琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】いつやるか? 今でしょ! ☆☆☆☆

いつやるか? 今でしょ!

いつやるか? 今でしょ!

内容紹介
本書のタイトルでもある名文句が東進ハイスクールのCMで一躍有名になった、いま一番旬なカリスマ予備校講師・林修先生の初の著書。参考書ではなく、受験にも仕事にも使える人生のアドバイスがつまった自己啓発本です。2013年には、トヨタのCMに起用されたことからブレークに拍車がかかり、「今でしょ! 」は流行語大賞の呼び声も。遅咲きの東大卒カリスマ予備校講師が、自らの豊富な体験を凝縮させて書きあげた「学び」の詰まった人生の指南書です。


まったく、ちょっと「時の人」になると、すぐ本とか出しちゃうからなあ……
なんて、書店で平積みにされているのを横目で眺めていたのですが、テレビなどで林先生の話や講義を聞いていると、ついつい引き込まれてしまうのです。
まあ、ちょっと読んでみようかな、と買ってみたのですが、予想していたよりもずっと読みやすくて実践的な内容でした。


最初に、林先生は「今すぐやるべき基本の習慣」として、「挨拶」の話からはじめています。

 今でも目に浮かぶ光景があります。大学時代、講義前にトイレに行こうとしたら、清掃中の札が掛かっていました。そこでほかのトイレに行こうとしたんですが、後ろから来たのがなんとその講義の教授でした。
 もちろん僕はあわてて頭を下げました。すると、教授は僕と同じくらい、いや、僕以上に深々と頭を下げられたのです。それだけではなく、ちょうど出てきた掃除のおばちゃんに対しても、まったく同じ角度を下げられたうえで、「お疲れ様です」と、挨拶されたのでした。


(中略)


 その後、講義が始まったんですが、僕はずっと「挨拶」の意味について考えていました。そして、そのとき初めて、挨拶の本当の意味をわかったような気がしたんです。
 挨拶を誰にするかといえば、もちろん声をかけるその相手です。しかし、挨拶はその人にだけでなく、世間が挨拶する僕を見る機会でもあるのです。
 僕にとって一番の衝撃は、僕と、掃除のおばちゃんに対してまったく同じお辞儀を先生がされたことです、ちなみに、その先生は日本の法曹界の大御所と言ってよい、東大法学部の教授の中でも特に有名な方でした。

 林先生は、この話のポイントは、「誰に対しても同じように深く頭を下げること」だと仰っています。
「挨拶は大事」なのだけれども、それだけでは、あたりまえのことです。
 ましてや、偉い人の前では深々と頭を下げ、掃除のおばちゃんは無視する姿は、傍からみれば「ゴマスリ人間」にしか見えないんですよね。
 それだったら、「みんな無視」のほうが、むしろ清々しく見えさえするのです。
 でも、当事者になると、なかなかこの「平等にちゃんと挨拶する」のは難しいんですよ。
 ちなみに、林先生は「頭を下げるコストはゼロなんだから、有効に使ったほうがいい」とも仰っています。


 林先生は、いまや人気者なのですが、この本を読んでいると、イベントも、群れるのも嫌いで、銀行に就職したのにすぐ辞めて起業したものの失敗、競馬にハマって借金、など、かなり「負の体験」を積み重ねてきている人でもあるのです。
 この本のなかには「ギャンブル論」「麻雀論」なども書かれています。


 林先生は、「勝つための秘訣」を、こんなふうに仰っています。

「大した努力をしなくても勝てる場所で、努力をしなさい」
 僕が授業でよく使う言葉です。どの世界にも一流と呼ばれる人がいます。野球のイチロー選手など、スポーツ選手で例をあげていけばきりがないでしょう。こういう人は誰よりも努力し、自己管理も厳しく行って今の地位を維持している、そのことに異存はありません。しかし、最初から、あるいは少しやってみたときに、周りとはひと味違うキラリと光るものをもっていたことがきわめて多いのではないでしょうか?


(中略)


50年近く生きてきて思うのは、
本当に得意な分野はそんなに多くはない
ということです。逆に言えば、これは勝てるという場所を1つ見つけてしまえば、人生は大きく開けます。今うまくいっている人とは、「僕はこれしかできません、でもこれだけは誰にも負けません」と、胸を張って言える人のことではないでしょうか?
 勉強もダメ、運動もダメ、でも誰よりもすごい寿司を握る自信があって、実際に店がお客さんでいっぱいなら、それでいいのです。また、僕が水商売でうまくいっている女性を尊敬するのも同じ理由です。みんな自分の走るべきレースを見定めて、そこで勝負をしているのです。そこにどうして貴賤があるのでしょうか? 罪を犯しているわけでもなく、他人がとやかく言う話ではありません。
 僕自身の大学入試の現代文の解き方を教えるという仕事もまた、世の中に無限といっていいほど存在する仕事の種類のなかのたった1つにすぎません。そもそも大学受験をしない人にはまったく無価値であり、その世界自体も実に狭いものです。そのことを自分でちゃんと認識しています。しかし、大学入試がなくならない限り、この世界は存在し続けるのです。それもまた事実です。
 競馬では1200mなら絶対に強いという馬がいます。もっと範囲を狭めて、京都競馬場ではまるっきり走らないのに、中山競馬場1200mになると別馬のように強い、という馬もいます。それでいいのです。なぜなら、中山競馬場の1200mのレースは、今後も確実に施行されるのですから。

ああ、なるほどなあ、と。
競馬にさんざんハマっていたという林先生らしい、たとえだなあ。
正直、「勉強もダメ、運動もダメ」という人が、誰よりもすごい寿司を握れるケースって、少ないんじゃないかな、とは思うのです。僕の観測範囲では、一芸がきわめてすぐれている人って、他のことをやらせても、けっこうできることが多くて、「この人、別の仕事をしても、成功していただろうな」と感じることが多いから。


こういう「中山1200mでしか好成績を残せない馬」って、僕はけっこうバカにしてしまいがちなんですよ。
「そういう特定の条件でしか結果を出せないなんて、真の実力がない」とか「京都競馬場じゃ用無しのくせに」とか。
でも、林先生は「それでいいのだ。そこに存在価値を見いだして、生き延びることができる。中山でのレースが続くかぎり」と考えるのです。
「じゃあ、向いているレースを狙って、走ればいいのだ。それならば勝てるし、勝てれば大事にされるのだから」

 自分の負けるレースには参加しません、だから僕は負けませんよと、本当に自信をもって言える人は、数限りなく負けてきた人なんです。ただ、負けただけではなく、そこから多くのことを学んだ人なんです。連戦連勝で来た人は、その自信もあって、僕は何でも勝てますよ、と言うはずですが、実はこういう人は危ういのです。

負けることの積み重ねによって、自分の適性や負けそうなときの危険信号を知ることができる。
だから、「若いうちに、いろんなことに挑戦して、負けが許されるうちに負けておいたほうがいい」。


まあでも実際、「勝ち続ける」のは、並大抵のことではありません。
「勝てる」と思った場所でさえも。

 特に年を取ってくると、自分にとって絶対自信のある説明や、説教をいくつも人は携えるようになります。ところが言われる相手はどんどん変わるものですから、同じ言葉を発しているのに、以前のような効果が得られない――そんなとき「今どきの若いモンは」など言いがちなのですが、そういうときこそよく考えてほしいのです。自分は本当に「伝わる」言葉を使っているのか、と。
 これは世の変化のなかで、少し時代からこぼれかかっている自分を見直すいい機会でもあります。
 僕の業界でもかつて一世を風靡したような、いわゆる「大物」講師がしだいに生徒を集めることができなくなって、ついには消えていった例を何人も見てきました。そのうちのいくつかの授業を見たことがありますが、自分の「伝える」言葉を過信しすぎているな、と思ったことが何度もあります。かつて成功したがゆえに、その見直しを怠ってしまったのでしょう。

将棋の故・米長邦雄さんが、著書『不運のススメ』で、こんな話をされていました。
米長さんの「40代半ばのスランプ」について。
「どうしても20代の若い棋士に勝てなくなった」という米長さんは、ある若手に「理由を率直に訊ねてみた」のです。

「先生と指すのは非常に楽です。先生は、この局面になったら、この形になったら、絶対逃さないという得意技、十八番をいくつも持っていますね。でも、こちらのほうも先生の十八番は全部調べて、対策を立てているんです。だから以前には通用しても、もう今は通用しません。しめた、自分のパターンに入った、と先生が思う時を僕らも待っている。それを先生はご存知ないものだから、僕らとしてはやりやすいのです」


 優勢だと思っていた局面は、実は私にとって不利な局面だったのである。
 では、私はどうすればいいのだろう。


「自分の得意技を捨てることです」


 と、彼は答えた。なるほど、一理も二理もある意見だ。

年齢とともに、自分の「型」みたいなものができて、それなりの自信もついてくる。
ところが、その自信が、自分のアップデートを止め、「弱点」を生んでしまう。
10年前に「適切」「好評」だったものが、いまも同じように受け入れられるとは限らない、そんなことはわかっているはずなのに、「成功体験」だからこそ、なかなか捨てられないのです。


予備校講師という激しい競争の世界で、頂点を極めた人の話だけあって、「精神論」「経験論」ばかりを振りかざす「ビジネス書の多くの著者」とは、ひと味違う「自己啓発本」だと思います。
なかには「これは天才の世界の話だから、参考にしてもしょうがないな……」というところもあるのですが、かなり実践的なことが多く書かれています。
林先生に興味がある人が最初に読む著書として、オススメできる一冊ですよ。

アクセスカウンター