物を売るバカ売れない時代の新しい商品の売り方 (ワンテーマ21)
- 作者: 川上徹也
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2014/05/09
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
物を売るバカ 売れない時代の新しい商品の売り方 (角川oneテーマ21)
- 作者: 川上徹也
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2014/05/10
- メディア: Kindle版
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内容(「BOOK」データベースより)
「業界5位」のビール会社が××を売って「業界1位」になった!北海道のホテル―「空港からクルマで5時間」の町に観光客が押し寄せる、愛知のスーパー―「値段は普通、スペース1/4」それでも儲かる。物を売るな、物語を売れ!
この新書のオビには「販売・営業職の人が大絶賛」と書かれています。
うん、それはわかるような気がする。
「物じゃなくて、ストーリーを売れ」というテーマの本って、書店にいけば、けっこうたくさんあるんですよね。でも、けっこう分厚いマーケティングの本だったり、抽象的な話が多かったりして、ちょっと小難しい。
そして、そのわりには「じゃあ、今からどうすればいいのだろう?」という問いに関する答えが、ちょっと弱い。
そういう点では、この新書は、すごくシンプルに「お客さんにストーリーを売るとは、どういうことか」というのと「そのときに、注意しなければならないのは、どういうことか」というのが、まとまっているような気がします。
「物語」「ストーリー」という言葉は、とても便利なのでよく使われます。きちんと定義せずに、いろいろなレベルのエピソードを「物語」「ストーリー」という言葉を使って語ってしまっているケースもよく見かけます。
また、「物語」とは創るものだと誤解している方も数多くいます。しかしデタラメな商品で「物語」を無理やり創作しても、底が浅いとすぐに見抜かれてしまいます。
商売における「物語」とは、創るものではなく、発見するものです。今まで見えていなかったとしても視点を変えることで「物語」は発見できます。きちんとした世界観や哲学を持っているのに、それをうまく発信できていない「もったいな商品」が全国にいかにあふれていることでしょう!
そのような商品を輝かせるのが「物語」の役割です。
この本を読んでいて、僕はこんなエピソードを思いだしました(この本のなかで紹介されていたものではありませんが)。
「ハンバーガーを待つ3分間の値段〜ゲームクリエーターの発想術〜」(齋藤由多加著・幻冬舎)より。
アメリカの老舗ケチャップメーカーのハインツが、シェアを落としたときの話です。
シェア低下の理由は、競合他社のケチャップがチューブで販売されていたこと。ハインツのトレードマークであるガラスのビンでは、振っても振っても中身がなかなか出てこない。いっぽう競合他社は、手で絞ると簡単に出てくる。
これに対抗するためハインツの経営陣は、ケチャップの成分を液状に変えるか、それとも長年のトレードマークであるビンをやめるか、最後の選択を迫られていたといいます。どちらを選択しても老舗の看板イメージを大きく変えることになる。
そのとき、あるマーケッターがこういう提案をしたそうです。
「ハインツのケチャップが、振ってもなかなか出てこないのは、それだけトマトをふんだんに使っているからです」というキャンペーンをしてはどうか、と。
健康ブームも手伝ってか、結果、これでハインツはシェアを挽回したといいます。このときの、ホットドックを持ったカップルがジェットコースターに乗るCMは、日本でも放映されたので覚えている方もいるかもしれませんね。
モノゴトの良し悪しというのは絶対的なものではないようです。たった一行のコピーでその価値観をひっくり返してしまうというのは、いかにもゲーム的なエピソードだなぁと思った次第です。
その会社にとって「あたりまえすぎて、アピールするのもおこがましい」ようなところが、お客さんの側からすると、「そうだったのか!」というアピールポイントになる場合もある。
同じものでも見る角度、紹介する視点を変えれば、「弱点」のようにみえたものが、魅力に変わることだってあるのです。
この新書のなかで、商品をアピールするための「ストーリーの黄金律」が紹介されています。
1. なにかが欠落しているまたは欠落させられた主人公が
2. 何としてもやり遂げようとする遠く険しい目標やゴールに向かって
3. 数多くの葛藤、障害、敵対するものを乗り越えていく
この3要素が含まれているのが、「ストーリーの黄金律」だと、著者は定義しているのです。
これはもう、商品のアピールに限らず、「物語の王道」ですよね。
人間というのは、古今東西、この「黄金律」に惹かれてしまう。
ただし、著者は、この「ストーリーで売ること」について、こんな注意をしています。
商品やサービスが一定以上の水準でないと、たとえ物語に魅せられて買うことはあってもリピーターにはなりません。むしろ大きな失望につながります。
もうひとつの前提条件も非常に重要です。
それは「ビジネスにおける物語はフィクション(作り物)であったはならない」ということです。いくら黄金律にそっていても、作られた話では絶対にダメだということです。
たとえば、以前、耳が聞こえないと自称していた作曲家が、大ヒットした曲を自分自身で作曲していなかったという問題がありました。メディアは大騒ぎしてバッシングし、彼の曲を支持していたファンも口々に「裏切られた」と言いました。
しかし冷静に考えてみれば、曲自体は何も変わらないはずです。同じ曲をみんなが絶賛していたのに、作曲家が偽装していたことで曲の評価までが地に落ちてしまったのは不思議だと思いませんか。
つまりこういうことです。
メディアもファンも、彼の「音楽」を買っていたのではなく、彼の「物語」を買っていたのです。彼や彼の音楽が支持され頻繁にメディアに登場していたのも、彼が「ストーリーの黄金律」にそった物語の主人公だったからにほかなりません。その証拠に、彼の物語が創られたものであることを知ると、人々は怒り、音楽は価値を失ってしまったのです。曲自体は変わらないというのに。
物語、特に黄金律にそったストーリーは、効果が非常に高い感動のツボであるが故に、それが嘘であったり作られたものであったりした場合、感情が大きくマイナスに振れてしまいます。プラスに大きく振れていればいるだけ振り子のようにマイナスの振れ幅も大きくなるのです。
くれぐれも、物語を創作しようと思わないでください。
「ビジネスにおける物語」は創作するものではなく、「発見」するものです。
ああ、これは本当に大切な「戒め」だな、と。
あの作曲家がどんな人間であろうと、曲そのものは同じなんですよね。
でも、あの顛末を知ってしまうと、前と同じ気持ちで聴くことは難しい。
「良い話だ」と思っていればいるほど、騙されたときの反発も強くなります。
「そうは言うけど、ストーリーなんて、そう簡単に『発見』できるようなものじゃないだろ」と感じる人も多いはず。
ところが、この新書を読んでいると、熱意を持って、ある程度の時間何かをやろうとしていれば、それなりの「ストーリー」は、掘り出せるのではないか、と思えてきますし、実際にそうなのではないかな、と。
あまりに「特別すぎるもの」を探そうとしすぎて背伸びしすぎて、かえって、足下の宝物を見落としてしまっているのかもしれません。
個人的には、「売る側が発信したストーリーも、すでに飽和しつつある」ような気がしています。
これからは、「買う側が『自発的に』ストーリーを発信してくれるような仕掛けづくり」へと向かっていくのではないかと。
この新書にも、そういう「ユーザー参加型」の事例も、少なからず含まれていますし。
「ハンバーガーを待つ3分間」の値段―企画を見つける着眼術 (幻冬舎文庫)
- 作者: 斎藤由多加
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/09
- メディア: 文庫
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