琥珀色の戯言

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【読書感想】申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。


申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。

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Kindle版もあります。

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。

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内容(「BOOK」データベースより)
「戦略計画」「最適化プロセス」「業績管理システム」…こうして企業は崩壊する。デロイト・ハスキンズ&セルズ、ジェミニコンサルティングと、大手コンサルティングファームを渡り歩いてきた実力派コンサルタントが、自らとコンサル業界が犯してきた恐るべき過ちの数々を大暴露。物議を醸す話題作!


 このタイトルと「内容紹介」からは、経営コンサルタントが、自らの失敗(あるいは会社の誤り)を赤裸々に告白する本、という印象を受けたのですが、実際に読んでみると、そこまで「暴露本的な内容」ではありません。
 むしろ、「コンサルティングファーム」に関する企業や世間の思い込みに警鐘を鳴らす本、なんですよね。
 ですから、著者自身の、とんでもない失敗談が出てくるわけではありません。
 まあ、そんなの出版できないんだろうけどさ。


 この本を読んでいて痛感するのは、「コンサルティングファーム」というのは、絶対視すべきものではない、ということなのです。
 著者は、冒頭でこんな話をしています。

 2006年、わたしはMITスローン経営大学院で、システムダイナミクスの授業に出席していた。最初の課題はグループに分かれて「ビールゲーム」で競い合うこと。
 これはビールメーカーのサプライチェーンで商品を流通させるシミュレーションゲームで、サプライチェーンの人ならよく知っている「ブルウィップ効果」を再現する。サプライチェーンの末端で生じるわずかな需要の変動が、チェーンをさかのぼるにつれて増幅され、最終的には大きな変動となって表れることを示すものだ。
 ゲームが始まって数分後、すぐに要領をつかんだ私は、手こずっているクラスのみんなを尻目に、適切なオーダー量をはじきだした。サプライチェーンの問題は熟知していたので、頭をひねるまでもなく、問題を解き進うちに答えはおのずと見えてきた。それで、ほかのみんなが因果ループ図など描いて悩んでいるうちに、わたしだけがすらすらと問題を解き、正解を出したのだった。


(中略)


 教科書やコンサルタントや専門家によれば、「ブルウィップ効果」が起こる原因は、需要予測ミスや、予測を超える需要の変動や、情報データ不足や、在庫管理の甘さなどにあるという。しかし誰も指摘しないことだが、ブルウィップ効果を引き起こす最大の原因は、人間の感情だ。
 需要が少しでも落ち込むと不安が生まれる。誰もが身長になり、サプライチェーン全体で発注が抑えられる。ところが需要が少しでも持ち直すとこんどは楽観的な気持ちが生まれる。すると、需要の伸びを期待して、供給する製品が不足しないように過剰に発注してしまう。あるいは、仕入先の業者が予定どおりの数を納品できないのではないか、顧客の需要が思ったのど伸びないのではないか、と疑った場合も、発注は増えたり減ったりする。
 だから、ブルウィップ効果が起こらないようにするには、在庫の発注にたずさわる人間の不安や希望的観測や疑念を取り除くしかない。


 僕は経済学や経営学には疎いのですが、これを読んで、著者はすごい!ということよりも、MITで学んでいるような超エリートたちは、こういうときに「人間の感情」について、あまり意識しないものなのか……と意外に感じたんですよね。


 著者は、コンサルティング会社が「まず理念や計算ありき」で、「人間不在」になってしまっていて、それが正しいと信じ込まれていることに、警鐘を鳴らしているのです。
 「私がこの本を書いたのは、経営コンサルタントとして30年も働いてきて、いい加減、芝居を続けるのにうんざりしてしまったからだ」と。

 私たちは企業経営の専門家や経営コンサルティングファームのせいで、ビジネスというのは論理的なものであり、すべて数字によって管理できると思い込んでいる。モデルや理論に従えば成功への道筋が示されると信じてきた。
 ところが企業がさまざまなモデルを導入し、数値データに従って意思決定を行っても、期待したような成果は決して得られない。なぜなら、ビジネスは理屈どおりにはいかないからだ。
 人材はビジネスの一部分ではない。人材なくしてビジネスは成り立たないからだ。オフィスや設備だけでは、どうしようもない。ビジネスとはすなわち「人」なのだ――非理性的で感情的で気まぐれで、クリエイティブで、面白い才能や独創的な才能を持っている人間たちのことだ。そんな人間が理屈どおりに動くはずがない。
 私は本書によって訴えたいのは、これ以上、職場から人間性を奪うのはやめるべきだということ。そして人材のマネジメントさえできれば、あとはすべてうまくいったも同然ということだ。


 コンサルティング会社の仕事って、ある意味、「企業を『人間の感情』みたいなものに左右されずに、理屈で動かしていくこと」なのではないか、と僕は思っていました。
 それは、当たらずとも遠からずで、著者によると、自分が担当する企業の現場にはまったく見向きもせず、パソコンで数値をいじって、あれこれ言うだけというようなコンサルタントが、少なからずいるようなのです。
 たしかに、リストラとかをするときには、人の顔が見えてしまうと、つらいこともあるのかもしれないけれど……


 そもそも、これまでの「経営理論」というのは、本当に正しかったのか?

 実際の企業の事例を使って理論を説明しているひと昔前のビジネス書を見れば、そこに出てくる企業の少なくとも半数は、もう業績が振るわないことがわかるだろう。GEの名は1990年代には企業のベンチマークとして使われ、多くの企業がGEの経営手法を模倣した。だがいまでは、GEのマネをしようとする企業など見当たらない。ジャック・ウェルチ本人でさえ、株主価値の重要性に関する発言を撤回したほどだ。いま手本とすべき企業を探すなら、グーグルやアップルあたりが妥当な線だろう。

 「当時としては正しかった」のかもしれないけれど、1990年代にもてはやされたGEの手法は、いまでは使い物にならなくなっている、と多くの人が判断しているのです。
 グーグルやアップルも、未来永劫、うまくいくとは限りません。
 景気の予測だって、そう簡単には当たらないのだし。

 人間は道具を使うのが好きだ。だからこそ文明を築くことができた。危険なのは、ツールそのものを解決策と勘ちがいし、ツールさえあれば関係者が連携しなくてもうまくいくと思ってしまうことだ。実際、方法論の多くはそのような考えのもとに発展した。もともとは人間のために開発された方法から、いつのまにか人間的な要素が取り除かれてしまったのである。気がつけば、莫大な量のデータや資料を用いる方法論になってしまい、コンサルタントは報告書の作成に際限なく時間を取られることになった。
 運がよければ、コンサルタントの分析も当たるかもしれない。けれども、そんなことに骨を折るくらいなら、現場の関係者の話を聞き、みんなで協力してクリエイティブな方法で問題を解決することができるはずだ。
 にもかかわらず私たちは、データ入力やフローチャート作成やソフトウェアのインストールやデータ分析や報告書の作成に追われてばかりで、みんなで実際に業務プロセスの問題に取り組む時間を取れずにいる。結局、意味のある改善活動など行っていないのだ。


 そもそも、なんでも「目標」を掲げればいい、というわけではないのです。
 この本では、「目標を絶対に達成すること」に縛られてしまった現場の人々が行った、さまざまな悪行が紹介されています。

 おそらく最も有名なケースは、当時全米最大規模だった自動車修理チェーン、シアーズ・オートセンターの自動車修理をめぐるスキャンダルだろう。シアーズ社が各センターに一部の部品やサービスに対する売上目標を設定し、それに連動した従業員のインセンティブ報酬制度を導入した結果、シアーズ・オートセンターでは詐欺事例が多発し、カリフォルニア州に告発された。なんと顧客の同意も得ず、無断で不必要な修理を行っていたのだ。この顧客に対する詐欺容疑や数多くの訴訟のせいで、同社の業績が悪化したのは言うまでもない。


『リエンジニンアリング革命』に、IBMクレジット社にまつわるエピソードが出てくる。その会社では業務プロセスの改革を行った結果、審査のプロセスの各段階に業務遂行基準が設定された。従業員はこの基準をほぼ100%達成したが、クレジット審査全体の処理に要する時間は延びてしまった。その結果、処理量のノルマを消化できなくなるのを恐れた従業員は、申込用紙に誤字その他のミスを見つけると、自分たちで修正せずに送り主に返送してしまうようになった。


 ノルマが厳しくなっても、ある一定のレベルまでは、従業員たちも頑張ろうとするのです。
 でも、それが限界をこえると、こういう、とんでもない「解決策」を実行してしまう。
 たぶん、ノルマを設定する側が、現場とコミュニケーションをあらかじめとっていれば、ここまでひどいことにはならないはずです。
 数字だけをみた人たちに、「このくらいは可能なはず」だと上から押しつけられると、こんなふうに企業そのものの信頼を致命的に損ねるようなことが起こってくるのです。
 インセンティブ、あるいは目標を達成できなかったときの罰というのは、必ずしも、プラスに働くとはかぎりません。
 数字ばかりをみていると、こういう人間の「暗黒面」に気づかなくなりがちのようです。


 著者は、こう述べています。

 マネジメントモデルやメソッドなど、これ以上何も必要ない。すでにあるものでたくさんだし、それすら満足に機能しているとは言えない。本当に価値があるのはモデルではないからだ。どうやったらいい仕事ができるか、部下と一緒に話し合うことに価値がある。
 みんなで協力して働くにはさまざまな方法がある、と気づくのも大事なことだ。609ページもある管理職用マニュアルなど読んで時間をムダにしていたら、部下のマネジメントなどできるはずがない。そんなツールに振り回されていたら、本当にやるべきことができなくなってしまう。部下たちと付き合う最善の方法は、実際に部下たちと触れ合うことであって、「部下との付き合い方」の参考書を読んだり、チェックリストを作成したり、研究したりすることではない。
 もし部下との付き合い方で悩んでいるなら、アドバイスをもらえる場所や本や講座はいくらでもあるだろうが、やはり本人と直接話し合って意見を訊くのが、最も効果的な方法と言えるだろう。


 これを読みながら、僕も考えました。
 結局のところ、「ビジネス書」とかに頼ってしまいがちなのは、「人間に直接ぶつかってみる」というのが、つらいからなのかもしれないな、って。
「部下との関係に悩んでいるのなら、まずは本人と直接話し合うべき」
 ほんと、そうなんだと思います。それが、いちばんの近道のはず。
 そんなことは、わかっているはずなのに、ついつい、人と向き合うことを面倒に思って、あるいは、自分を否定されるのが怖くて、ノウハウ本みたいなものを読んで、「解決しようとしている気分」に浸ってしまうんだよね。


 暴露本ではありませんが、コンサルティングファームとは無縁の僕にとっても、「気づき」のある内容でした。
 あとは、実行あるのみ、なんだけどねえ。

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