モルグ街の殺人・黄金虫―ポー短編集〈2〉ミステリ編 (新潮文庫)
- 作者: エドガー・アランポー,Edgar Allan Poe,巽孝之
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/04/25
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
史上初の推理小説「モルグ街の殺人」。パリで起きた残虐な母娘殺人事件を、人並みはずれた分析力で見事に解決したオーギュスト・デュパン。彼こそが後の数々の“名探偵”たちの祖である。他に、初の暗号解読小説「黄金虫」、人混みを求めて彷徨う老人を描いたアンチ・ミステリ「群衆の人」を新訳で収録。後世に多大な影響を与えた天才作家によるミステリの原点、全6編。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ポー,エドガー・アラン
1809‐1849。米ボストンに生れ、旅役者の両親と幼くして死別、アラン家で養育される。ヴァージニア大学を中退。貧窮のなか雑誌編集の仕事などを転々としながら詩・短編小説を執筆するが、母国よりもフランスで高く評価された。酒と麻薬の乱れた生活を送り、奇矯な振る舞いで悪名が喧伝される。詩や小説の計算された美的効果を主張し、フランス象徴派をはじめ推理小説にいたるまで後代に大きな影響を与えた
久々の「実は未読だった名作をあらためて読んでみる」シリーズ。
あの江戸川乱歩さんのペンネームの元になっている、エドガー・アラン・ポー。
表題作『モルグ街の殺人』は、「推理小説のルーツ」として知られている作品なのです。
僕は恥ずかしながら、この『モルグ街の殺人』未読だったのですけど、読みながら、「このトリック、どこかで読んだことがあるような……」と、ずっと考えていました。
なんらかの「推理小説の蘊蓄を集めた本」のなかで、古典としてあらすじが紹介されていたのか、それとも、この作品から派生していった推理小説をそれなりに読んでいると、なんとなく「源流」にも既読感があるものなのか、あるいは、中学生くらいのときに、学校の図書館で読んだことを忘れてしまっているのか……
今読んでの率直な感想は、「まわりくどい小説だなこれ」だったんですけどね。
なかなか話が進まずに、主人公とオーギュスト・デュパンの格好付けたやりとりが延々と続き(たぶん、好きな人はこれがたまらないのでしょうね)、僕はちょっともどかしく感じてしまいました。
「警察はけっきょく、異常なるものと難解なるものとを混同するという、甚大にしてお定まりの過ちを犯したんだよ。だがね、常識の水準を外れてみて初めて、理性は――そんなものがあればだが――真実探究へと向かうのだ。いまやっているような捜査の場合には、まず問題の立て方として『どんな事件が起こったか』ではなく『どのような意味で前代未聞の時間だったのか』と尋ねなくてはならない。げんに、ぼくにはすぐにわかる――あるいは、もうわかってしまった――この事件の解決しやすさは、警察の目には解決しにくさと映っている事態と正比例する」
あらためて読んでみると、なんとムチャクチャな「トリック」というか「真相」なんだろう!
こんなの読者に与えられた材料では、絶対に「解決」できないはずです。
「読者が一緒に推理する」というより、「こんな仕掛けだったのか……」と読者を驚かせるような作品が「推理小説のルーツ」だったのです。
しかしこれ、ある意味「バカミス」っぽいよね。いまの基準で言うと。
あと、『黄金虫』は、「あんまり黄金虫関係ないじゃん!」とは思ったのですが、読んでいてけっこうワクワクする作品でした。
暗号解読入門って感じです。
「宝探し」って、どうしてこんなに楽しいんだろう。自分の手に入るわけでもないのに。
個人的には、『群衆の人』という作品も、なんだかすごく印象的でした。
「何かが起こりそうなんだけど、結局、何が起こったのかよくわからないまま、投げ出されてしまう」そんな短篇。
『盗まれた手紙』には、人間心理の盲点って、いまも昔も変わらないんだなあ、と感心させられました。
「ちょっとした暇つぶしに」読むには、「古さ」を感じずにはいられない作品なのですが、ミステリというジャンルに興味がある人にとっての「ルーツ探検」としては、なかなか興味深い短編集ではないかと思います。
ちなみに、訳者の巽孝之さんの「解説」によると、
ポーがミステリを創始したのは、まったく新しい文学的フロンティアを開発しようとして野心満々、意気込んだ結果ではなく、むしろ当世流行ジャンルをさまざまに模倣し融合しては再構成していく実験をくりかえした、それこそ偶然の結果にすぎない。
じっさいポーという作家は、詩人であり小説家であり批評家であると同時に、当世流行の多様な文学ジャンルが生成していく大渦巻を目の当たりにすることのできる雑誌編集者(マガジニスト)であった。
ということです。
ポーは、このジャンルを狙って作ったというよりは、いろんなジャンルの融合の組み合わせを試していたなかのひとつが、『モルグ街の殺人』だった。
そして、この「偶然の配合」から、ミステリという巨大なジャンルが派生していったのです。
この『モルグ街の殺人』が発表されたのは、1841年。日本ではまだ江戸時代だったのか……