わけではないのです。
仕事はしたいが、子供との時間もほしい女性のなかには、自ら降格を申し出て定時に帰れる職場に異動したり、パートタイムでの仕事に切り替える人もいるのだそうです。


そして、「外資系企業なら、世界を舞台に活躍できるはず!」という若者たちの夢に、この新書ではこんな現実をつきつけています。

外資系企業の日本法人は植民地ですよ」
 今回の取材で、よく耳にした言葉だ。
 日本法人とはいえ、実は日本で決められることは、とても少ない。海外本社にぶらさがる一支社として、「粛々と本社の方針に従うのみ」という日本法人が大半だ。しかも、残念ながら、日本の経済力に比例するように、その発言権は小さくなるばかり。本社は売上高数兆円の大企業でも、日本支社の仕事のスケールは驚くほど小さいこともある。

 外資系企業の日本法人に就職すると、海外本社で働く機会があるのではないか?
 そう期待して、外資系企業に就職を希望する人もいるだろう。
 ところが外資系企業の日本法人の採用は、日本企業でいう地方支店の地方採用と同じ。ずっと地方で働くことを前提として採用しているのである。本社に転勤させて育てようなんていう気はさらさらない。海外本社で働きたかったら、自分で求人を見つけて面接に行って、本社に「転職」するしかないのだ。
 海外で働きたいのであれば、日本企業の方が余程チャンスがある。
 今回取材させていただいた方々の中でも、およそ50人中、日本支社から海外へ転勤になった経験をもつ人は数人だった。

 これって、言われてみればたしかに、そのとおりですよね。
 逆に、日本企業が海外で「現地採用」する社員は、まずその土地で働くことを前提としているのと同じことです。
 「海外でバリバリ働きたい人」にとっては、「グローバル企業の日本支社」よりも、日本の企業の本社」のほうが、よっぽど「近道」なのです。


 正直、この新書を読んでいると、「よっぽど自分に自信があって、成果主義のなかで腕試しをしてみたい人」とか、「日本の企業の年功序列的な空気にどうしても馴染めない人」じゃないと、外資系企業には向いていないんじゃないかと思えてくるのですけど、その一方で、「いまの日本人にとって過ごしやすい日本企業は、いつまでこの企業文化を維持していけるのか?」という不安もあるのです。
 日本企業の年功序列、家族主義的なやり方では、もう「世界」と効率的に戦えなくなってきているのもまた事実なんですよね。

 前出のタワーズワトソン日本代表の淡輪敬三さんはこう分析する。
「日本の特殊性をグローバル化が遅れている言い訳にしてはいけないと言いますが、やっぱり、日本は特殊だと思います。江戸時代から続く会社が三千社もある。女性管理職の割合、留学生の受け入れ人数も先進国の中でダントツのビリです」
 つまり、日本企業は、変化の荒波にさらされない「鎖国制」の中で、日本人の国民性に合った仕組みを作り上げ、維持してきたともいえる。「社員は家族」「上司は親」といった理念が色濃く残る日本企業は、外資系企業に比べればとてつもなく社員(=日本人)に優しく、日本人の価値観に合っているのは当然なのである。

 そう、日本のなかでは、「外資系が1%」でも、世界で考えれば、「日本のやりかたの企業のほうが1%(これは統計に基づいた数字ではないので念のため)」。
 良くも悪くも、日本企業も「外資系企業的な方向」に向かっていくのではないかと思います。
 それが、どこでこれまでの日本企業文化と折り合いをつけることになるのか?


 この新書のなかで、著者は、「外資系企業で働いてみて、よかったと思いますか?」と取材対象者に必ず質問してみたそうです。
 対象者には、成功した人ばかりではなく、外資の企業風土にあわなかったり、身体をこわして辞めたり、上司のパワハラにあったりした人もいたそうなのですが、その人たちも含めて、みんなが「いろんな経験をすることができて、外資系で働いてみてよかった」と答えたのだとか。
 こういう「経験」の積み重ねが、これからは、日本企業にもフィードバックされていくことになるのでしょう。
 しかし、「やる気がある人」って、本当にすごいよなあ。


 東大や京大や有名私大の「意識の高い学生」そして「外資でやっていけるくらいのパワーがある人」、あるいは「やっぱり外資に行かなくてよかった、と安心したい人」は、読んでみて損はしない新書です。

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