- 作者: 鈴木周作
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/02/02
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 鈴木周作
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/02/20
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内容紹介
廃止までに乗れる人も、乗れない人も必読
最後のブルートレインである『北斗星』が、2015年3月で定期運行を終えるとの報道が大きく伝えられ、鉄道ファンはもとより、北斗星やブルートレインに思い出のある多くの人々に衝撃を与えました。半世紀に及ぶブルートレインの歴史に、いよいよ幕が下りようとしています。
著者の鈴木周作氏は、1988年の北斗星開業以来26年間、その魅力に惹かれて現在まで456回も乗り続けている画家です。単に数多く乗車しているのではなく、克明に乗車記録をとり、北斗星の魅力をなるべく多くの人に伝えるべくブログや作品で表現しています。最盛期の上野駅の賑わい、赤いランプの食堂車、寝台の窓からの変わりゆく風景や星空、車内で出会った様々な人々…夜汽車の楽しみやエピソードがふんだんに綴られます。さらに、北斗星の乗客の視点から見た26年間の世相も興味深い話が続きます。有珠山噴火の際の「山線迂回」や、本線の運行に戻ってもしばらくは最後尾に緊急避難用の機関車を増結していたこと。東日本大震災と北斗星。大雪や豪雨で大幅遅延した時に食堂車で出される「遅延カレー」…。北斗星を知り尽くした著者が渾身の想いで綴る、ブルートレイン乗車記の集大成です。
2015年3月で定期運行を終える、寝台特急『北斗星』。
「ブルートレイン」に憧れて、子ども向けの「大百科」でヘッドマークを一生懸命覚えた僕としては、『北斗星』にぜひ一度は乗ってみたい、と思いつつも、なかなか実現できないまま、ここまで来てしまいました。
せめて、北海道に新幹線が到達するまでは、運行していてほしかったのだけれど……
九州在住だと、「実用性」は、東京や札幌に住んでいる人より、さらに低いのだよなあ。
九州新幹線に初めて乗ったとき、鉄道好きの長男が、ホームに入ってきた列車をみて大はしゃぎしていたにもかかわらず、乗車したとたんに「たいくつ〜」と言い出し、おやつを食べてすぐに寝てしまったのを思うと、長時間乗る、というのは、いくら好きでも、けっこう大変ではありますよね。
電車って、外から見ると嬉しいのだけれど、乗っている時間を楽しむのは、またちょっと別の話で。
この新書の著者、鈴木周作さんは、この『北斗星』に、なんと456回も乗車されています。
456回ですよ!
以前、「毎日富士山に登っている」という男性が書いた新書を読んだことがあるのですが、僕は、どんなに初見で面白いと思っても、同じ映画を二回観るのはちょっと時間がもったいない、と考えてしまうくらいなので、「なんで同じ列車にそんなに繰り返し乗ることができるのだろう?」と疑問だったんですよ。
当然のことながら、お金も時間もかかるわけですから。
通勤電車ならともかく。
SEの仕事で過酷な日々を送っていた著者は、ふと「『北斗星』に乗ってみよう」と思いついたのがきっかけで人生が大きく変わってしまったそうです(詳細はこの本を読んでみてください。といっても、ものすごくドラマチックな話じゃなくて、忙しい日常のなかで、「誰にでも起こりうること」です)。
今の私にとって、北斗星はあくまで移動手段です。時には野球観戦や観光旅行、帰省等で使う場合もありますが、基本的には打ち合わせや取材などでの本州出張に絡めて乗るようにしています。ちょっと大げさに言えば、それが私なりの、実用列車としての北斗星への敬意でもあります。
北海道に移住した著者は、仕事や野球観戦(奥様も北海道日本ハムの大ファンなのだそうです)のために、『北斗星』を利用しているのですが、それでも、456回はすごい。
それだけ乗っていれば、さまざまなトラブルや、珍しい出来事にも遭遇しています。
北斗星の食堂車は、上り、下りとも、夕食(ディナータイム・パブタイム)と朝食(モーニングタイム)の営業です。ただし、上りのディナータイムは2部制になっています。
そんななかで、ごくまれに、モーニングタイムが終わった後、ランチタイムの営業をするケースがあります。俗にいう「遅延カレー」です。
その名の通り、列車の遅延時に、カレーを出すのです。
ただし、ランチタイムにかかるタイミングで遅れていれば、必ずカレーが食べられるわけではありません。あくまでケース・バイ・ケースで、私の想像では、準備できる食数と混み具合、そして遅延の状況によって総合的に判断されているのだと思います。
大幅な遅れとなり、一度モーニングタイムがクローズした後、食堂車がどうなるかは、大いに注目されていると言ってよいでしょう。
あくまで、供されるのはカレーライスのみ。パブタイムのメニューにもビーフカレーがありますが、あちらはしっかりルーがカレーポットで供されて、サラダも付きます。しかし、「遅延カレー」はあくまで普通のカレーライスです。
ただし、あらかじめ印刷された立派なメニューが用意されています。もっとも載っているのは、あくまで「ビーフカレー 900円」(ただし、消費税5%当時)のみです。「遅延王子」と呼ばれた私でも、「遅延カレー」に接した機会は、片手で数えられるくらいしかありません。そのくらいレアなのです。
私が最後にいただいた遅延カレーは、大雨の影響で大幅に遅れた、2013年7月22日の上りでした。そう、ちょうどこの福島あたりで、長い時間足止めされていたのです。
「俗にいう」って、そんなカレーの存在、そもそもみんな知らないってば!
しかし、456回も乗っている著者でさえ、片手で数えられるくらいということは、100回に1回くらい、ということですよね。
列車がそのための「備え」をしていて、それを密かな愉しみにしている鉄道マニアがいる。
なんだか不思議な関係ではあります。
著者には、面識のある乗務員も大勢いるそうです。
これだけ乗っていれば、ね。
この新書を読んでいて痛感するのは、この『北斗星』という列車は、鉄道ファンにとっても、スタッフにとっても、「特別な存在」なのだということです。
なぜカシオペアやトワイライトエクスプレスではなく、北斗星にこだわるのか。そんな質問を受けることもあります。
それぞれにいいところがあります。ただ、私も含め、リピーターは大体好みの列車が分かれるようです。
北斗星が好きな方に何が魅力なのかお話をうかがうと、よく耳にする言葉は「懐かしさ」でした。
現代的できれいな客室のカシオペア。そして長距離を走り、日本海の雄大な夕暮れが見渡せるトワイライトエクスプレス。確かにそれらも魅力的です。
しかし私は、もし一生であと3回しか寝台列車に乗れないとしたら、北斗星と、北斗星と、そして北斗星に乗ってしまうと思うのです。きっとそれが、私の「北斗星観」です。
けっして「ものすごく便利」というわけじゃないけれど、いろんなドラマや愛着がこもった列車なんですね、北斗星って。
だからといって、一生に一度乗るかどうか、という僕みたいな「ゆるやかな鉄道好き」のために、ずっと運行してほしい、なんて言うことができないのは、百も承知なのですが……
まあしかし、考えてみれば、東京でずっとひとつの会社に勤めて、電車通勤をしている人は「山手線乗車1万回」とかになっている可能性もあるわけです。
それはそれですごいことではありますよね。
- 作者: 佐々木茂良
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/06
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