琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

ライフ・オブ・パイ ☆☆☆☆



あらすじ: 1976年、インドで動物園を経営するパイ(スラージ・シャルマ)の一家はカナダへ移住するため太平洋上を航行中に、嵐に襲われ船が難破してしまう。パイが命からがら乗り込んだ小さな救命ボートには、パイとベンガルトラだけが残る。残り少ない非常食、絶望的な状況に加え、空腹のトラがパイの命を狙っていて……。

参考リンク:映画『ライフ・オブ・パイ』オフィシャルサイト


2013年3本目。
19時からの回、3D吹き替え版で鑑賞。
観客は10人くらいでした。


この映画の予告編を観たときには、「ああ、CGはすごそうだけど、映画館で観ることはないだろうな」と思っていたのです。
だって、予告編を観ただけで、「この少年(実は、少年というより「青年」なんですよねこの映画のなかでは)とトラの心が最後には通じ合って、トラが少年のピンチを救ってハッピーエンド!って映画なんだろうな」と、全部観てしまったような気分になってしまったから。


それでも、ネットでは、けっこう評判が良さそうだし、『ストロベリーナイト』はドラマも全然観ていないしなあ、ということで観ることにしたのですが、いきなり宗教マニアっぽいオジサンが出てきて、回想シーンから始まったのには、ちょっと驚きました。
僕はどうもこの「回想として語る形式」があんまり好きじゃないのです。
だって、「パイは死なない」っていうネタバレでもありますし(そりゃあ、はじまって15分で死ぬってことはないでしょうけど)。
タイタニック』とか、なんであのおばあちゃんがわざわざ出てくる必要があるんだろう?と観るたびに思います。
そういえば、小説の『ノルウェイの森』は、回想形式ではじまって、元に戻ることなく終わってたなあ。


で、「どうしてトラと漂流することになったんだろう?早く漂流しないかな」と思いながら観ていたのですが、それはまあ、かなり無理があるような、まあこれしかないような(フィクションなんですけどね)。


トラとの「漂流生活」が、またけっこうリアルなんですよ。
「トラがいることによる不安」と、「トラがいるからこそ、緊張感を維持していられる」というメリット。
そして、なんといっても、この映画の魅力は「漂流生活の静謐な美しさ」です。
先日、NHKスペシャルで、海の「発光生物」の話を観ていたので、夜、真っ暗ななかで、クラゲなどの海の生き物が光を放つシーンや、満天の星の美しさ、嵐、鏡のような海面に映る、パイとトラと船。
いやほんと、作り物だとわかっていても、思わず息をのんでしまうような美しさ、なのです。
ストーリー抜きで、この映像のためだけでも、観る価値がある映画だと思います。
この映画、絶対に3Dで観たほうがいいですよ。
正直、乗り物酔いしやすい僕は、観ながら「船酔い」してしまったのですが……


実は、この映画、僕が予告編を観て「予想」していたものと、同じところもあれば、異なっているところもありました。
あれこれ語りたいこともありますが、それはやめておきますね。
先入観なしに観たほうが、楽しめるというか、いろいろ考えさせられる映画だから。
それにしても……まさか、この映画に、あんな「裏切り」が仕掛けてあるなんて。
それは、自然と人間のことなのかもしれないし、人間と神のことなのかもしれない。
あるいは、人間どうしのことなのかもしれません。
「トラと男の子が漂流する、人と動物との絆を描いた映画」だと思って子ども連れで観にきたら、かなり困ったことになるのではなかろうか。


この物語が「回想形式」になっていることには、「理由」があることはわかったんですけどね。
「人間とトラの友情物語」のほうが、「あーつまんねー!」なんて言いながら、幸せな気分になれたかも……


上映が終わったあと、3D酔いもあって、ぐったりしてなかなか椅子から立ち上がれませんでした。
フィクションだからこそ描ける「残酷さ」というのも、あるのかもしれません。
でも、すごく美しい映画でもあるんですよね、これは。


単純なようでいて、実はすごく奥が深い映画だと思います。
「なんで唐突にこんなの出てくるの?」という場面にも、ちゃんと意味があるらしいですし。
こちらの町山智浩さんのツイートまとめを御参照ください。でも、僕はこの「正解」でイメージが固定されるのも勿体ない気がします。そもそも、日本人にはこの解釈は実感しがたいと思うし)


見かけほど「甘い」映画ではないので(とはいっても、若者とトラの共同生活っていうのは、やっぱりコントじみて見える場面もたくさんあるんですが)、大人にこそ観てほしい。オススメです。

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