- 作者: 吾妻ひでお
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2013/10/06
- メディア: コミック
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内容紹介
「緻密な描写。ギャグマンガ家ならではの客観的な視線。
『失踪日記』以上にすごい作品です」───とり・みき(マンガ家)
過度の飲酒でアルコール依存症となり、担ぎ込まれた通称『アル中病棟』。
入院してわかったお酒の怖さ。
そこで出会ったひとくせもふたくせもある患者や医者たち。
かわいくて厳しいナースたち。
そしてウソのようで本当の、驚くべきエピソードの数々。
そこから著者はいかにして、アルコール依存症から抜けだしたのか?
30万部ベストセラー『失踪日記』から執筆8年、満を持しての続編刊行!
あの『失踪日記』の続編。
おお、「お蔵入り」になったのか?と思っていたのですが、ようやく発売になりましたね。
巻末での、とり・みきさんとの対談より。
とり・みき:トータルでどれくらい掛かったんですか?
吾妻ひでお:え……っと何年掛かったかなあ。『失踪日記』が出て、わりとすぐに始めたから……10年くらい?
とり:『失踪日記』が2005年の3月ですね。ということは8年。もちろんこの間に他の本もいろいろ出されてましたけど。
吾妻:途中で『これ、終わらないんじゃないかなあ』って思ってた(笑)。
僕も「もう、『失踪日記』の続編、出ないんじゃないかなあ」って思っていました。
この対談のなかでも、とり・みきさんが触れておられるのですが、このマンガ、内容も興味深いのですが、絵の書き込みであるとか、コマの使い方とか、「マンガとしての表現がすごいなあ」と感じます。
大きなコマで、突然主人公を俯瞰するような視点で描かれたり、「アル中病棟のスケジュール」が、絵とともにびっしり書き込まれていたり。
この本を読んだ日、ちょうど『洛中洛外図屏風』を国立博物館で観ていたので、表紙の病棟の俯瞰図は、まるで屏風絵のように見えたんですよね。
あるいは、カイロソフトのゲームみたい、というか。
この本、何かすごくドラマチックなことが書いてあるわけでもなく、この世の中に少なからず存在する「アルコール依存症患者」たちが、3ヵ月くらいの入院のあいだ、どんなふうに生活しているかが、淡々と描かれています。
入院患者のなかには、嘘つきもいれば、働かない人もいるし、偉ぶる人も、ケンカする人もいる。
アルコール依存症で入院しているにもかかわらず「退院したら飲む!」と宣言している人すら出てきます。
それも、ひとりじゃなく。
飲酒運転の「武勇伝」自慢とか……本当にやめてほしい……
(吾妻さんも「酒を飲むのは勝手だが、車の運転は絶対やめてほしい」と書かれています)
「断酒会」や「AA(Alcoholics Anonymous)」などのコミュニティの話も出てきますが、吾妻さんは、そういった活動を手放しで称賛するわけでも、全否定するわけでもなく、ずっと観察し続けています。
考えてみると「なんでも客観的にみてしまう習慣」みたいなものが、ある種の吾妻さんの「病」なのかな、なんて考えてしまったりもするのですが……
統計によるとアルコール依存症患者は治療病院を退院しても、1年後の断酒継続率はわずか20%。
ほとんどの人は再入院、もしくは死んだり行方不明になったり。
再入院も、同じ病院は、3回くらいで見放される。
本当に「予後の悪い病気」なんですよね、アルコール依存症って。
いまはコンビニもあるし、大人であれば、いつでも、どこでもお酒を買うことが可能です。
うーむ、それでも「20%の人は、とりあえず1年はやめられている」とポジティブに考えるべきなのだろうか……
この本のなかで、吾妻さんは、ほとんど啓蒙的なことは書かず、「アルコール病棟の人々の生態」を、見たまま描いているように思われます(巻末の対談によると、「最初に描いたものは、もっと鬱々とした、暗いものだった」そうですが)。
あっけらかんとして、自分の飲酒歴を反省しているようにみえない人々。
でも、それこそがこの病気の怖さでもあるんですよね。
「反省する能力すら失ってしまう」のだから。
吾妻さんの中には、「家族側」であった西原理恵子さんのような、切実な「この病気を知ってもらいたい、そして、ひとりでも患者と家族を救いたい」という情熱はないのかもしれません。
入院してみて、「こういう人間たちがいる場所」に面白さを感じ、作品にした。
いや、それが「不真面目なこと」だというわけじゃないんですよ。
だからこそ、患者側の立場からすれば、世界はこんなふうに見えているんだな、というギャップを痛感することができるのだから。