琥珀色の戯言

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ウルフ・オブ・ウォールストリート ☆☆☆☆



あらすじ: 学歴や人脈もないまま、22歳でウォール街投資銀行で働きだしたジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)。巧みな話術で人々の心を瞬く間につかみ、斬新なアイデアを次々と繰り出しては業績を上げ、猛烈なスピードで成り上がっていく。そして26歳で証券会社を設立し、約49億円もの年収を得るまでに。富と名声を一気に手に入れ、ウォール街のウルフという異名で呼ばれるようになった彼は、浪費の限りを尽くして世間の話題を集めていく。しかし、その先には思いがけない転落が待ち受けていた。


参考リンク:『ウルフ・オブ・ウォールストリート』公式サイト



 2014年3作目の映画館での鑑賞作品。
 公開初日の金曜日のレイトショーで、観客は30人程度でした。
 2014年に入ってから公開された作品を観るのは、今年初めてです。
 
 
 金融モノにそんなに興味があるわけではないのだけれども、マーティン・スコセッシ監督とディカプリオのコンビ、それも「実在の人物をモチーフにしたもの」には『アビエイター』という傑作があります。
 僕はディカプリオの映画のなかで、この作品がいちばん好きなんですよね。


 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は、家柄もカネもコネも持たない無名の男が証券取引の世界で、かなりダークな手段を使って成り上がり、酒池肉林の世界にひたりまくる、という話なのですが、まあなんというか、とにかくこの主人公・ジョーダン・ベルフォートがやることなすことムチャクチャなんですよ。
 でも、彼のセールストークには、客が「買わないと損をするのではないか」と不安になるような吸引力があるのです。
 いわゆるマルチ商法の「教祖」みたいな感じなのですが、カネをガンガン稼ぐ一方で、刹那的に稼いだカネは使いまくります。
 会社で就業時間後にストリッパーまで呼んでパーティを行い、場を盛り上げるための、ちょっとしたゲームに何万ドルもの賞金を出す。
 社員たちを鼓舞し、会社への忠誠心を抱かせる「F○○K」連発のスピーチ、会議はいつもドラッグをキメて、ラリった状態で、など、もうほんと、あまりに凄まじすぎて、笑いをこらえることができませんでした。
 これが「実在の株式ブローカーの回想録を元にした物語」だというのだから!

 
 「被害者」にとっては、笑いごとじゃないのだろうけれども、人というのは、あまりにも常識外のものを目の当たりにすると、もう、笑うしかないのだよなあ。
 いやほんと、「そこで引き返しておけば……」っていうところもあるんだけれどもねえ……
 

 とにかく、過剰なところがこの映画の魅力なのですが、僕はやっていることは酷いと思いつつも、このジョーダン・ベルフォートという人物が、あまり憎めなかったんですよ。
 上がらないような株を巧みにすすめて荒稼ぎしたり、株式上場のときに自分の懐に多額のカネが入るようにしたり、悪いこと三昧ではあるのですが、その一方で、仲間に対する情の厚さ、みたいなものもあって。
 ジョーダンは、自分の会社をはじめたときに集めた、麻薬の売人やうだつのあがらない連中などに自分のやりかたをレクチャーして「社員」としていくのです(というか、「ペニー株」とかいう怪しげな株を売るような会社に、有名大学を出たエリートが入社してくれるわけもないので)。
 そして、会社がどんどん大きくなっていっても、創業当時の「元ダメ人間たち」(というか、偉くなっても、ドラッグ、セックス三昧で、ロクなもんじゃないんだけど)を、そのまま幹部として登用していくのです。
 僕はスティーブ・ジョブズとかジェフ・ベゾスなどの伝記をいくつか読んできたのですが、彼らと、その周囲に集まってくる「超エリート」たちは、すごく「流動的な雇用関係」なんですよね。
 あるプロジェクトに必要があればヘッドハンティングされてきて要職につけられ、うまくいかなかったり、役割が終われば、会社を辞めたり、追われたり。
 能力があったり、会社の上層部にいるほど、そういう傾向が強くなります。
 創業当時の「仲間」たちは、会社が大きくなり、より有能な人間が必要になったときには、容赦なく切り捨てられていく。

 
 ところが、ジョーダンは、「こいつらみんなアホだなあ!」なんて言いつつも、自分からは仲間を見捨てない。
 もし、彼がそこでドライになりきれていたら、もしかしたら、彼は転落せずにすんだのかもしれません。
 そういうのが「ヤンキー的なつながり」なのかもしれないけれど、ジョーダンって、「人間くさい男」なんですよね。
 彼の強引なやりかたが問題視され、社内の淫らなパーティが有名雑誌などでバッシングされたらどうなったか?


 なんと、彼の会社には、入社希望の若者たちが、溢れかえるようになったそうです。
 何考えてるんだ、アメリカ人……
 でもさ、これはたしかに、心のなかで、多くの人が、欲していたもの、なのかもしれません。

 
 結局、この映画を観ていても、ジョーダンはずっと何かに追われているようで、あまり幸せには見えないんですよ。
 ただし、彼を追う、「謹厳なFBI捜査官」が、地下鉄で見せた寂しげな表情も、僕にはすごく印象的だったのです。
 どんなに大金持ちになって、セックスやドラッグに溺れても、幸せにはなれない。
 でも、そういう欲望に負けずに、真面目に生きたからといって、「幸せ」を感じられるともかぎらない。
 同じアホなら、踊らにゃ損損!だというのは、一面の真実なのかもしれない。


 ディカプリオさんの演技も素晴らしいというか、なぜこの役がこんなにハマってしまうんだレオ様!
 顔芸も連発で、突き抜けてしまっている感じ。
 プロモーションで来日したときのインタビューには「ウォール街の狂乱」に対して、しずかに違和感を表明していたのですけどね、ディカプリオさん(ちなみに、ディカプリオさんも「株はほんの少しだけ持っている」そうです)。


 ジョーダン・ベルフォートという人の半生を、説教くさく描くのではなく、「ムチャクチャなんだけど、こういう生きかたをした人もいるんだなあ」と感心してしまうくらい、フラットに描いているのが、この映画のすごいところなのでしょう。


 そもそも、こういう方法でなければ、「彼ら」がのし上がって、金持ちになる方法があったのかどうか……
 180分もある長尺なのだけれど、本当に「面白い映画」でした。
 それにしても、マーティン・スコセッシ監督は、枯れない人だよねえ……というか、昔の作品のほうが、ストイックな世界を描いていたような。
 ちなみに、Wikipediaによると、この映画では「『fuck』が506回使われており、非ドキュメンタリー作品としては史上最多となっている」そうです。

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