琥珀色の戯言

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【読書感想】池上彰が聞いてみた―「育てる人」からもらった6つのヒント ☆☆☆


内容紹介
池上彰氏が著名人と語る! 王貞治氏、瀬戸内寂聴氏、福原義春氏、乙武洋匡氏、齋藤孝氏、川口淳一郎氏・・・この6人から池上彰氏が引き出した言葉たちは、「子どもを育てる」「部下を育てる」「選手を育てる」など・・・日々直面する様々な場面でのコミュニケーション・考え方にヒントを与えるものである。人を、子どもを、部下を、選手を育てるプロ「育てる人」6人から池上彰氏によって引き出された名言が満載の一冊。


池上彰さんが各界の著名人と「人を育てる」ことをテーマに語った対談集。
もともと、教科書でおなじみの帝国書院が、全国の学校の先生や教育委員会向けに発行している「階(きざはし)」という小冊子に連載されていたものなのだそうです。
それもあって、学校の先生が読むことを想定した話が多めではあるのですが、「人を育てる」ということについての、さまざまなヒントが詰まっています。
ただ、選ばれた6人というのは、乙武さん、齋藤さん以外は、僕にとってはけっこう年上なので、「ちょっと世代が違うかな」と感じるところもありました。
それでも、極めた人たちの「育てる人たちへのメッセージ」には、考えさせられるところが少なからずあります。


王貞治さんとの対談から。

池上彰こうやってずっと野球とともに人生を歩んでこられて、野球を通じての子育てとか、スポーツ少年のいろいろな取り組みもされていらっしゃいますよね。そこで今いちばん大事にしていらっしゃることは何ですか。


王貞治そうですねえ。私はやはり、「関心をもっているよ」ということを子どもたちに伝えることですね。
 それから、最初はある程度仕向けて、方向を示してやることが必要だと思います。大人が子どもと対する場合は、絶対に対等ではありません。最初は大人がリーダーシップをとらなければいけないと思います。
 ときにはスパルタでもいいと思うんです。「気づかせる」ことが大切ですから、子どもが嫌がるのを「とにかくやってみろ」と。それでやってみて、「できたじゃないか!」「案外おもしろいだろう?」という体験をさせることは、自主性に任せたらできないところがあるんですよね。
 本人がやりたがらないことでも、上達するうえで、成長するうえで大切なことだったら、無理矢理やらせる部分というのもあっていいと思います。気づけば、あとは自分でやれるようになります。


池上:子どもが気づける方向に仕向けるんですね。

王さんは、選手・監督時代の経験から、「フリーバッティングでカーンといい打球がいったら、選手は必ず監督の顔を見ますよ」と仰っています。
ああ、確かに子どもにも、そういうところがある。
あんまり束縛されるのは嫌だけれど、「ちゃんといいところは見ていてほしい」。
実際は、僕も時間がなくて、子どもの「どうだ!」に対して、うまく反応できなかったり、目を離していることが多いよなあ、と反省させられました。
「子どもに方向性を示す」とか「スパルタでもいい」という言葉には、なんとなく拒絶反応を示してしまうのですが(それはあなたが「世界の王』だからでしょう!」とかね)、たしかに、ある程度は「大人がリーダーシップをとる」あるいは「責任を持つ」ことが必要なんだと思います。
その匙加減がまた、難しいのでしょうけど。


資生堂の名誉会長・福原義春さんは、本を読む時のポイントを問われて、こう答えておられます。

福原:本というのは活字を追うだけではダメで、何が書かれているのか考えながら読まなければ、目を通す価値がない。
 経営者仲間にも、「ボリュームがあって、やっかいな本だけれど、司馬遷の『史記』はいいよ」と、薦めることはあります。すると、みなさん、「あんな長いものを読めるか」とおっしゃる。
 ところがひとり、「今まで、何年に皇帝が代わって何という国になったという歴史の流れにばかり目がいっていた。だから、なんてつまらない本だと思っていたのだけれど」と言ってくる人がいた。「福原君が言うように、なぜその皇帝は倒れたのかとか、なぜその代は繁栄したのかどか、そんなことを考えながら読んだら、とても面白く読めたよ」と。


池上:史記』ですか。経営者の方々は、経営学の本だとかビジネス書をお求めになるのだと思っていました。


福原:ビジネス書やノウハウ本が役に立つのは、出版されてからせいぜい2〜3年ですよ。


僕も学生時代に『史記』を通して読んだことがあるのです。
そのときは、正直退屈に感じる巻もあったし、同じ事象が採り上げられているさまざまな人物を主人公によって語り直されるところが、面白くもあり、まどろっこしくもあったのですが、今から考えると、あの本には「人間のさまざまな類型」が詰まっていたと思うのです。
まあ、僕の場合は、その読書体験が、現実の役に立っているかどうかは、甚だ疑問ではありますが。
たしかに、「流行のビジネス書やノウハウ本」って、2〜3年くらいもてば御の字、かもしれません。
2〜3年というのもおそらく福原さんは遠慮して仰っていて、1年もつ本も、ほとんど無いような。


はやぶさ』のプロジェクトマネージャーである川口淳一郎さんは、こんな話をされていました。

川口:ものづくりが競争力をなくすというのは、避けなければならないことです。けれど、製造コストが上昇してくると、ものづくりの競争力は失われるんですね。日本はバブル経済の崩壊という形で競争力を失ってしまった。


池上:しかし、日本はものづくりの国といわれていますよね。どうしたらいいのでしょう。


川口:大事なのは、行き詰まったら、「新しいものをつくる」ということです。長い間、日本では、いいものを大量につくっていけば、どこまでも発展していくという誤解が続いていました。しかし、それではいずれ必ず崩壊します。どこかで「新しいものをつくる」方向に転換しなければいけません。
 私たちが考えなければならないのは、バブル経済がはじけてからの二十年以上、何をしてきたか、ということです。ものづくりの世界は海外に散らばり、国内の工場はどんどん減り、空洞化しています。この状況を高度経済成長の時代に戻すことで製造業を立て直すのではなく、新しいものをつくり出す方向に目を向けるべきなんです。そのきっかけに「はやぶさ」がなれば、願ったり叶ったりです。

これを読んで、バブル以降の日本の迷走の一員がわかったような気がしました。
「いいものを大量につくればいい」と、僕も思っていたし、それは日本の優れたところだと信じていたのだけれれど、これだけ海外の技術が日本に追いついてくれば「効率化」だけでは、人を雇うのに時間がかかる日本が勝てないのは必然ですよね。
(いつかは、世界が「フラット化」してしまうときが来るのだとしても)
「昔に戻す」のではなくて、「新しいものをつくる」ようにしていくしかないのか……
もちろん、そう言うのは簡単だけど、実際にやるのは難しいことは承知のうえで。


すごく目新しいとか、著名人の意外な一面が明らかになるような本ではないのですが、「人を育てる立場」にあって、困惑しているのなら、読んでみて損はしないと思います。
当たり前のことなんですが、こういう有名人たちも、みんな「育てる」ことに対しては試行錯誤を続けているのだなあ、ということもわかりますしね。

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