琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】読書狂の冒険は終わらない! ☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
大ヒット古書ミステリー『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズの作者・三上延古書店勤務時代に本の査定まで手掛けていた筋金入りの書物通。一方、ビブリオアクションシリーズ『R.O.D』の倉田英之も「欲しい本はいま持ってない本、全部」と言い切るほどの本マニア。ベストセラー作家にして稀代の「読書狂」の二人が「読まずにはいられない」名作・傑作・奇本・珍本の数々を、丁々発止で語り合うビブリオバトルが開幕! 博覧強記の二人が惜しみなく出し合う秘蔵の「読書ネタ」を収めた本書は、唯一無二のブックガイドである。


 『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズの作者・三上延さんと、『R.O.D』の作者・倉田英之さんの対談によるブックガイド。
 いや、ブックガイドというよりは、本が大好きなお二人が、本についてひたすら語り合う、というファンにとってはたまらない企画です。
 ちなみに僕は『ビブリア古書堂』は全巻読んでいるのですが、『R.O.D』は未読です。
 でも、けっこう楽しめましたよ。


 ただし、「二人のことは全く知らないけれど、ブックガイドとして読みたい」というのであれば、ぜひ読んでみて、と「推す」ほどでもないかな。
 お二人は「良い本」について語っているというよりは、「自分にとって思い出深い本」ついて語っておられるので。
 紹介される本も、マニアにとっては、「そんなの知ってるよ」っていうものが多いかもしれません。
 ただ、それはお二人の知識が浅いというよりは、『ビブリア古書堂』などで「ちょっと古い本の世界」に興味を持った読者に対して、次に読んでみるのにちょうど良い本を紹介したい、という意識が感じられるのです。


 スティーヴン・キングについてのこんな会話も、読んでいてちょっとニヤニヤしてしまいます。

三上延80年代はキングの第一次黄金期でした。


倉田英之深町眞理子さん訳の本が出るようになって、日本にキングブームが起きた印象があります。僕も貪るように読んでましたねえ。アメリカのSF雑誌「スターログ」に、キングは今新作を書いているという情報が載るんです。『IT』なんて「早く読みたい!」と興奮して待っていたのに、実際に読めたのは十年後(笑)。


三上:当時は文藝春秋と新潮社が競うように出してましたね。キングってハードカバーではなくて、いきなり文庫で出たのも多かったはずですけど、それでも分厚くて本棚の場所を取ること取ること。


倉田:「新作出た。また二冊組みかよ!」でしたね。キングって母親に「あんたの小説は長い」と怒られて、母親でも読めるように短い『グリーンマイル』を書いたと聞きましたよ。一冊ずつ六ヶ月連続で書いて、結果的に長くなった。


三上:結局、同じじゃないかって(笑)。確かにキングの小説は長い。『恐怖の四季』も中編だっていうんだから。


倉田:中編だと言い張る(笑)。前書きで、中編小説とは何か、長々と説明してましたね。『恐怖の四季』は『ゴールデンボーイ』も『マンハッタンの奇譚クラブ』も傑作。


三上:ショーシャンクの空に』の原作『刑務所のリタ・ヘイワース』も、『恐怖の四季』の一編ですもんね。


 この部分なんて、お二人が、ニヤニヤしながら、「やっぱりキングは長い!」って言い合っているのが、目に浮かんできます。
 『11/22/63(イチイチ・ニイニイ・ロクサン)』のときは、「キング、やっぱり長いよ……」と僕も思いました。
 でも、キングの場合は「ちゃんと書いていると、必然的に長くなってしまうタイプ」なんですよね、きっと。
 

 また、『指輪物語』についての、こんな話も。

三上:原作は主人公たちが旅に出るまでがむちゃくちゃ長いですよね。


倉田:そうなんですよ! 一冊ずーっと「行こうかな、行くまいかな」って悩んでる。魔法使いのガンダルフが旅から帰ってきて、「もう行ったほうがいいんじゃない?」と促されてようやく出発する。そもそも主人公のフロドが結構年いってたり、感情移入できないまま、うろうろしながら読んでました。映画のほうがカタルシスはありますね。


三上:娯楽ものとして、きちんとしてました。
 昔のファンタジー小説は、こことは違うもう一つ別の世界を作って読者に提示するというのが、目的の一つだったと思うんですよ。


倉田:昔は旅行しない人が多かったんで、小説は風景描写にすごい力を入れていたというのを聞いたことがあります。海を見ないまま死んじゃう人もいるんで、海というのはこういうもの、という描写が延々続いたりすることもあった。時代を経て、人々が旅行に行けるようになってきて、そういう描写がだんだん簡略化された結果、少しずつ物語の展開が早くなっていったんじゃないですか。たぶんそういうのを何回も繰り返して、エンターテインメントが今の形に落ち着いてるんだろうなあと。


三上:そうか。かつては自分が知らない世界に行くこと自体がエンターテインメントだったのかもしれないですね。


 ピーター・ジャクソン監督の映画『ロード・オブ・ザ・リング』、『ホビット』は、あの世界を説得力ある映像で再現した素晴らしい作品なのですが、デキが良いだけに、これからは「中つ国」のイメージが、あの映画のものに固定されてしまうと思うと、ちょっと寂しいような気がします。
 そして、本の『指輪物語』って、たしかに、「なかなか旅に出ない」のだよなあ。
 読み終えてみると、あれもまた味なのだと思えるのですけど。


 また、三上さんは「古書」をテーマにして書くことの苦労について、こんなことも仰っています。

倉田:『ビブリア』みたいな古書を扱う小説は、書く前に調べるのが大変じゃありません?


三上:細かいところでどうしても調べがつかないところがありますね。乱歩の『挿絵と旅する男』を取り上げた回では、第一稿が鍵になるんですけど、乱歩専用の原稿用紙があったのかなかったのか、謎だったんですよ。調べていくと、普通の原稿用紙に書いている一方で、専用の原稿用紙も発注してたから存在はしたらしい。でも『挿絵と旅する男』がどうだったかは、乱歩邸を管理している立教大学学芸員の方に聞いても、分かりませんでしたね。結局、『挿絵と旅する男』と出先で書いていた乱歩が、簡単に専門の原稿用紙が手に入るはずがないから、普通の原稿用紙を使ってると結論づけたんです。今となっては「専用の原稿用紙に書いていた」という人が現れないことを祈って……。


倉田:乱歩にはマニアがいますからねえ。そういえば夢枕獏先生も時代劇を執筆したとき、茶屋の団子が何本なのか、そういう些細なことを調べるのに時間がかかると書いていました。


三上:団子一つにしても、当時の物価がいくらで、どれぐらい気軽に食えてたとか、そういう生活に即した情報が分かりにくいんです。


倉田:『鸚鵡籠中記』でしたっけ。尾張藩の家臣が、今日は何を食べていくらかかった、みたいな平凡な日常を三十何年もつけている日記。そこの情報が時代劇を書く資料として役立っているとか。

 
 実際に作品を書くとなると、そういうディテールを無視するわけにはいかず、そこで悩んでしまうことが少なくないようです。
 こういうのを読むと、いきなり新人が時代物を書くのは難しいのだろうな、と思います。
 普通の人の普通の暮らしぶりというのは、100年もすればわからなくなってしまうのです。
 当時の人にとっては「あまりにも普通のこと」だから、あえて記録に残そうとはしない。
 そんななかに、あえて「日常生活」を事細かに記録する「記録マニア」みたいな人がいて、そういう記録こそが、後世の人に重宝されているというのは、すごく面白いことだよなあ、と。
 いまのブログも、オピニオン系のほとんどは後世に残ることはなく、「食べたものの写真つきの記録」とか「家計簿みたいなもの」のほうが、歴史研究家に喜ばれ、受け継がれていくのかもしれませんね。


 三上さん、あるいは倉田さん、どちらかのファンであれば、楽しく読めるのではないかな。
「ちょっと同級生とは違う本を読んでみようかな」という読書好き中高生にもオススメ。
 僕のような中年読書オヤジも、「ああ、僕もこれ、読んでたなあ……」って、懐かしくなるような新書でした。
 「本好きの人が、楽しそうに本の話をしているのを読むのが好き」なら、読んで損はしないと思います。
 


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