- 作者: 田口久美子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/07/10
- メディア: 単行本
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現場の書店員は厳しい現状の中で、何を考え、日々の仕事に向かっているのか。トップクラスの大型書店チェーンであるジュンク堂池袋本店の副店長が、日々の仕事やさまざまな本のジャンルの現状などをまとめた書店ドキュメント。
いま、書店の「現場」は、どうなっているのか?
書店員としての発信を続けておられる、田口久美子さんの最新刊です。
生まれついての貧乏性なので、このちょっと長くなった私用時間をかねがね考えていた「本書き」にあてることにした。いつも頭に引っかかっているのは書店業界の「来し方行く末」である。小さな書店から中型、大型と、規模の大小を経験しながら、現場で40年以上も働き続けた書店員はそうはたくさんいないだろう、と勝手に思い込み、しかもこの「大きく変化しつつある書店業界」の今を記録しておかねば、と誰にも頼まれないのに「ひとり相撲」をとろうとしている私である。
(中略)
振り返れば日本の書店規模は大きくなる一方であった、70年代後半から顕著になった。既存の紀伊國屋、三省堂、丸善等、新興の八重洲ブックセンター、リブロ等、大きくなるだけではなく、チェーン化も加速する一方だった。1976年、神戸に拠を置いたジュンク堂書店はもっとも後発である。95年の阪神淡路大震災後、96年の難波店オープンにはじまり、毎年のように大型店を出店し続けたこのジュンク堂書店が、個人経営から大型、全国チェーン化したおそらく最後の書店であろう。ここ数年、新規開業の大型書店を聞かない。別の業態から参入する例も聞かない。アマゾンが上陸した2000年以降、いわゆる「リアル書店」の勢いに陰りが見え始めた。出版業全体の下降とほぼ軌を一にしている。
この本を読んでいると、ひとことで「書店」とまとめてしまうことの難しさを痛感します。
『ジュンク堂』のような、本のジャンル別に担当者がいる大型書店だと、担当者ごとにAmazonや電子書籍への危機意識の違いもありますし、書店の規模によって、店員さんの仕事の内容やAmazonの影響も大きく違ってくるのです。
僕が子どもだった30年前くらいには、まだ「近所や商店街の小さな書店」がけっこうありました。
その後、次第に車で行く郊外型の中規模書店が増えていったのですが、ここ10年くらいはAmazonの影響もあってか、それらの書店もかなり淘汰されています。
現在の「リアル書店」は、ショッピングモールの中の大型書店か、TSUTAYAにDVDレンタルと併設されている書店が主役になっているように思われます。
「雑誌が売れなくなっていること」は、書店業界、とくに小さな書店に大きな影響を与えているのです。
私がリブロに転職した1976年、雑誌の発行点数を目録から概算したら2500誌ほどであった(実際は2814誌)、と記憶する。今は何誌ぐらいになったのだろうか、ジュンク堂雑誌担当の小高に聞いてみたら「3000誌ぐらいのようです」と答えた。「4500誌ぐらいまでは伸びたようですが」と続けた。ちなみに雑誌と書籍の売上比率は70年代末まではほぼ抜きつ抜かれつで推移していたのだが、80年代に入って完璧に雑誌が追い抜く。90年代には1.5倍ほどの優位に立っていた。2000年代に入り、両者とも凋落の一途をたどっているのだが、雑誌の優位はまだ変わらない。出版物の売上が二兆を超したのが89年、2兆7000億近くまで伸び、割ったのが2010年、2012年が1兆7398億円(85年とほぼ同金額)、内訳は雑誌が9385億円で書籍が8013億円、と発表(出版科学研究所)されている。うーむ、昨年のアマゾンの総売上高7300億(そのうち出版物は25%ぐらい?)と比較すると、ちょっとどころかかなり悲しい。(2013年、1兆6823億円、前年比3.3%減、書籍7851億、2.0%減、雑誌8942億、4.4%減)
雑誌は売上に対しての在庫負担が書籍より軽く(週刊誌の回転率は優等生)、常連客がつきやすい性格を持ち、刷り部数も書籍より多いため小さな書店にも比較的順当に配本される。だから小型書店の雑誌占有率はどんどん増えていったのだ。キディランド八重洲店も最初から雑誌比率をもっと上げていれば、あれほど短命ではなかったかもしれない。
そして、このまま雑誌売上が降下し続けると、小さな書店の経営はどうなるのだろうか。今や小さな書店の雑誌売上占有率は50%を超えるというのに。
これまで、雑誌の売上で生き延びてきた小型書店にとっては、雑誌が売れなくなることは、まさに死活問題です。
近くの書店で手に入る週刊誌を、わざわざAmazonに注文する人は少ないので、書店にとっては有利なジャンルなんですよね。
でも、これだけネットでリアルタイムにさまざまな情報が入手できるようになると、わざわざ雑誌を買って、情報を得ようという人が少なくなるというのもわかります。
情報のリアルタイム性や「読んだあとの処分の手間」、無料で得られるものの大きさなどを考えると、ネットで十分な気がしてくるんですよ。
僕も、最近はほとんど雑誌を買わなくなりましたし。
その一方で、「つくっている人たちの顔がみえる、商業ルートに乗らない雑誌(リトル・プレス)」が、2007年くらいから、盛り上がってきているそうです。
ネット時代だからこそ、紙の雑誌の雰囲気みたいなものをあえて求める人も、少なくないのかもしれません。
地方の小規模書店で、リトル・プレスをカバーしていくのは、なかなか難しそうですけど。
結局のところ、小規模書店にとって、どんどん厳しくなっていることは、まちがいありません。
「リアル書店」でも、同じ書店のなかでさえ、扱っているジャンルによって、かなり「危機意識」の大きさや方向性は違うみたいなんですよね。
この本に登場してくる『ジュンク堂』の児童書の担当者は、こう述べています。
ここで山井は面白いことを言った。
「電子書籍、電子書籍って騒がれていますけれど、児童書は大丈夫って私は思います。絶対になくならない。絶対です。特に絵本は。プレゼント需要が圧倒的に多いから」
ふーん、絶対ですか。そんなに日本の大人たちの「紙でできた、かたちのある児童書」への信頼は厚いですか。
「お母さんたちは、自分の小さいことに読んで面白かった本をまず買いますね」
はい、それは私もリサーチ済みです。
「でも聞いてください。さっき言った『からすのパンやさん』、40年前の絵本ですよ、いまだに売れ続けているんです。大・大ロングセラーです」
いや、本当に「電子書籍の絵本が成り立たない」かと言われたら、僕は「タッチパネルを活かしたような新しい絵本の可能性はあるのではないか」と思うんですよ。
でも、絵本というのは、たしかに「読む人と買う人が違う本」ですから、絵本を読んで育った人たちが親であるかぎり、「紙の本」へのこだわりは残るジャンルなのかもしれませんね。
僕が子どもの頃と、ふだんはニンテンドー3DSで『妖怪ウォッチ』を遊んでいる子どもたちが、同じ絵本を喜んで読んでいるというのは、あらためて考えてみると、なんだか不思議ではあります。
この本のテーマのひとつが、「Amazon、そして電子書籍に対して、既存の書店はどのように向き合い、変わっていくべきなのか?」なんですよ。
既存の本を「電子書籍化」することの問題点について、こんな話がありました。
東日本大震災の影響もあり、2012年の1年間に、経済産業省の肝いりで、10億円をかけて、「コンテンツ緊急電子化事業(略称・緊デジ)という、電子化促進事業が推進されたそうです。
ところが、スタート時にはやる気満々だったはずの出版社側が、どんどん消極的になっていったのだとか。
「それはね、説明会のあと社に持ち帰って、思ったよりタイへンな作業だ、っていうことが分かったからだと思う。(製作費のほぼ半分の)援助金も出るし、この際電子版をつくってみようか、っていう軽い気持ちで始めたけれど、電子も紙の本と一緒で、印刷会社に出稿するまでは出版社がやらなくちゃいけないんだ。やっぱりお金も人もかかるよね。簡単に言えば、もう一度つくり直す、みたいなものだから。まず最初のハードルは、電子化する書目を決めて、それから著者の了解を取らなければならない、出版から時間が経つと縁が遠くなっている著者もいるしね。出版時の編集者がいなくなったり、なんていうこともあるし。絶対電子化したくない、っていう著者もいるでしょ。でも一番大きかったのはつくり方のノウハウっていうか技術的な問題点ね。紙の編集とはまた別ものなんですよ。たとえば校正ね。リーダーの日本語読み込み技術も進化していて、精度も99%まで上がっているんだけれど、99っていうことは100字のうち1字は間違えて読む、っていうことでしょ。100字っていえば2〜3行に1字だよね」
「でもそのくらいなら学生アルバイトでもできるんじゃないの?」
「いや、誤字が似ているから余計ややこしい。温と湿を間違えたりしてね。職と識とかね。それを見つける作業は文脈が分からないとできない。訓練しないとできないものなんだよ。どんなに100%に近づいても、この校閲作業はやらなくちゃならない、そうでしょ? 英語圏は大小52文字ですむけれど、日本では100%っていうことはないんだ。緊デジでは定年の校閲OBを総動員した社もあった」
そうだとすると、これから電子書籍に前向きに取り組もう、と考える出版社は、電子専門の編集者をおく必要があるのだろう。このプロジェクトの中心的存在の講談社や小学館はとっくに別の編集部を持っている、という。
すごいテクノロジーも、現場レベルでいえば、まだまだ物足りないところがあるのだな、と思い知らされます。
「99%判別できる」のなら、十分すぎるくらいじゃないか、という気がしていたけれど、現場レベルでいえば、まだまだ不十分だし、むしろ、「残り1%」を校正するのが大変な作業になるのです。
そして、電子化が、大手出版社と小出版社の格差を縮めるわけでもない。
こうしてあらためて現場をみてみると、電子書籍の世界も、まだまだ技術的な問題が山積み、ではあるのです。
そして、電子書籍が世界で一般的になっていくというのは、日本語にとっても危機なのかもしれません。
アルファベットの52文字のほうが、読み取るのははるかに簡単で、誤字率も低くなるでしょうし。
僕もだいぶ電子書籍を買っているのですが、「元の本をただスキャンしただけ」で、ディスプレイで読むことに最適化されていない「電子書籍」の読み辛さには、さんざん泣かされています。
電子化は傍からみるほど簡単ではないのだけれども、利用者の側には「電子書籍で、紙も使わないし、流通もショートカットされているのだから、安くてあたりまえ」という意識があります。
もともと書店がたくさんあって、本を手に入れやすい日本では、電子書籍の普及には、案外、時間がかかる、あるいは、頭打ちになってしまうような気もします。
書店の、書店員さんたちの、そして書籍の現在について興味がある人は、ぜひ一度読んでみてください。
こういう時代だからこそ、「あえて紙の本を読むこと」に、アドバンテージがあるのではないか、とも僕は思うのです。
- 作者: 田口久美子
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