琥珀色の戯言

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【読書感想】アルキヘンロズカン ☆☆☆☆

アルキヘンロズカン(上) (アクションコミックス)

アルキヘンロズカン(上) (アクションコミックス)

アルキヘンロズカン(下) (アクションコミックス)

アルキヘンロズカン(下) (アクションコミックス)



Kindle版もあります。
僕が買ったときは、セール中で上下巻とも500円でした。

内容紹介
四国八十八カ所の寺を巡れば願いが叶うと信じられる“遍路”。学生、外国人、時に逃亡者。彼らはいったい何を願い求めて歩くのか。漫画家として行き詰まった男と、いつも仏頂面で無職の女。それぞれがそれぞれの理由で四国遍路旅に出て――。著者が実際に四国遍路で聞いて見て経験した様々な出来事を元に描いた、あらたな旅コミック!


四国八十八ヵ所を巡礼する「お遍路さん」のことは広く知られています。
まあ、実際にやったことがある人は、そんなに多くはないと思われますが。
最近では、あの菅直人元首相が、9年間かけて、「結願」(八十八ヵ所の寺を全て巡礼すること)を果たしました。
(関連記事:菅直人元首相のお遍路 「妻のクモ膜下出血もきっかけ」(週刊朝日))


とくに信仰心を持たない僕も、「お遍路」を、いまの世の中でも多くの人が行っていて、そして、その人たちを温かくもてなす(「お接待」)四国という地域があるということには、けっこう興味があったんですよね。
さすがに「すぐに自分でもやってみよう」とは思わないけれども、これだけ長い歴史を持っていることには、なんらかの意味があるのではないか、と。
それと同時に、このマンガのある登場人物が呟いている、

…なにがお遍路だ……
毎日長い距離歩かされて……
絶妙なタイミングで荘厳な寺を出して……
こんなものは、一ヵ月かけてやる自己啓発セミナーじゃない……

というふうに見えていたのも事実です。
肉体的な負荷をかけ続けることによって、夜はよく眠れるようになるだろうし、余計なことも考えなくなってしまう。
たしかに「自己啓発セミナーみたいなもの」じゃないのか?と。


このマンガを上下巻通して読んでみても、「『お遍路』とは何なのか?」というのは、よくわからないんですよね。
人とのふれあい、つながり、みたいなものが強調されている話もありますが、その一方で、都会からきた「お遍路さん」を騙してお金を借りようとしたり、たかってくる「職業遍路」や、「お接待」という名目で、セクハラ行為をしようとするオッサン、『あいのり』と勘違いしているような「出会い目的男」なども、このマンガには登場してくるのです。


作者は自身も、「歩き遍路」を体験し、その際に聴いた話なども元にして、このマンガを描いたそうなのですが(ちまみに、作中に出てくる人物は、「フィクション」だそうです)、歩き遍路というのは、けっして「聖なる面」ばかりではなく、人間のドロドロしたところを見せつけられることも多いようです。
まあ、そりゃそうだよね。


ひとりで歩いていると、否が応でも「自分の内面」に向き合わざるをえませんが、だからといって、全ての人に「特別な神秘体験」が訪れるわけでもないし、立派な人間になれるわけでもない。
(もし「お遍路」を行うだけで立派な人間になれるのであれば、「邪悪な職業遍路」なんて存在しないでしょうし)
「四国にはホームレスはいない。みんな白い装束(お遍路さんの装束)を着ているから」なんて言葉もあるそうです。


でも、四国の人たちのなかには、お遍路さんたちへの「お接待」という無償奉仕の文化が、いまも息づいているし、「『お遍路さんだから』という理由で、知らない人に施しをしてくれる人」が、いまでもこんなにたくさんいるんですね。
(作者は「自分が『お遍路さん』だからと、思い上がってしまう旅人たち」の存在も描写しています)
そして、歩いて巡る四国という地域が、4つの県それぞれの個性を持ち、県境でくっきりとその雰囲気が変わってしまうことなども紹介されているのです。


自分がお遍路さんになろうとは、いまのところ思えないけれど、四国をゆっくり旅してみたいなあ、そんな気分にはなってくるんですよね。
四国という土地柄が、お遍路さんを生み育て、お遍路さんの存在が、良くも悪くも、四国という地域や人の心に大きな影響を与え続けている、そんな感じがします。


多くの実用的な知識も(地図や装束、宿泊先の探し方など)書かれていますので、「遍路」に出ることに興味がある方は、実用書として、そうでないけれど、興味はあるという方は、「なぜ、わざわざそんな『自己啓発セミナー』みたいなこと」をするのかを推し量るためのヒントとして、読んでみて損はしないと思いますよ。


率直に言うと、僕にはこれを読んでも「自己啓発セミナーとの違い」が、よくわからなかったのですけど、「わかったようなことが書いてある」よりも、信用できるマンガだな、とは感じました。

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