俺のイタリアン、俺のフレンチ―ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方
- 作者: 坂本孝
- 出版社/メーカー: 商業界
- 発売日: 2013/04/03
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Kindle版もあります。
- 作者: 坂本孝
- 出版社/メーカー: 商業界
- 発売日: 2013/05/17
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出版社からのコメント
今、東京・銀座、新橋界隈で長蛇の行列をつくっている「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」。
その始まりは2011年9月のことで、彗星のごとく飲食の街に現れた。
1号店の「俺のイタリアン新橋本店」は16坪で月商1900万円をクリアするなど、軒並み驚異的な繁盛を呈している。
その「俺の」シリーズを率いるのは坂本孝氏。
坂本氏は「ブックオフ」の創業者であり、16年間で1000店舗に成長させた人物である。そして突然の退任。
一時はビジネス社会から姿を消した坂本氏だが、再びの挑戦になぜ飲食業を選んだのか。
前代未聞の繁盛店はいかにして誕生したのか。
そして、これからのビジョンをどのように描いているのか。
まさに事業を創り出す天才、坂本氏がこの本の中で余すことなく語り尽くす。
あの「Chikirinの日記」で採り上げられていたのを読んで購入。
僕は地方在住なので、実際に行ったことはないのですが、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」の名前くらいは聞いたことがあります。
というか、『カンブリア宮殿』で紹介されていたのを観たんですよね、たしか。
店の名前と「立食ですごい料理がとにかく安い」というのは記憶に残ったのですが、経営者がどんな人かは、すっかり忘れてしまっていました。
ビジネスの戦いに勝つ条件は、そのビジネスモデルに「競争優位性」があること。そして、参入障壁が高いことです。私は事業家として歩んできた人生の中で、この法則を学んできました。
私はこの競争優位性を、飲食業の中で追求しました。私が行ったことは、一流の料理人が、一流の料理をつくり、かつてないおいしさとリーズナブルな価格で提供し、そしてお客さまに驚くほどに「おいしい!」「安い!」と感じていただくことでした。
ですから、この「じゃぶじゃぶ!」とは、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」が圧倒的な競争優位性を持つために、「原価をじゃぶじゃぶかけろ!」と、一流の料理人たちに言っているわけです。
それによって、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」は、おかげさまで行列の絶えない店に育ち、さまざまな方面から注目をいただくようになりました。
この業態のはじまりは2011年9月、東京・新橋にオープンした「俺のイタリアン」です。コンセプトは高級店で活躍してきた一流の料理人が料理をつくり、高級店の価格の2分の1以下で提供するというものです。
その後、店舗展開をしていくわけですが、15〜20坪程度で、いずれも1日3回転以上していて、月商1200万〜1900万という繁盛店ぞろいです。フードメニューの原価率は60%を超えていますが、これを立ち飲みのスタイルにして、客数を回転させることによって、これまでの常識にない数字をつくり上げているのです。シミュレーションでは、原価率が88%であっても利益が出ます。
こういうのって、成功してから言われると、「その通りだなあ」なんて感心してしまうのですが、最初にこの「高原価率・高回転」を著者が打ち出したときには、「ありえない」と周囲は呆れていたそうです。
外食産業の世界では、原価率は20〜30%くらいというのが「常識」。
人件費や光熱費、家賃などを考えると、極力原価率を抑えるのが、利益を出すための秘訣だったのです。
ところが、著者は、その「聖域」に、あえて切り込んでいった。
「お客さん一組あたりの金額が下がっても、回転率を上げて『薄利多売』にすれば、十分な利益は出る」
著者は、1990年に『ブックオフ』を立ち上げ、1000店舗の大チェーン店に育て上げました。
そんな著者でさえも、『俺のイタリアン』『俺のフレンチ』をはじめるまでのビジネス人生では、ブックオフでの成功を含めて、「2勝10敗」だったと述懐されています。
こんなに思い切りがよくて、先見の明がある人でも、そのくらいしか勝てないのか……と、僕は意外でした。
でも、考えてみれば『俺のイタリアン』も、最初から成功が約束されていたわけではありません。
いくら安くて、美味しくて、都心にあっても「1日3回転」というのは、そんなに簡単ではないはずです。
お客さんだって、「立食」というスタイルそのものに抵抗を感じるというか、「食事のときくらいは、ゆっくりしたい」と考える人は多いはず。
待っている人も多ければ、なんとなく、せかされているような気もするでしょうが、常に行列しているくらい混んでいないと、経営が成り立たない店なのです。
高原価率・高回転率じゃないと厳しいというのは、同じようなスタイルの競合店ができれば、ちょっと売上が落ちただけでも、苦しくなってしまうリスクが高い。
(それでもあえて、著者は「銀座8丁目」に集中して出店する、という戦略を貫いているのですけど)
何より、こんな冒険に付き合ってくれる、腕利きの料理人を探し、口説き落とすことは、誰にだってできるものではありません。
この本のなかで僕が驚いたのは、著者が「一流の料理人」にこだわっていることでした。
「安くて、いい材料を使っている店」であれば、それなりにお客さんは来るのではないか、と思ったんですよ。
でも、それだけでは十分じゃないと、著者は考えているのです。
「いま日本の中で、ミシュランの星付きクラスの料理人が一番在籍しているところはどこですか?」
それは、高級ホテルでもない、高級レストランでもない、私たちの会社なのです。奇跡と呼べるようなことが続いているのです。一流の料理人が増えていくことによって、当社の料理のクオリティはますます高度に安定してきています。
では、なぜ、著者のもとには、そんな料理人たちが集まってくるのか?
料理人のお給料は、日本にいる料理人で、かつて海外で活躍して名声を得ている人でも、年収が600万〜700万というのが実態です。私は、飲食業界の資金体系は低すぎるのではないかと思います。ですから近い将来に、なんとかして1000万円プレーヤーをたくさん増やしていこうと思います。
これを読んで、僕は驚きました。
これだけ「料理」がもてはやされている時代なのに、世界レベルの料理人でも、大企業の課長クラスほども稼げていないのが「常態」なのか……と。
もちろん、一部の超有名料理人やオーナーシェフは、もっと稼いでいるのでしょうけど、飲食業界というのは、まだまだ「低賃金体質」なんですね。
著者は「お客さんのニーズにこたえる」のと同時に「料理人の地位向上」も考えているのです。
もっとも、『俺のイタリアン』の客数、回転率と料理人の数からすると、たぶん、厨房はものすごく忙しいんじゃないかとは思いますが。
それについては、こう仰ってもおられます。
他のお店より、5倍忙しい当社はそれだけ早く技能を習得することができます。さらによりたくさんのジャンルや流派を経験してきた料理人が多数集まり、自由闊達に得意料理を繰り出す企業風土の中にいることで、より多くの刺激を受けることができます。
ああ、なんだかこの「忙しいけど、実力がつくし、将来の役に立つよ」っていうのは、医者の世界の「ハードな研修病院」みたいです。
僕などは「キツイところは、極力避けたい」と思いながら生きてきましたが、腕を磨きたい、やる気がある人にとっては「厳しい環境」というのは、必ずしもマイナスではないんですよね。「実力がつくような忙しさ」には、魅力を感じる人も多いのです。
そして、ここで働く一流料理人たちも、待遇だけではなくて、「自分たちの料理を、もっと安い値段で大勢の人に食べてみてもらいたい」という「社会的使命」みたいなものを持っているんですよね。
「うちの店には、一流の客しか来ないんだ!」というプライドを持っている料理人もいるけれど、そういう姿勢に疑問を抱く料理人もいる。
もちろんそれは、どちらかが正しい、というわけではないのだけれど、『俺のイタリアン』『俺のフレンチ』は、料理人たちの新しい「生きがい」みたいなものを引き出してもいるのです。
『俺のイタリアン』の競争優位性は、原価率を高くして、回転率を高める、というシステム面はもちろんなのですが、なんといっても、「優秀な人たちにやりがいを与えられる環境」にあるのではないか、と僕は感じました。
私は、たくさんの料理人と面接して気付きました。
それは、「飲食店にとって大切なのは、料理人に裁量権を与えることだ」と。
アイデアと技術のある料理人が、その腕を十二分に振るうためには、切磋琢磨する環境が必要になるでしょう。料理人に裁量権を与えることは、その出発点となります。
そして、会社に10店舗あったとすれば、裁量権を持ったそれぞれの料理人が、お互いに刺激し合い学び合っていくことでしょう。こうして同じ社内で競争するとなれば、各店のデータがすべて分かった上での競争になるので、力が付くことになります。
実際は「裁量権を与えることがプラスになるような人材」を集めて、登用することが、いちばん難しいのかもしれませんが。
僕は著者の年齢を意識せずに読み進めていました。
そして、最後のほうで、現在著者が72歳であるというのを知って驚きました。
読みながらイメージしていたのは、40代〜50代くらいの「働き盛りと言われる年齢の、エネルギッシュな経営者像」だったので。
これは『葉桜』の叙述トリックなのか?と(ここは、わからない人は、わからなくても全く構わない一文なので、読み飛ばしてください)。
ちなみに『俺の』シリーズには、まだまだ続きがあるようです。
人間の「活力」って、年齢によって衰えるとは限らない。
これを読むと、混んでいても、立食でも、一度は行ってみたくなりますね、『俺のイタリアン』に。