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【読書感想】なぜ風が吹くと電車は止まるのか ☆☆☆☆


なぜ風が吹くと電車は止まるのか (PHP新書)

なぜ風が吹くと電車は止まるのか (PHP新書)

内容(「BOOK」データベースより)
「今日は風が強いから電車が止まるかも…」と心配して早めに帰ろうとするが、案の定、電車は止まっている。「いつも、この路線ばっかり!」とイライラした経験は誰しもあるはず。一体、鉄道会社はどのようにして運休を決めているのか?本書は、東日本大震災後、首都圏でも危惧される地震を筆頭に、ゲリラ豪雨、強風、落雷といった自然災害に対する鉄道の備えと、意外な弱点を解説。さらには停電、火災、人身事故などの問題にも触れることで、「いつも正常に動いて当たり前」と思っていた鉄道への認識が変わる一冊。


僕は地方の小都市住まい+ほとんど車での通勤なので、「自然災害や人身事故で電車が止まって困る」という経験は、ほとんどしたことがありません。
それでも、書店でこの本のタイトルをみて、「自然災害と鉄道の安全性」に興味がわいたので読んでみました。


結論から言ってしまうと、僕が思っている以上に、鉄道というのは「安全性」を重視しているのだな、と感じたんですよね。
事故が起こるたびに「採算重視の、非人道的な鉄道会社の運行姿勢」みたいな話が出てくるのですが、少なくともこの新書を読んだかぎりでは、「ここまでやっているのか」と驚かされるところが多かったのです。
もっとも、「効率化」のもとに行われている人員削減による個々のスタッフの負担増や、過密ダイヤによる余裕のなさは、加味されてはいないのですけど(「自然災害と鉄道」についての本ですからね)。

 東日本大震災では、東北新幹線の仙台駅から東に約60キロメートル離れた金華山宮城県石巻市)の地震計が最初にP波(地震の初期微動)を検知し、ほぼ瞬時にJR東日本の新幹線の送電を止めた。このとき走行していた26本の営業列車は1秒以内にブレーキをかけ、S波と呼ばれる主要動が到達した70秒後には停止していたか、停止目前の速度に下がっていたという。

初期の揺れを感知するシステムのおかげで、大きな揺れがきたときには、東北新幹線は、止まるか、止まりかけの状態になっていたんですね。
このシステム、P波とS波がほぼ同時に起こる直下型地震が線路のすぐ近くで発生した場合には対応しきれないそうですが、それでも、すでにここまでの対策が行われていて、実際に稼働したからこそ、震災でも新幹線は事故を起こさなかったのです。


著者は、2000年代半ば以降、人身事故以外で首都圏の列車がよく止まるようになった理由として、「風に対する基準の強化」を挙げています。

 従来、JR東日本は沿線に設置された風速計が風速毎秒25メートルを指していれば時速25キロメートル以下での徐行、同30メートルであれば運転を見合わせていた。しかし、2006(平成18)年1月19日からは風速毎秒20メートルで徐行、同25メートルで運転中止と改められている。この結果、よく止まるようになったという次第だ。
 ちなみに首都圏の他の鉄道は、おおむねJR東日本の旧来の基準どおりだという。JR東海東海道新幹線の場合、列車の運転を見合わせるのは風速毎秒30メートルである。

この新書を読んでいると、電車にとっての「風」のおそろしさを思い知らされます。
しかし、基準を強化しても、局所的に「突風」が吹いて事故が起こったケースなどもあり、安全性を高める努力をしても、「100%安全」にはならないものなんですよね。
安全性を突き詰めると、コストは増していきますし。


雨、風、雷、そして地震、火災やテロ、人身事故……
日本の鉄道は安全なイメージがありますし、利用者数を考えればかなり安全性は高いと思いますが、著者はこんなデータを挙げています。

 2009年(平成21)年度の報告を見ると、全国の鉄道で発生した事故で命を落とした人の数は353人であったという。
 このうち、乗客の死者は2人であるが、残る351人の内訳は明らかではない。乗務員など鉄道会社の社員であったり、駅のプラットホームで待っていた利用客であったり、社員でも利用客でもない公衆であったりするのだろう。
 351人の方々が、大まかにどのような原因で亡くなられたのかについては明らかにされている。脱線事故によるものが1人、踏切上での障害事故が117人、路面電車が道路上で走行していたときの障害事故が234人だ。
 志望者数がもっとも多い人身障害事故とは、衝突、脱線、火災、踏切や道路上での障害事故のいずれでもない事故であると定義されている。一般的には人身事故と呼ばれており、具体的には故意または過失によって、線路内に立ち入って命を失った事故であると言えるだろう。

ちなみに、同じ年の内閣府の報告によると、「飛び込み自殺」は741人とされており、そのほとんどは鉄道自殺で、実数はこちらのほうが近いのではないかと著者は述べています。


最後に、この新書のなかで紹介されている、ちょっとした知識を。

 列車とは、車両を何両か連結して運転されるものを指す。万一、事故に遭っても無事でいられる可能性の高い車両は、どこに連結されている車両であろうか。
 過去に起きたすべての事故の記録を調べてはいないが、近年の事故を見る限り、先頭車と2両目、そして最後部の車両とその隣の車両はそれぞれ避け、前後とも3両目以降の車両に乗るとよい。

「先頭車、そして2両目くらいまでは危ない」というのは理解できるのですが、最後部も危ないみたいです。
その理由は、「他の列車に追突される可能性があるから」。
 基本的には「真ん中の車両に乗る」ほうが安全であることは間違いなさそうなのですが、列車というのは、真ん中のほうが混みがちではあるんですよね。みんなが危険を意識してそうしているのではないとは思いますが。


鉄道好きにとっては興味深く、そして、首都圏で毎日のように電車に乗っている人にとっては少し勉強になる、そんな新書だと思います。
でもほんと、ここまで安全対策をやっているのに事故が起こるのだから、「絶対安全」なんていうのはありえないですよね。
少なくとも、いまの人間がつくったものであるかぎりは。

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