琥珀色の戯言

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【読書感想】知らないと恥をかく世界の大問題5 どうする世界のリーダー?~新たな東西冷戦~ ☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
プーチン動く――ウクライナ、クリミア問題は世界のパワーバランスに大きな影響を与えた。ロシアVS欧米という対立構造は、かつての「東西冷戦」の再現だ。「敵の敵は味方」、「昨日の敵は今日の友」。敵を挟んで、まるで世界地図上で自国のエゴを実現するためのオセロゲームをしているかのような世界が、危険な一歩を大きく踏み出した。世界の大問題を知るためには、こうした国と国との位置関係による国際政治の「地政学」的観点を持つことが大事だ。私たちは何をすべきなのか? めまぐるしく変化する“世界のいま”を俯瞰する大人気シリーズの最新版にして、ウクライナ問題以降、最初の池上ニュース解説本。第2次世界大戦以降、最大の大国衝突の危機を池上彰が斬る!・新たな東西冷戦の始まり・大きく内向きになるアメリカ・EU混沌の主役はロシア!?・過酷な"アラブの夏"の深刻化・"物騒"になってきた東アジア情勢・小泉元首相も脱原発派に・アベノミクスはどこへ向かうのか?・自分なりの意見を持とう 


【著者紹介】池上彰:ジャーナリスト、東京工業大学教授。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。1994年から11年、「週刊こどもニュース」のお父さん役で活躍。2005年よりフリーに。


 池上彰さんの「最新のニュース解説本」も、シリーズ第5弾。
 目新しいことが書いてある、というわけではないのですが、こんなふうに「断片的に持っていた知識を、きちんとまとめてくれる本」というのは、ありそうでなかなか無いんですよね。
 新書の「国際情勢本」って、けっこう著者の立場によって、偏った内容になっていることもありますし。
 「嫌○○本」ではなく、中立であろうとする立場からの解説本というのはニーズがそんなになくて、池上彰さんだから売れているのかなあ。


 この本では、2014年4月の時点での「最新の世界情勢」が解説されています。
 クリミア半島問題や、日本と中国・韓国の対立と、それに対する世界各国の反応、「内向き」になるアメリカなど。
 

 池上さんは、冒頭で、「いま、世界で最も影響力のある人物」について書かれています。

 アメリカの経済誌『フォーブス』が2013年の「世界で最も影響力のある人物」ランキングで1位に選んだのは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領でした。日本の安倍晋三首相は57位。過去4年間で3回首位を獲得したアメリカのバラク・オバマ大統領は2位に転落しました。
オバマ大統領は、2期目のアメリカ大統領が通常陥るレームダック(ヨタヨタ歩きのアヒル、という意味。要は死に体のこと)の時期に早くも突入したように見える」と『フォーブス』は述べています。

 アメリカの大統領の任期は、2期・8年までなので、通常は、2期目の終わりになると、みんな「次のこと」を考えるようになり、影響力が大きく低下するそうです。
 日本の首相の場合は、あんまりそういうのは聞かないな……と一瞬思ったのですが、そもそも、任期満了まで勤めあげる人が少ないからなあ……
 まだ中間選挙も行われていない時点で(次の大統領選挙は2016年秋)、オバマ大統領は影響力が低下している、と評価されているのです。
 もちろん、『フォーブス』はアメリカの雑誌ですし、絶対的な評価と言い切れないところはありますが(アメリカとロシアが本気で戦争したら、やっぱりアメリカのほうが勝つんじゃないかと思いますしね。いや、世界滅亡か)、少なくとも、「オバマ大統領は、プーチン大統領に押されている」というイメージをアメリカ国内でも持たれているようです。
 ちなみに、この『フォーブス』のランキングでは、ドイツのメルケル首相が5位、イギリスのキャメロン首相が11位。
 

 この「影響力低下」の背景のひとつとして、池上さんは、プーチン大統領が「化学兵器の国際管理」を提案して、オバマ大統領のシリア攻撃を中止させたことを挙げています。
 僕からすれば、「戦争を回避できてよかった、プーチンさん、ファインプレー!」という感じなのですが、国際政治のパワーバランスとしては、「戦争を避けられてよかった」では済まない面もあるのです。

 オバマ大統領の決断は、戦争をしないことですから、評価する声もあります。しかし、これにはリスクが伴います。アメリカは警告しても行動に出ないとなると、安心して化学兵器を開発できると思う国も出てくるでしょう。北朝鮮や、ほかの独裁国家にしても、アメリカを恐れることなく開発を進められるのです。
 ここでも議会の抵抗によって、大統領の指導力が大きく阻まれてしまったオバマ。ロシアとの力関係でも一歩遅れを取った形になりました。ウクライナ問題でもロシアにやられてばかりで、有効な対抗手段がとれないオバマのアメリカ。果たして巻き返しはできるのでしょうか。


 この新書には、最近の国際情勢に繋がっているさまざまな歴史上のエピソードも紹介されています。
 なかにはこんな「えっ?」と思うようなものも。


 1979年のイラン革命、アメリカ大使館人質事件以来、イランとアメリカは敵対してきました。

 イランはアメリカを「大悪魔」と呼び、アメリカはイランをイランを「悪の枢軸」と呼びました。
 この「悪の枢軸」とは、ジョージ・W・ブッシュ大統領が「テロとの戦い」を呼びかける演説の中で使った言葉です。北朝鮮イラクとともにイランを含めた3ヵ国を、こう呼んだのです。実はアメリカの国務省が用意した原稿には、もともとイランは入っていなかったのです。
 入っていたのはイラク北朝鮮だけ。しかしブッシュは「悪の枢軸というからには、あともう1ヵ国必要だ(3ヵ国にしたい)」とイランを安易に加えたのです。
 当時のイランの大統領は、ハタミ(モハンマド・ハータミー)という穏健派の大統領でした。ハタミ大統領は9・11のアメリカ同時多発テロの後、ニューヨーク市長にお悔やみの電報を送ったり、アフガニスタンへアメリカが侵攻しようとしたときも、タリバンについての情報(タリバンとイランは対立していた)を提供したり、いろいろと協力したいと思っていたのです。
 ところがブッシュに「悪の枢軸」と名指しされたものだから、イラン国民の中に「裏切られた」という思いが広がりました。その結果、大統領選挙で、反米強硬派のアフマディネジャドマフムード・アフマディネジャド)が選ばれるのです。
 言ってみれば、ブッシュ大統領が強硬派のアフマディネジャドを当選させたようなものでした。そこからまた一気にイランが反米に傾いていきます。

 イラン側からすれば、せっかく和解しようというサインを送っていたところに、「悪の枢軸」入りですからね……
 「枢軸というからには、3つ必要だろ!」と、名指しする国の数を増やしてしまうアメリカの大統領!
 いやほんと、あれだけのシステムがあって、ブレーンがいれば、誰がなってもそんなに変わりないのでは、などと思うのですが、そういうわけでもないみたいです。


 この新書の「エピローグ」で、池上さんはこう書かれています。

 日本の経済界は「即戦力」を求めてきました。すぐに役立つ人材が欲しかった。すでにある条件の中で、どれくらい成果を上げることができるかが重視されたのです。
 しかし、そういう人はルールが変わったとたんに使い物にならなくなります。
 たとえば私が大学生のころ、銀行はとても任期のある就職先でした。都市銀行が13行もあり、護送船団方式で潰れることはない。金利はすべて横並びでした。
 となると、何で競争しますか? 預金獲得競争です。預金を集められるのが優れた人材であり、当時はそれが即戦力でした。
 ところが橋本龍太郎内閣の下、金融ビッグバン、金融の自由化により護送船団方式は解体され、預金を集めるだけの人間は役に立たなくなってしまった。
「条件が変わっても生き抜いていく力」「そもそもルールをつくる力」が必要です。
 東京大学が世界大学ランキングで上位に行けないのは、ランキングの評価項目が、アメリカのハーバード大学やイギリスのケンブリッジ大学が上位になるようにつくられているからです。欧米の大学が上位にいて当たり前なのです。
 オリンピックなどでも、スキーのジャンプ競技で日本が金、銀、銅メダルを独占したりすると、すぐさまルールが変更されてしまいますね。日本人は最初から与えられたルールの中で頑張ろうとして、自分たちに都合のいいルールをつくるという発想がありません。
 ルールメーカーになるには、即戦力を養っているのでは無理です。柔軟性があり、人が考えつかないようなことを考える力が必要です。
 近年、リベラルアーツ(幅広い教養)の重要性が叫ばれているのはそのためです。

 このあと、池上さんは「英語が話せることがグローバル人材ではない」と仰っています。
 もちろん、英語が話せたほうが良いにきまってはいるのですが、この「自分でルールをつくる力」が、いま、求められているのです。
 安倍首相の「57位」は、安倍さんの問題というよりは、いまの日本に対する世界の評価、と考えるべきなのでしょう。
 まあ、「つくられると迷惑するルール」も、あるような気もするんですけどね。


 いまの世界で起こっている問題について、2時間である程度は理解できる、便利な新書だと思います。
「このくらい知ってるよ」ということって、案外、「知っているつもりになっているだけで、理解はできていない」ものですし。

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