琥珀色の戯言

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【読書感想】内側から見たノアの崩壊 ☆☆☆


内側から見たノアの崩壊

内側から見たノアの崩壊

内容(「BOOK」データベースより)
プロレス史上最悪の「大型金銭スキャンダル」、「黒い詐欺マネー」に群がったノア幹部の行状をすべて明かす。事件詳細を大幅加筆した「完全版」。

 元ノア所属のプロレスラー、泉田純さんによる「告白本」。
 僕はプロレス関連本、というか、レスラーたちの話が好きで、ついつい手にとってしまうのですが、まあ、これほど後味が悪い内容というのもあまり無いなあ、というのが率直な感想です。
 前半の、泉田さんがある金持ちのタニマチと知り合い、ノアという団体そのものが、そのタニマチに浸食されていくところなどは、「プロレス団体って、いまもそんな体質なんだなあ……」と、驚いてしまいました。
 ところが、ある時期から、そのタニマチだと思っていた女性は「回収モード」に入り、泉田さんや三沢さんの奥さんから、多額のお金を借りる(という名目での詐欺)ようになっていくのです。

 昼下がり、成田夫妻が住む小田原市内の自宅で俺と眞美が向かい合った。そのとき宗次郎はいなかった。
 眞美がおもむろに切り出した。
「イズさんね、正直に言うと私、これまで相続税を払ってなかったのね。それで国税に見つかっちゃったのよ」
「どうなるんですか」
「とりあえずね、4000万円。それを払えば済む話なのね。いま私が持ってる20億円はまた自由に使えるようになる。イズさん、たった1週間とか10日間でいいんだけど、4000万円、何とかならないかしら……」

正直、「『振り込み詐欺』の典型的なパターンだろ。こんなベタな詐欺に引っかかるほうもあまりに脇が甘いというか、世間知らずというか……」と僕は思いました。
 でも、これまで相手の羽振りがいいところをさんざん見てきて、ずっと「小遣い」も貰ったりしていれば、信じてしまうこともあるんですね……どう考えてもおかしな話なのに。
 泉田さんの被害に関しては、最大の被害者は、泉田さんを信頼してお金を貸した人たちなんじゃないかな、とは思います。


 この本、「詐欺事件」が3分の2くらいを占めているのですが、僕にとって興味深かったのは、泉田さんが、内部からみたノアという団体と、そこに所属している(いた)レスラーたちの姿でした。


 先日、ある本で、ジャイアント馬場さん存命中の全日本プロレスについて、「馬場さんはとにかくケチだった。リングの上で『目録』を渡されても、本当に紙だけで、中身がないこともあった」なんて話を読んだばかりだったのです。
 泉田さんは、馬場さんはお金に渋い人だったけれど、暴力団関係などの「黒い交際」は断固として許さなかったし、レスラーのスポーツ選手としての地位向上を考えていた、と語っています。
 そういえば、中島らもさんが、劇団『リリパット・アーミー』を立ち上げたときに、「ジャイアント馬場さんが、レスラーの給料をちゃんと遅配せずに払っている」という話を聞いて、劇団員に「必ずお金を払う」ようにした、という話を聞いたことがあります。
 まあでも、そういう馬場さんの姿勢には、内部でも不満はあったようです。
 人間、自分がそれをできる立場であれば、「多少相手が危険な人間でも、タニマチと豪遊したい」という人はいるでしょうし(そもそも、プロレスラーというのはサラリーマンじゃないし、遊びも芸のうち、みたいな考えもあるでしょうから)、選手たちには、こんなに体を張っているのに、という意識もあったはずです。


 ただ、プロレス界にもいろんな選手がいるし、「改革しようとしている人や団体」もいるのです。

 俺はフリーになった2010年、ドラゴンゲートに初参戦した。そこで見たものは、まるでノアと違う風景だった。
 彼らはその日の興行を必ず成功させるため意思統一の儀式をする。
 望月選手やCIMA選手が、全部の試合を注意深く見守っているのにも驚かされた。団体内で発言力が強い彼らは、若手選手に必ず何か向上につながるアドバイスを送るため、試合を見て気付いたことを頭の中で整理しているのだ。
 その試合で良かった点、改善したほうが良い点を、それぞれ言葉にして確認し、次の試合につなげる。
 俺は、不況下でも堅調といわれるドラゴンゲートの「強さ」の秘密を目の当たりにしたような気がしていた。
 ドラゴンゲートにだって、スター選手もいればそうでない選手もいる。だがこの団体ではみんなが同じ方向を向き、少なくともリング上ではプロに徹している。
 ノアの選手に足りないのは、全体を考える意識だ。

 泉田さんがみた「さまざまなプロレスラーや団体」への言葉には、プロレスの世界だけではなく、社会一般にも応用できることがたくさん含まれています。


 あと、ノアに移籍することなく全日本に残り、「ハッスル」などで活躍した川田選手のこんなエピソードもありました。

 川田さんは、プロレスラーとして、光り輝く仕事ができたという満足感と達成感があるのだろう。自身のラーメン店をオープンするときには躊躇なく職人に転身して、俺たちを少し驚かせた。
 一度、俺は川田さんのラーメン店(川田さんはラーメン店ではなく居酒屋だと言っているが)におじゃましたことがある。
 普通、プロレスラーの場合、同じ釜のメシを食った後輩が来たら、「おう、よく来たな!」と先輩風を吹かせるのがどちらかといえば普通だ。
 だが、川田さんにはまったくそういうところがなかった。
 俺を純粋に1人のお客さんとして扱い「いらっしゃいませ!」「ありがとうございました!」と頭を下げる。かつての先輩の腰の低さ、プロに徹する姿を見て、俺はある種の尊敬心を抱いた。

「一般の客」からみると、「知り合いを特別扱いする店」って、けっこう感じ悪いんですよね。
でも、やっている側としては、なかなか、そういう「お客さんの視線」に気付かない。
もと「人気プロレスラー」であれば、なおさらのはずです。
僕はこれを読んで、川田さんはすごいなあ、と感心してしまいました。
でも、そういう人が、かえって浮いてしまうのが、プロレスの世界でもあったのだなあ、と。
いや、これはプロレス界だけの話じゃないのかもしれないけれども。


プロレスに興味がない人は、さすがに読んでも面白くないと思いますが、プロレスファンにとっては、レスラーの人間模様を知るため、そして、詐欺に引っかからないための生きた教訓として、参考になる一冊だと思います。

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