琥珀色の戯言

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【読書感想】白ゆき姫殺人事件 ☆☆☆☆



Kindle版もあります(ただ、2014年4月現在「単行本よりは安いけど、文庫よりは高い」価格設定です)
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内容(「BOOK」データベースより)
美人会社員が惨殺された不可解な殺人事件を巡り、一人の女に疑惑の目が集まった。同僚、同級生、家族、故郷の人々。彼女の関係者たちがそれぞれ証言した驚くべき内容とは。「噂」が恐怖を増幅する。果たして彼女は残忍な魔女なのか、それとも―ネット炎上、週刊誌報道が過熱、口コミで走る衝撃、ヒットメーカーによる、傑作ミステリ長編。


ミステリ小説とジャンル分けされていますが、実際は、「美人会社員惨殺事件」というひとつの事象を、たくさんの人が、それぞれの視点で語り、その「事実とのズレ」と「つくりあげられていく虚像」に圧倒されていく、そういう作品です。
「ミステリ」としては、それぞれの登場人物の「主観」や「エゴ」、そして「戦略」が入り乱れていて、これを読んだだけで推理するのは、なかなか難しいのではないでしょうか。
こういう「人間の悪意」みたいなものを容赦なく描くのが、「湊かなえワールド」なのだよなあ、と。
登場人物も、みんな本当のことを言っているとは限らない。
(ただし、それぞれの人物は「自分にとっての事実」を語っている)
読んでいて、芥川龍之介の『藪の中』を思い出してしまいました。


ちなみに、『薮の中』のように「で、真相はどうなんだ?」と投げ出されるわけではなく、きちんと「解決編」まで用意されています。
「実際にそんなことが可能だったのか?」「偶然の要素が強すぎるのでは?」と言いたいところはあるのですが、とりあえず、スッキリする結末にはなっているのです。
恩田陸さんだったら、「で、結局『犯人』は誰なんだ?」と言いたくなるようなオチになっていたんじゃないかな。


これを読んでいると、「もし自分が殺人事件の容疑者になったら、周りの人は、どういうふうにメディアに語り、SNSで発言するのだろう?」と考えずにはいられません。

 私は私の過去が解らなくなってきました。
 私はイジメられっ子だったのか。執念深く、気持ちの悪い女だったのか。呪いの力があるのか。中学も高校も学校中の子たちから嫌われていたのか。親友なんて存在しなかったのか。
 自分の記憶で作られる過去と、他人の記憶で作られる過去。正しいのはどちらなのでしょう。


ワイドショーなどでは、「容疑者の学生時代の卒業文集」などがよく公開されています。
「キレたら怖いところがあった」なんて話をする人もいます。
でも、学生時代に書いた文章なんて、誰でも多少は「イタいところ」があるはずだし、「絶対にキレない人」「キレても怖くない人」の方が「異常」なんじゃないか、とも思うのです。
人間なんて、切り取り方次第で、どんなふうにでも見えてしまう。


文庫の「解説」で、この作品を映画化した中村義洋さんが、こう書かれています。

 物語は、『週刊太陽』の取材記者・赤星雄治が、美人OL三木典子が殺された直後に姿を消した容疑者・城野美姫の同僚や幼馴染み、家族への取材を重ねていく、その証言構成で進んでいくわけだが、まず僕が感心したのは人々が取材されるときの「話を盛っちゃう感」のリアリティーである。
 赤星という男は、取材が下手なのか、リアクションに乏しいのか、とても相手から首尾よく話を引き出せるタイプではない。すると取材相手がどうなるかといえば、赤星のリアクションを引き出そうと、「そーいえばこんなこともあんなことも」と、あることないことビミョーに話を盛り始めるのだ。その無自覚な話の盛り方、増幅のさせ方が、ものすごく「こういうのってあるよな」という既視感を伴って迫ってくる。


正直、この作品で描かれている「事件」には、あんまりリアリティーを感じなかったんですよ。
でも、この中村監督がおっしゃっている「無自覚に話を盛ってしまう人々」の姿と、そうして「盛られてしまった話が暴走していくところ」こそが、この小説の読みどころなのだと思います。
読んでいて、なんとなく、小保方さん関連の話も、実際はどこまでが「事実」だかわからないけれど、最初の大絶賛から、現在の大バッシングまで、こんな感じで「本人の手の届かないところで、盛られてしまっている部分」がたくさんあるのだろうな、と考え込んでしまいました。
「無責任な受け手」である読者や視聴者も、結局「盛られた話」を喜ぶし、それが「誇大」だとわかると、「盛った人々」を責めて、また楽しむ。


巻末のtwitter風のSNSでのやりとりや、週刊誌の記事風に事件のことが書かれている「演出」は、そんなにうまくいっているとは思えないところもあったのですが、なかなか「面白い作品」ではありました。
映画のほうも、DVD化されたら、観てみたいと思っています。
井上真央さんが「さえないOL」の役っていうのは無いよな、という気はするんですけどね。
「さえない役者さん」が主役だったら、興行作品として成りたたないのはわかるのだけれども。

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