琥珀色の戯言

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【読書感想】聞かないマスコミ 答えない政治家 ☆☆☆☆


聞かないマスコミ 答えない政治家

聞かないマスコミ 答えない政治家

内容紹介
2012年12月、衆議院議員総選挙の報道特組。国民が目にしたのは、池上彰の質問に、怒り、絶句し、はたまた論旨をすり変えて反論する政治家たちの姿。
政治家の質の低下が問われて久しい今日。しかし、これを政治家だけのせいにしていいのだろうか。
ジャーナリストが「いい質問」を準備し、国民が知りたいことを鋭く問うことによって、政治や政治家の質も向上するのではないか。
池上彰、渾身の政治ジャーナリズム改革論、全8章! これを読めば、選挙報道がおもしろくなる! 政治がおもしろくなる!

今年の参議院選挙特番でも、池上さん、大活躍でしたね。
小泉進次郎さんから「男の嫉妬」についての話を引き出したりもされていました。


この本は、2012年12月に行われ、民主党から自民党へ、再度の政権交代が行われた衆議院選挙のときの池上さんの選挙特番を中心に「政治家とマスコミ」について書かれています。
ひらたくいえば、「政治家と運命共同体になってしまって、国民のために働いてくれないマスコミに喝!」という内容です。

 政治に関するテレビ番組や新聞記事を面白いと思ったことがありますか?
 あまりないのではないでしょうか。政治家へのインタビューですと、選挙を勝ち抜いた候補者への質問で、次のようなものがよくあるパターンです。


「当選おめでとうございます。いまのお気持ちは?」


 これではスポーツ選手に対するヒーローインタビューと同じではありませんか。このレベルの質問をしていれば、政治家の答えも容易に想像できます。聞かずもがなの質問。それは「いい質問」ではないのです。

 これ、スポーツ選手へのヒーローインタビューとしても、あまり面白いものではないとは思うんですけどね。オリンピックで金メダルとか、ペナントレース制覇の際の野球の監督とか、ものすごく大きな成果を出して、とにかくその人のいまの声を聴きたい、というようなシチュエーションでなければ。


 でも、これが「いい質問ではない」と感じる人って、どのくらいいるのでしょうか。
 みんな「わかりきったこと、聞かなくてもねえ」と思いつつも、なんとなく聞き流す、その繰り返し。僕もそうです。
 池上さんは、この本のなかで、「政治家との関係を慮って、相手が聞かれたくないことは聞かない、追及しない政治記者たち」に苦言を呈しています。


 2013年1月、1974年に、田中角栄・元総理の金脈問題が立花隆さんによって『文芸春秋』に発表されたのですが、それを最初に元総理に直接問いただしたのは、外国人特派員たちだったのです。
BBC記者のホースレー氏は、朝日新聞の記者の取材に対して、こう答えたそうです。(『GLOBE』2013年1月10日号)

「民主主義の中でメディアの大切な役目は、与野党とも平等に監視し、不正があれば追及することだ。英国のメディアは、政府高官や有力政治家などに対しても直接的に、時には無礼なほどの質問をする。そうして国民に対し、選挙のための判断材料を提供している。日本は非常に成熟した社会だが、日本メディアの弱さは、長年の取材相手となれ合ってしまうことだ。どんなに長い知り合いでも、聞きにくいことを公の場で質問し、書かなければいけない」
「どんなに長い知り合いでも、聞きにくいことを公の場で質問し、書かなければいけない」
 まさに、これなのです。
 この質問が出たのは、1974年。いまから39年前です。その後、日本のメディアは、「聞きにくいことを公の場で質問し」ているのでしょうか。


 また、ABCに41年間勤務していたというアメリカの伝説的なキャスター、サム・ドナルドソンさんは、こんなふうに述べているそうです。

「大統領の取材をするときには、二つのことを忘れないように心掛けている。
 第一に、大統領に質問しない限り、答えは見つからない。そして第二に、大統領を傷つけるのは質問ではない。大統領自身の答えだ、ということだ」


 なんでも海外メディアのほうがすぐれている、とも思えませんが(パパラッチとか、悪趣味な取材もありますから)、政治記者たちの覚悟、そして、「誰のために取材をしているのか」という意識には感服せざるをえません。
 まあ、あちらにとっては「それが当然のこと」なのかもしれませんが……

 
 そして、池上さんは、日本の政治報道が「政策」よりも「政局」中心であることに苦言を呈しておられます。

 たとえば民主党の野田内閣時代、野田首相が消費税の増税方針を打ち出したのに対して、小沢一郎氏を中心とするグループは、これに反対して党を飛び出しました。このとき、テレビも新聞も、小沢氏はいつ行動を起こすのか、何人がついていくのか、等々は詳しく報じましたが、「なぜ消費税増税に反対するのか」という肝心の理由が漠然としていました。
 政治家の動きを取材するのは楽です。もちろん政治家が雲隠れしたりして、取材それ自体がむずかしいこともありますが、こうした政治家たちの動きははっきりしていますから、「誰それがどこのレストランに集合した」などと報じていれば、なんだか政治取材をしているような気になります。
 ところが実際には、これは単なる政治家動向報道です。どのような政策が日本にとっていいことなのかは、こんな報道からでは見えてきません。
 消費税増税になぜ反対するのか、きちんと質問するべきだったのです。消費税増税マニフェストに書いていなかった、という理由で反対しているのか。別にマニフェストに書いていないことだって、政策として打ち出すことはあるはずです。
 消費税増税に賛成すると、次の選挙で不利になるからなのでしょうか。明らかに、このタイプの議員たちが多かったのですが、結局テレビも新聞も、これについて政策論として追及することはありませんでした。

 これに関しては、「その(政局報道の)ほうが視聴者が喜ぶはず」というメディア側の思惑もあるのでしょうし、実際、そのほうが「視聴率が取れる」と思われてきたのです。
 でも、メディアの思い込みと、視聴者の意識は、時代ともに乖離してきているような気がします。
 その証拠として、これまで、他の局が選挙特番をやっているときも、アニメかゴルフを放送しているようなイメージだったテレビ東京の選挙特番が、池上さんを中心とした「面白い選挙特番」への取り組みにより、前回の参議院選挙のときには「民放ナンバーワンの視聴率」となりました。
 こんなに長い間、日本が低迷しているのだから、みんな「政策」に疑問を持ち、もっと知りたいと思っていたんですよね。


 1000円+消費税で、200ページあまりの読みやすい本です。
 これまでの池上さんの著書で語られていることの繰り返しもけっこう多いのですが、「いままで当たり前だと思い込んでいたことに、あらためて疑問を持てるようになるきっかけ」になるのではないかと思いますよ。

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