- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 青春出版社
- 発売日: 2014/12/02
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (6件) を見る
Kindle版もあります。
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 青春出版社
- 発売日: 2014/12/25
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (1件) を見る
内容紹介
厳しさを増すこの時代を生き抜くには、実直に頑張るだけでなく、ときには「ズルさ」を発揮することも必要だ──。社会全体が敵になるような大きな困難を乗り越えてきた著者が、「人と比べない」、「嫌われることを恐れない」、「問題から目をそむけない」など、誰でも直面する11のテーマを解き明かしていく。2014年上半期ベストセラー『人に強くなる極意』待望の第二弾。
『人に強くなる極意』に続く、佐藤優さんの「処世術」本、第二弾。
佐藤さん自身も、うまくやれないところがあって、執行猶予付きの有罪判決を受けておられるので、「そんな人に「処世術」を説かれてもねえ……読書術ならともかく、とか思っていたんですよ。
でも、読んでみると、すごく実戦的な内容かつ示唆に富んでいて、読み物としても大変面白かったのです。
「一緒に飲みに行ったとき、酔っぱらった先輩が、ちょっと気が大きくなった状態で教えてくれる、組織で人間が生き延びるための、ちょっとしたコツ」の集大成みたいな内容なのです。
そういう「アフターファイブのつきあい」って、最近は減っているじゃないですか。
率直に言うと、僕もけっこう苦手です。
でも、たしかに、そういうのって「知っていて損はしない」。
この本を読むと、そういう「面倒なつきあい」なしで、「飲み会の場でしか語られないような、組織サバイバルのエッセンス」を吸収することができるわけです。
そう考えると、安上がりですよね。
本当は、先輩や上司に、ときどき付き合って飲みに行ったほうが、「組織人」としてはいろいろ風通しが良くはなるんでしょうけどね。
みんながみんな、役立つ話をしてくれるわけでもないし、愚痴とか文句とか自慢しかしない人もいるからなあ。
「外交官のお酒の飲み方」なんて話も、なかなか興味深いものでした。
「外交での酒は真剣勝負」なのだそうです。
酒が入ると誰でも口が軽くなります。それを利用して普段聞けない話を聞き出す。あるいは酩酊状態で失態を演じさせて心理的に相手より優位に立つ。インテリジェンスの世界では、実はそれが本当の目的だったりします。
それだけに、外交官だった当時、酒の席はある種の覚悟を持って臨みました。余計なことを話さない。必要以上に酔って失態を演じたり、弱みを握られない。逆にこちらは相手の情報や弱みを握ってやろうと狙います。外交官時代の仕事がらみの酒は、正直な話、けっして楽しいものじゃありませんでした。
アントニオ猪木さんと二人で、ロシアの要人たちのパーティに招かれたときの飲み方は強烈でした。明らかに向こうの人間たちは、僕たち二人を酔い潰そうと次々に乾杯を強要する。相手の意図がわかって、だんだん腹が立ってきました。猪木さんと二人で、よしやってやろうじゃないか、なめられてたまるかと気合を入れ直しました。
そのうち酔い潰れない僕たちを見てあきらめたのか、自分たちが酔ってきたからか、会をお開きにしようとする。いやちょっと待て、まだこっちは飲み足りないと言って要人たちと次々に乾杯をして、結局ほとんど潰してしまいました。日本人はそんなに飲めないと思っているから、さぞかしびっくりしたことでしょう。猪木さんなど、最後はウォッカを大きなグラスに注いで飲んでいました。
昭和のプロレスファンとしては、こういう「猪木の場外乱闘」の話を読むと、なんだか嬉しくなってしまうのです。飲み会の席とはいえ、猪木とタッグを組むなんて、うらやましい!
ロシアの要人たちも、これは相手が悪かった。
佐藤さんによると、困った相手を酔い潰してしまうには、まず、強い酒を飲ませて、アルコールに対する感覚を麻痺させてしまう」のが有効なのだそうです。「飲み比べしましょう」と、ウイスキーやウォッカを先に飲ませて、日本酒やワイン、ビールと、どんどん弱い酒にしていくと、「ビールを水のように感じてしまい、酒量が増える」のだとか。
逆に、適量を飲むには、ビールからはじめて、ワイン、日本酒、そしてウイスキーと、段階を踏んでアルコール度数の高いものにしていくと良いのだとか。
普通の人はだいたいそうしていて、それは「理にかなったこと」だと佐藤さんも仰っています。
外交官時代、僕は交渉相手の情報をできる限り集めました。特に注意したのは相手がイヤがる話題や人物に関してです。その人の前ではタブーになる事柄を、極力事前に把握しておくようにしました。
この大切さを教えてくれた一人が故小渕恵三首相です。小渕さんはエリツィンやプーチンなどの要人と会話する前に、必ず「おい佐藤、べからず集をつくっておくように」と命じました。
公式の会談だけでなく、食事の席などでも思わぬ失言をしないように、相手がイヤがる話題や事柄を事前に調べておいてくれというのです。
実は、エリツィンはゴルバチョフを大変嫌っていました。ゴルバチョフが大統領だったころに左遷させるなど冷や飯を食わされたためです。ですから、彼は会話でゴルバチョフという言葉が出てくるだけで不愉快になる。あとはアルコール依存症の話などはタブーでした。これらの「べからず集」のおかげで、小渕さんは外交の席での失言はほとんどありませんでした。
小渕さんは、「心のもちよう」だけではなくて、「情報戦」で優位に立つことによって、「気配りの人」になっていたのです。
こういう「事前の準備」って、本当に大事なんですよね。
どんなに和やかに話をしていても、「逆鱗」に触れただけで、台無しになってしまうことってあるから。
こういうのって、外交官じゃなくても、応用はできるはず。
大事な取引相手の「逆鱗」について、相手の周囲の人にちょっとリサーチしておくだけでも、リスクを減らすことができるのです。
もちろん、「処世術」みたいな話ばかりじゃなくて、佐藤さんのような人にしか語れないような「裏知識」も散りばめられていて、それも読みどころのひとつです。
ちなみに、ハニートラップというと妖艶な女性にお酒の席で誘惑されてホテルに……なんて想像されるかもしれませんが、そんな映画のようにわかりやすいのはむしろまれ。本当のハニートラップは、もっと手が込んでいてわかりにくいものです。
たとえば、仕事の現場で一見地味な女性研究者と知り合う。優秀で性格もよく、いろいろと相談しているうちに恋仲になってしまう。まったく普通の恋愛と同じです。
ところがその女性と1年、2年とつき合っているうちに、男はいろいろな情報を引き出されてしまう。そのあげく、ある日大使館に匿名で「お宅の職員とある女性研究者が不倫をしている」というタレコミが入る。そこではじめて「やられた!」となるもあとの祭り。この世界、相手をハメるときは2年でも3年でもかけて、本当にじっくりやるのです。
そうか、本当に「普通の恋愛と一緒」のように、時間をかけて仕掛けられるのですね、「ハニートラップ」って。これ、ハメられた側にとっては、けっこうショックだろうな。
でも、「わかりやすいのはむしろまれ」ってことは、「わかりやすいのもたまにはある」ってことなのか。
いまの世の中で、ネットに慣れ親しんでいると、やれ起業だ、独立だ、ノマドだ、自分らしく生きるんだ、という景気の良い言葉の洪水にさらされます。
でも、僕は自分がそういう生き方に向いているとは、思えない。
組織の一員であることに、息苦しさもあるし、人に合わせるのは得意じゃないけれど、自分で矢面に立って活路を開いていくタイプじゃないよねえ、と。
ところが、そういう「組織の一員として生きるほうがマシな人々に対する処方箋」って、最近は流行らなくなって、あんまり見かけなくなりました。
あるとしても、「体育会系社畜マニュアル」みたいな極端な内容ばかり。
そんななか、この本での佐藤さんの「処世術」って、組織の一員として普通に生きる人間にとっては、「ストライクゾーンど真ん中」なんですよ。
ネットでの言論って、みんながストライクゾーンギリギリを狙って多彩な変化球を投げているのだけれど、ど真ん中って、けっこうガラ空き。
そこに、ズバッと直球を投げこんでいるのが、この新書なんですよね。
「あたりまえのこと」ばかりが書いてあるのだけれど、「あたりまえのこと」って、いまの世の中では、案外、誰も教えてくれないんだよね。
結局、人生にとって大切なのは、「いかに負けるか」ということなのかもしれません。自分を見失わないように、上手く負けることができるか。
相手に勝とうとするのがアニマル・スピリッツなら、負けることから新たな自分だけの人生のテーマをつくりだす力こそ、ヒューマン・スピリッツだと言えるでしょう。
イエス・キリストがなぜこれだけ歴史を経ても人に語り継がれるのか。それは、彼が人生で勝とうとせず、常に負け続けていた人物だからとも考えられます。なにしろ地位も権力も、ましてやお金もない。右の頬を打たれたら左の頬を出す。最後は十字架にかけられ処刑されてしまう。彼ほど人の上に行こうとしないことを徹底した人物はいないでしょう。だからこそ、人は彼の精神に超越した神性を見出したのかもしれません。
キリスト教に限らず、どんな宗教でも不毛な競争をどこかで止める教えや思想が入っています。仏教などは「煩悩を断つ」という表現を繰り返しています。
「常勝」の人生なんて無いのだから、「いかに負けるか」って、すごく大事なんですよね。
できれば僕もgood loserでありたいし、負けから学べる人間でありたい。
佐藤優さんって、人事を尽くしたつもりなのに、「大きなもの」の前に、(少なくとも形のうえでは)負けてしまった人なんですよね。
でも、いまの佐藤さんは、「外務省を追われて、結果的には良かったのではないか」と思えてしまうくらい、積極的に活動を続けておられます。
普通に、でも、もう少しだけ、上手くやっていければいいのに。
そんな社会人のあなたにオススメです。
いや、僕自身にもオススメでした、これ。
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 青春出版社
- 発売日: 2013/10/02
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (28件) を見る
- 作者: 佐藤 優
- 出版社/メーカー: 青春出版社
- 発売日: 2013/11/11
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (4件) を見る