琥珀色の戯言

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【読書感想】沸騰! 図書館 100万人が訪れた驚きのハコモノ ☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
人口5万人の九州の小さな町に、全国から100万人が訪れるすごい図書館がある。市民も観光客も満足するさまざまなアイデアの数々と、建設を実現するまでの奮闘を仕掛け人自らが解説する。


内容(「BOOK」データベースより)
これからの本との出会いのカタチ。人口5万人の町に日本中から客が訪れる武雄市TSUTAYA図書館の挑戦。


ぜひ一度行ってみたいと思っている「武雄市図書館」。
その企画立案から、TSUTAYAとの交渉の舞台裏、賛否両論だった市民や図書館関係者とのやりとり、そして、オープン後の予想以上の反響まで、樋渡市長自身が書かれたものです(もしかしたら、市長の話をライターがまとめたものかもしれませんが)。

「市長、もう、閉館です」
 2006年、就任直後のことだ。本が好きな僕は武雄市図書館に行った。ところが到着すると、図書館スタッフから、この一言。
「え? だって、まだ夕方の5時でしょ?」
「ええ、5時が閉館時間です。市長であっても特別扱いはできません。今日はお帰りください」
 こう言われては引き返すしかない。帰ろうとした僕に図書館スタッフはさらに一言。
「それと明日は休館日ですから」
「え? だって、明日は平日でしょ?」
「平日でも休館日なんです。昔からそういう決まりですから」
 いくら田舎の武雄でも夜の7時くらいまでは入れて、平日でも休んでいないはず。それが図書館だ、と勝手に思い込んでいたのでこう言われてショックだった。


短い開館時間に、多い休日。
それまでの武雄市図書館は、いまの時代の図書館とは思えないような施設だったのです。
夕方5時に閉まるのでは、社会人も学生も、利用するのは困難ですよね。
でも、それがこの図書館の「あたりまえ」だったし、それを改善しようと積極的に動いた人はいなかったのです。


樋渡市長は、「TSUTAYA」を運営している、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)との連携によって、「新しい図書館」の建設を試みます。
スターバックスを誘致し、図書館内での本を読みながらの飲食を可能にもしました。
この「図書館内での飲食」によって、本の破損が増えるのではないかとスタッフも危惧していたそうです。

 実際にオープンすると、この心配は杞憂だった。本の破損はほぼゼロ。販売用でも飲食物をこぼして汚してしまったのはわずか7冊だけだ。CCCは代官山蔦屋書店をはじめ、すでにブック&カフェを展開している。このときの経験から、飲食を認めても本の破損がそれほどでもないことを知っていたのだ。

この新書を読んでいくと、周囲が心配していたことは、やってみると実際はそんなにハードルが高くなかったり、かえってプラスの面が多かったりもしているようです。
それまで「キッズルーム」は一般の図書閲覧コーナーとは別室になっていたそうなのですが、新図書館では半開放式となりました。
それによって、子供の声が少し聞こえてくる、という批判もあったようですが、その一方で、子供たちへの読み聞かせのイベントへの参加者は、大きく増加したそうです。
文字通り、「敷居が低くなった」のですね。


また、館内に音楽を流すようになったところ、こんな変化がみられたそうです。

 ある程度増えると想定していたものをさらに上回ったのが子連れ客である。今までの図書館でも子連れのお母さん世代は来ていたが、決して多くはなかった。
 それが一気に増え、さらに20〜30代のお父さん世代も来館するようになった。ベビーカーを押して来る人も多い。妊婦さんもよく見かけるようになった。
 話を聞くと、スタバ目当ての人もいたが、多くは音楽を理由に挙げてくれた。
「館内に音楽が流れていて、子どもが泣いたり騒いだりしても、うるさく思われなくて済みます。こちらも変に気を遣わなくていいので、安心して利用できます」
 音楽については、いまだに批判的な人もいる。音楽が流れていることを理由に「武雄市図書館は公設民営ブックカフェ」と批判する人もいる。

物音一つしないような空間では、子ども連れで来館するのは気が引けるけれど、もともと音楽が流れていれば、少しくらい子どもが喋っても、そんなに気後れしなくてすむのです。
ああ、その気持ちは、親のひとりとしてよくわかる。
まあでも、「図書館は静かに本を読んだり、勉強をしたりするための場所だ」と考えている人がいるのも理解できるんですよね。
ただし、武雄市図書館では「1階奥の閲覧席、2階奥の学習室では音楽が聞こえないようにしている」そうなので、「棲み分け」すればいいだけの話なのかな、とは思います。


樋渡市長のやっていることは、これまでの「自治体の当たり前」をあらためて検証し、「運営者目線」ではなくて、「利用者目線」で動かしていくことなんですよ。
ただ僕は、樋渡市長が行った、大きな「改革」のひとつである、武雄市民病院の民間移譲について、「病院は便利な場所に移転し、黒字にはなったけれど、医療の質や働いている人の待遇に問題が生じている」という話を聞いているんですよね。
ずっと赤字だった病院が「黒字」になるということは、よほど患者さんの数が増えるか、大幅なコストカットが行われているわけで……
医療における最大の「コスト」は、人件費。となると……
もちろん、自治体だからといって赤字を垂れ流してもいい、というわけではありませんが、自治体までもが利益第一になってしまっても良いのだろうか、とは思います。
表に出ないところに「ひずみ」が生じている可能性はあります。


僕は「TSUTAYA図書館」に関しては「地元の人たちも喜んでいるみたいだし、大成功なのではないか」と思っているのです。
都会の「図書館の専門家」たちは、いろいろと問題点を指摘していますが、地元の人たちは、この図書館を気に入っているみたいですし。

 そして、一番いいのはね、今まで私が市長になる前なんかね、「武雄には何もなか」ってずっと言っていましたよ、大人は。しかし、今はみんな子どもたちが気づいて、これだけ新聞に載ってテレビに出て、あるいは我々が日常会話で武雄、武雄っていうことが出てくるとね、これは自分たちが伸ばそうというふうになるわけですよ。私がちっちゃかったときなんか、本当に武雄は何もないって自虐史観でしたよ。そんなところにまともな発展なんてあり得ません。

こういうのって、地元の人たちにとっては、すごく大事なことだと思うんですよ。
「あの図書館」がある武雄に住んでいるっていう誇り、みたいなものが。
そのうち全国各地に同じようなTSUTAYA図書館ができそうな流れではあるのですけど。


しかし、病院の件もそうなんですが、「どこまでが官の仕事か」というのは、本当に難しい問題ですよね。
すべて民営にしてしまえば良いってものじゃないでしょうし。

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