琥珀色の戯言

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【読書感想】島はぼくらと ☆☆☆☆


島はぼくらと

島はぼくらと


Kindle版もあります。
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内容紹介
直木賞受賞、第一作
待望の書き下ろし長編


母と祖母の女三代で暮らす、伸びやかな少女、朱里。
美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、衣花。
父のロハスに巻き込まれ、東京から連れてこられた源樹。
熱心な演劇部員なのに、思うように練習に出られない新。


島に高校がないため、4人はフェリーで本土に通う。
「幻の脚本」の謎、未婚の母の涙、Iターン青年の後悔、
島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。
故郷を巣立つ前に知った大切なこと――すべてが詰まった傑作書き下ろし長編。


瀬戸内海の人口3000人弱の島、冴島。
その島に住み、毎日船で本土の高校に通っている男女4人組の「青春小説」です。
辻村深月さんのことだから、途中でサブカルこじらせキャラクターが出てきて、ドロドロした話になったり、何か事件が起こったりするんだろうな、と思いながら読み始めたのですが、意外にも直球勝負の小説で、爽やかな読後感だったのです。
ああ、これなら中高生にも安心して読ませられるな、と。
もっとも、僕が中高生だったときの記憶では、「そんな子ども向けの青春小説には、全く興味がわかなかった」のですけどね。
まさか、直木賞獲ったので、守りに入ったのか……?などともちょっと考えてしまったのですが、あの東日本大震災のあとに書かれたものですから、「若い世代に向けて、照れずに『希望』を語りかけようとした作品」なのかもしれません。
出てくる人たち、とくに主人公4人がみんな「いい子」だというのは、なんかちょっと「課題図書」すぎないか、とか、ひねくれたオッサンとしては、言いたくなるとこともありますが。


もちろん、まったく毒気のない小説というわけではなくて、むしろ、大人が読むと身につまされるような「大人のめんどくささ」とか、「大人として生きることの哀しみ」みたいなものも伝わってくるものがあります。
島という環境は、けっしてのどかなだけではないし、人間関係の狭さや煩わしさもついてまわります。
「島の親たちは、将来子どもが島を離れることを覚悟しながら子育てをしている」というのは、なんだかすごく胸に迫るものがあります。
どんな親でも、いつかは「子離れ」しなければならないのは同じなのにね。

 ――中近東にある学校が狙撃されて、そこで働いていた日本人女性が亡くなったっていうニュースあったでしょ。最後まで、現地の子どもたちを庇って逃げ遅れたっていう。
 蕗子とはまったく立場が違う女性のニュースだ。新聞には、彼女の恩師だったという60代の女性の投書が載っていた。
 たくさんの悲しみの声が、ニュースで報じられていた。
 地元で行われた彼女の葬儀に、その女性は参列したのだという。女性は、彼女が通っていた中学で教鞭を執っていた。担任ではなかったし、彼女自身も特に印象に残るような生徒ではなかったが、当時、自分はかなり厳しい態度で生徒たちに接していた。
 葬儀の席で、当時の同僚に、何気ない言葉で言われたのだという。「あなたがあんなに厳しい先生でなければ、彼女はその後、こんなことにはならなかったかもしれないね」と。その言葉が突き刺さり、責任を感じているという内容の、それは投書だった。
 蕗子自身には、まったく関係のない事柄のはずだった。
 けれど、これを読んだ時に一番激しく、蕗子の胸はかき乱された。震えた。そして決断したのだ。逃げなければならない、と。
 人が乗っかるのは、栄誉だけではない。人間は、自分の物語を作るためなら、なんにでも意味を見る。

 この恩師は、本当に「責任」を感じていたのだろうか?
「そりゃ、まったく影響を与えていなかったわけではないだろうけど、それは彼女自身の選択であり、そこにあなたが責任を見いだすのは『自意識過剰』なのではないですか?」と僕は思います。
 その同僚も、デリカシーがない人だな、と。


 でも、もしかしたらこの女性も「自分が彼女の英雄的な行動をもたらした一因となっていること」に酔い、自分の物語の一部にしてしまっているのかもしれません。
 あの震災のあとに起こった「自粛」や「『不謹慎』へのバッシング」は、直接の被災者ではない人たちによって、行われたものでした。
 人は、他人の悲劇を「自分語りの道具」にしてしまう。


 もちろん、この恩師自身の感覚としては、「本心から責任を感じるようになってしまった」のでしょうけど……
 もし「あなたは関係ないですよ」と誰かに言われたら、かえって怒り出しそうにも思われます。

 
 ……というような「辻村さんらしい毒気」は、この作品では、極力抑えられており、たいへん読みやすく、読後感も爽やかな「青春小説」になっています。
 中学校の図書館で、部活の練習の掛け声を聞きながらずっと本を読んでいた、そんな頃にタイムスリップしてしまったような気がする、そんな作品でした。

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