琥珀色の戯言

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【読書感想】その「つぶやき」は犯罪です ☆☆☆


その「つぶやき」は犯罪です: 知らないとマズいネットの法律知識 (新潮新書)

その「つぶやき」は犯罪です: 知らないとマズいネットの法律知識 (新潮新書)


Kindle版もあります。

内容紹介
「田中はバカだ!」「田中が0点を取った」――どちらが罪になる? ブログの悪口、ツイートの拡散、店の口コミ、SNSのタグ付け……これらが全て「犯罪」だとしたら!? インターネットの法律・ルールを弁護士が徹底解説。


内容(「BOOK」データベースより)
思わずブログに綴った悪口、正直に書いた店のクチコミ、良かれと思って拡散させた噂話、気軽にしたSNSのタグ付け…これらが全て「犯罪」だとしたら!誰もが気軽に「発信」できる時代には、誰もが知らぬうちに加害者や被害者になる。著作権侵害名誉毀損、個人情報漏洩、虚偽広告など具体的な相談事例を元に、自分や会社を守るための知識を弁護士が徹底解説。インターネットを使う全ての現代人に必読の一冊。


 「ネットリテラシー」というのは、当たり前のことのようで、けっこう難しいのです。
 「他人の悪口を公開の場で書いてはいけない」というのは、ちょっと考えればわかりそうなものですし、たぶん、大部分の人は気をつけていることだと思うのですが、どんな人でも、「隙」とか「精神的に不安定な状態」って、あるものですからね。
 リアル知人だと「お前、酒癖悪いなあ」で苦笑して許してくれるようなことでも、一度ネットに書いてしまうと、こちらの事情はお構いなしに「犯罪」になってしまいます。
 また、ネットって、あまりに広すぎて、「よっぽど貧乏くじを引かないと、罪を問われないような感じ」がするんですよね。
 実際は、「自分だけは大丈夫」というのは根拠のない話でしかないのですが。


 この本では、弁護士さんたちが、実際に起こった事例に基づいて、「セーフ」「アウト」「グレーゾ―ン」を解説してくれます。
 長年ネットをやっていると、「まあ、こういう感じなんだろうな」というのは、みんなそれぞれ持っていると思うのですが、専門家の話を読んでみると、僕の場合は「自分で意識しているより、かなりアウトになってしまうゾーンが広い」という印象でした。


また、法律では、実感とはちょっと違った「判定」をされる場合もあるようです。

高校生Gさんの油断
「同級生に、馬鹿田という者がいて、いつもからかっています。
 あるとき、馬鹿田がテストで0点をとったので、インターネットの上の、私の高校について書かれている掲示板に『馬鹿田は本当にバカだよな』と書いてやりました。すると他の友人もこれに続けて『あいつは今回の国語のテストで0点をとったからな』と書き込みをしました。
 翌日、馬鹿田が学校で、私と友人に対し、掲示板で書き込みをしたことについて、『もう怒った。二人とも名誉毀損だ。警察に被害届を出してやる!』と言うのです。
 でも、名誉毀損は『事実』を書いたときのものであって、”バカだ”などの『評価』を書いても名誉毀損にならないと聞いたことがあります。国語の点数を書いた友人はともかく、バカだと言った私については、名誉毀損にならないと思うのですが、どうでしょうか」


 先に触れましたが、名誉毀損罪が成立するには、「公然と事実を摘示」」する必要があります(刑法230条1項)。そして、名誉毀損罪でいう「事実」とは、単純に「現象や事柄」を指す言葉であり、真実だという意味は含まれません(「虚偽の事実」という言い方もできるということです)。
 そのため、意外かもしれませんが、Gさんの書き込みは刑法上の名誉毀損罪にはなりません。馬鹿田さんについての「具体的事実」を示さずに、”馬鹿田は本当にバカだ”という「評価」を書いているに過ぎないからです。
 一方で、友人の書き込みは、馬鹿田さんが「国語のテストで0点をとった」という具体的な事実を摘示したものです。また、高校の掲示板に対する書き込みであること、「馬鹿田は本当にバカだ」という書き込みが既にある上での書き込みであることを考えれば、本人のことを詳しく知らない一般の人でさえ、「馬鹿田の国語力が高校生として十分でない」という印象を受けます。これは相手の社会的評価を低下させる書き込みと判断できますので、名誉毀損罪が成立しうるものと考えられます。
 ただし、Gさんも安心してはいけません。インターネット上の掲示板において公然と馬鹿田さんを侮辱したものとして、今度は「侮辱罪」が成立する可能性があるからです。


 ただし、名誉毀損罪が「3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金」であるのに対し、侮辱罪は「1日以上30日未満の拘留、または1000円以上1万円未満の科料」ということですので、名誉毀損罪のほうが刑罰としてはかなり重いのです。
 また、著者は「同級生同士の『本当にバカだ』という程度の書き込みで侮辱罪が成立し、逮捕するというようなことは、現実的にはあまりないだろう」とも述べています。
(おそらく、「テストが0点」でも、実際に逮捕されるようなことには、まずならないと思うのですが……)
 

 僕の感覚としては、「バカ」って言われたら腹が立つし、復讐してやりたい。でも、0点だったテストの点数をバラされたら、恥ずかしいけど「事実」だからなあ……なんですよね。
 ネット上でも「事実をそのまま書いているだけなのに、何が問題なの?」って考えている人は、少なくないようです。
 でも、法律的にいえば、「バカ」なんていうのは言っている人の主観の問題だけれども、「悪しき事実」を紹介する場合は、より多くの人にその印象が共有されてしまう可能性があるから、より罪が重くなるのです。
 これは僕も誤解していました。


 また、ネットでよく話題になる「ステマ」についてのこんな話も。

新商品大好きVさんの戸惑い
「私は新商品が大好き。試供品をもらうためにアンケートに答えたり、口コミサイトで口コミを書き込んだり。自分のフェイスブックでも新商品を頻繁に紹介しています。
 ある日、とある飲料品メーカーから、『大手口コミサイトやフェイスブックなどで、新商品の口コミを書いてほしい』という連絡をもらいました。いつものように感想を書けばいいかと気軽な気持ちで引き受けました。
 ところがその会社は、事前に『スゴくおいしかった』『飲むと元気になった』など書く内容を勝手に決めてきたのです。内容を命じられるのはイヤでしたが、実際に飲んだらおいしかったですし、大量の商品や謝礼をもらってしまったため、断ることができません。これって問題になりますか?」


 さて、芸能人Uさんの例は犯罪性の高いペニーオークションでしたが、新商品好きVさんのように新発売の炭酸飲料だったらどうでしょうか。
 実際に、Vさんは飲んでみて「おいしい」と感じています。仮に、企業から謝礼を受け取っているにもかかわらず、自発的に書く記事の形式で掲載しているものとします。
 問題があるようですが、このようなケースでは、景表法に違反する可能性は低い、と考えられています。先に説明した通り、景表法は、「嘘をついて実際より良く見せること」を禁止しているだけで、広告であることを隠して宣伝することを直接禁じてはいないのです。
 実は、こうしたステルスマーケティング行為を直接取り締まる法律はないのです。
 ですから、このケースではVさんや企業の行為は、社会的に問題のある行為かもしれませんが、違法であるとまでは断言できません。記事を読んで問題の炭酸飲料を飲んだ人が、Vさんに責任追及をすることも難しいでしょう。Vさんは本心では「たいしておいしくない」と思っているかもしれませんが、それは他人にはわからない話です。本人が「おいしい」と言えば信じる他ありません。
 もしこのケースで問題になるとしたら、入ってもいない成分が配合されていると言ったり、複数のIDを使って口コミサイトに大量に「おいしい!」という書き込みをしたりという行為です。こうした行為は、明らかな嘘をついて宣伝しており、その結果、良い成分が含まれており、評判がよく、口コミの多い「良い製品」と勘違いさせてしまうため、景表法に違反するということになります。


 こういう「使用者本人の個人的な感想」で、明らかな「嘘」が書かれていない場合には、企業による依頼であっても「違法」にはならないのです。
 とはいえ、こういうのが発覚すれば、「ステマだ!」とネットで炎上するリスクが高いので、その商品にとって、かえってマイナスになってしまう場合もありえます。


 また、この新書では、「自分が被害者になってしまった場合」の対処法も紹介されていますが、正直なところ、ネット上での誹謗中傷というのは、やられた側が受けるダメージに比べると、加害者が問われる罪は、かなり軽く感じます。
 ネット上の掲示板やSNSから、誹謗中傷の書き込みが削除されても、転載されたり、リツイートされたりして、ずっとくすぶり続けることは少なくありませんし。
 そもそも、一般人が被害者の場合、「訴訟を起こす」ということそのものがかなりハードルが高く、その割には得られるもの(賠償金)は少ないので、「ターゲットにされた時点で、もう負けてしまったようなもの」なんですよ。


 現実的には「法律的にアウトになるラインギリギリのところでうまく立ち回る」よりも、「危険な可能性があるところには、なるべく足を踏み入れないようにする」のが、ネットリテラシーというやつなんでしょうけどね。
 おそらく、こういう新書を読んでみようという人は、それなりに「問題意識」があって、もともとあまり危ない橋は渡らないのではないかと思います。
 こういうのって、「読んでおいたほうがいい人には、あまり手に取られることがない」のですよね、一般的には。


 もし、こういう「ネットでの発言に対する法的な知識」について、全く意識したことがなければ、入門編として、読んでおいて損はしないと思います。
 気軽なつぶやきで、一生を棒に振ることだって、ありえるのですから。

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