- 作者: 古川聡
- 出版社/メーカー: マイナビ
- 発売日: 2013/12/21
- メディア: 新書
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KIndle版もあります。
- 作者: 古川聡
- 出版社/メーカー: マイナビ出版
- 発売日: 2013/12/21
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内容(「BOOK」データベースより)
あらゆる極限状態におけるストレスに耐え、職務を全うする究極の職業が「宇宙飛行士」です。宇宙飛行士という職業は特殊なものかもしれませんが、そこで学んだことは「様々なストレスにどう対応するか」「目的の達成に向けて何をすべきか」「良い人間関係を作るためにはどうすればいいのか」「想定外の事態にどう対応すべきか」など、人生に共通の課題です。ぜひあなたの身の回りのことに置き換えながら、本書を読んでみてください。今は社会も想定外の連続ですが、宇宙飛行士の「心の鍛え方」は今の社会を生き抜くという困難なミッションの遂行にもきっと役立つはずです。
最近、宇宙飛行士の選抜試験や、訓練の様子も明かされるようになってきて、あらためて、「宇宙飛行士」という仕事の凄さを実感するようになりました。
「実感」といっても、僕には「想像する」ことしかできなんですけどね。
この新書は、日本人宇宙飛行士、古川聡さんによって書かれたものなのですが、古川さんが宇宙飛行士に選ばれたのは、1999年2月のことでした。
大学に外科医として勤務していた古川さんは、宇宙への夢を抱いて、見事、過酷な選抜試験に合格したのです。
ところが、その後に古川さんを待っていたのは、大きな状況の変化でした。
そのときは5年後くらいには宇宙に行くだろう、と皆が思っていました。
しかし、2003年2月に起きたスペースシャトル・コロンビア号の空中分解事故によって、その原因究明までスペースシャトルの打ち上げが無期限で延期され、私たちも訓練方針の大幅な変更やそれによる生活の変化など、大きな影響を受けることになります。
(中略)
結局、私がロシアのソユーズロケットで宇宙に行ったのは、宇宙飛行士候補に選ばれてから実に12年と4ヵ月後。日本人宇宙飛行士としては最長の待ち時間になりました。
古川さんは、1964年生まれですから、35歳で宇宙飛行士候補に選ばれたわけです。
そして、実際に宇宙に行けたのは、その12年後。
35歳から47歳という、「職業人としては、いちばん体力と技術のバランスがとれている時期」に、不測の事故が原因とはいえ、ずっと「厳しい訓練を受けながら、待ち続けることを余儀なくされた」のですから、想像もつかないようなつらさだったと思います。
外科医のままだったら、1000人くらい手術できたかもな、なんて考えたこともあったかもしれません。
それでも、古川さんは諦めず、宇宙に向けての準備をすすめていきました。
スペースシャトル計画が中断となったため、宇宙に行ける可能性を高めるため、ロシアのロケットの操縦訓練をし、ロシア語も勉強されたそうです。
(30代半ばからの新しい言語の習得はキツかった、とも述懐されています。そりゃそうだよなあ)
この新書のなかには「つねに冷静で、何が起こっても諦めずに状況に対処していく」ことが求められる宇宙飛行士の訓練の様子や、モチベーションの保ち方、そして、古川さん自身の宇宙での体験などが綴られています。
なかでも、僕が印象に残ったのは、この話でした。
自分の意見に対して、他人から何かを指摘されると、一瞬構えてしまうことはありませんか。指摘されたことで欠点を見つけられた気がして自信を失ってしまう人もいるかもしれません。しかし、指摘を受けるということは捉え方次第でネガティブな反応をすることなく、有効に活かすことができるのです。
(中略)
指摘する際はどうしても「遠慮」が出てしまいがちです。もしかすると、日本人にありがちな傾向なのかもしれません。それが自分の専門外の訓練であればなおさらです。
「もしかするとそんなことは承知しているのかもしれない」
「指摘すると気を悪くするかもしれない」
そう思うと、なかなか言い出せません。訓練中にどこか遠慮している自分に気付きました。そんな考えを変えてくれたのが、ある訓練でお世話になったスペースシャトルの船長の一言でした。
あるとき、「これは言うしかない」と思ったことがあり、リーダーである彼に意見を求めました。すると、リーダーは一言「グッドポイント、意見してくれてありがとう」と言ってくれたのです。とてもうれしく、やる気にさせてくれる一言でした。
そのリーダーはミッションの遂行という共通の目的に向けて、お互いに指摘しやすい雰囲気をつくっていました。
ああ、「いい質問ですねえ!」って、やっぱり大事なんだなあ。
古川さんは「こういう指摘は賛同できるものばかりではないかもしれないが、賛否はさておき、目的の遂行のために自分に指摘してくれたことに感謝の言葉をかけることが大事なのだ」と仰っています。
まず、「指摘してくれた、ということそのものに感謝してみせる」のです。
そうすれば、指摘したほうも、されたほうも、「感情のしこり」が残りにくいし、相手を「話しやすい人」だと認識でき、コミュニケーションが円滑になりやすい。
宇宙での作業では、ちょっとしたコミュニケーションへのためらいが、命取りになることもありえますしね。
実生活でも、言葉遣いや仕事のやり方のちょっとした違いなどが気になってしまうことがあります。国際宇宙ステーションで数ヵ月暮らしてみて感じたのは、こうした異なる背景を持つ人同士がうまくやっていくための画期的な方法はなく、やはり地道にお互いのことをよく知ることが大切なのだと思いました。
これは大きな文化の違いから小さな習慣の違いまで、共通の処方箋です。そのための方法として、仕事でいえば勤務時間外の付き合いが効果的に思います。
こうした「仕事を離れた付き合い」を重視する文化は日本だけかと思われがちですが、ロシアでもアメリカでもそうでした。少なくとも国際宇宙ステーションに参加している国では共通の考え方です。
コミュニケーションの取り方はどこも同じようです。ロシアは訓練をする建物の一角に「お茶の部屋」というお茶飲み部屋があります。訓練の合間に集まってお茶を飲みながら、ベテラン宇宙飛行士や若手が集まって情報交換をします。アメリカでも勤務時間外に一緒に食事したりしてコミュニケーションを取っていました。
日本でも、飲みながらコミュニケーションを取って交流を深める「ノミュニケーション」が古くからあります。最近は敬遠されることも多いようですが、宇宙開発の現場でも重視されている様子を見て、あながち間違ってはいないのだな、と思いました。
別にお酒を飲まなくてもよくて、食事でもお茶でも、勤務時間外のコミュニケーションが大事だと感じます。また、こうしたコミュニケーションを通してお互いの違いを認め、尊重し合うことが大切です。
僕はこの「ノミュニケーション」ってやつが苦手で、勤務時間外にそんなに気を遣うなんて嫌だなあ、なんて思いもするのですが、古川さんの話を読んでいると、お互いを理解するためには、そういう付き合いには大きなメリットもある、というのがわかります。
そして、みんなで協力して大きなミッションに立ち向かおうという人たちにとっては、そういうやり方は「万国共通」のものなのだな、と。
もちろん、お酒を無理にすすめたり、お説教を延々と聞かされたり、ということはないでしょうけど、逆にそういう「ちょっとお酒が入ったときの、人間らしい一面」みたいなものに触れておくことが、長い時間、狭い空間で一緒に生活するうえで、大事になることもあるのでしょうね。
古川さんは、「ストレスに対応するため」の考え方のひとつとして、こう書かれていました。
しかし、成果が見えない中で続けるというストレスに耐えるのは、簡単なことではありません。宇宙飛行士の訓練ではストレスに耐えられるかどうかというよりも、仕事でそれを使うわけですから、そこは割り切ってやるしかありません。そうではない方は、どうすればよいか。
単純に言えば、「割り切る」そして「できることをやる」の2点です。元プロ野球選手の松井秀喜さんは、「自分にコントロールできること、できないことに分けて考え、できないことに関心を持たない」そうです。私も「自分がコントロールできないことを心配しても仕方ない。自分にコントロールできること、自分にできることをやればいいんだ」と思います。
これ、村上龍さんも、『自由とは、選び取ること』という著書のなかで、同じようなことを仰っているんですよね。
「悩み」と「現実」について。
雇用状況が悪くてなかなか仕事が見つからず、たとえ正社員になっても給料が上がらないというのは悩みではなく、ほとんどすべての人に立ちはだかる現実です。現実は、基本的には変化しません。
そういう「現実」というか「社会情勢」というのは、「自分には変えようがないこと」であり、それについてひとりの人間がいくら考えても、どうしようもないのです。
だから、「その状況下で、行動していくかについて、『悩む』べきなのだ」と。
もちろん、人それぞれ「手が届く範囲」は違うのですが、「現実」を変える力を持つ人は、ほとんどいません。
うまく自分をコントロールできる人って、こういう「取捨選択」を意識して、「できることをやれる人」なのでしょうね。
逆に言えば「できないことは、あきらめてムダな時間や力を使わない」のが上手な人。
具体的なトレーニング法とかが書かれているわけではないのですが、僕にとっては、参考にしたい言葉が詰まっている新書でした。
いやまあ、読んだだけで実践できれば、苦労しないんですけどね……