琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

ソロモンの偽証 前篇・事件 ☆☆☆


あらすじ
クリスマスの朝、雪に覆われた中学校の校庭で柏木卓也という14歳の生徒が転落死してしまう。彼の死によって校内にただならぬ緊張感が漂う中、転落死の現場を目にしたという者からの告発状が放たれたことによってマスコミの報道もヒートアップ。さらに、何者かの手による殺人計画の存在がささやかれ、実際に犠牲者が続出してしまう。事件を食い止めようともせず、生徒たちをも守ろうとしない教師たちを見限り、一人の女子生徒が立ち上がる。彼女は学校内裁判を開廷し、真実を暴き出そうとするが……。


参考リンク:映画『ソロモンの偽証』公式サイト


2015年8作目。
月曜日のレイトショーを観賞。
観客は僕も含めて6人でした。


この映画では、主人公・藤野涼子がのちに教師として母校に赴任してきて、学校の伝説となっている「学級裁判」について、校長先生に話をする、という設定になっています。
僕としては、なぜ、わざわざその「振り返る設定」にするのだろう?という疑問はありました。
タイタニック』を最初に観たときもそう思ったのですが、「思い出話」にすると、「ああ、この語り手の人は死なないのだな」とわかりますし、なんとなく、臨場感が薄れてしまうような気がするんですよね。
原作を読んだ僕としては、クラスメイトが亡くなったことに端を発する「学級裁判」の話を、「武勇伝」みたいにペラペラ自分から喋っているのは、なんだかちょっと不快でもありました。
いや、悪い事したわけじゃないんだから、黙っておけと言うつもりはないのだけれど、それにしても、「待ってました」とばかりに語り始めるようなことでもなかろう、と。


そして、この作品、1990年に設定されているのですが、演出がとにかく古臭い。
古臭いから悪い、とは言いませんが、1990年どころか、1970年代っぽいんですよ、登場人物の台詞回しとか、その人物にスポットが当たるときに、ぼんやりしていた映像の焦点が合うところとか。
急に登場人物がミュージカルをはじめるような社会派ミステリに慣れてしまっている僕としては、「なんか懐かしい感じのドラマだなあ」と思いながら観ていました。


あと、観ていて痛感するのは、全3巻の分厚い原作を前後篇、各2時間で合計4時間にまとめることの難しさでした。
宮部みゆきさんのミステリはディテールの積み重ねで読者にリアリティや登場人物への思い入れをもたらしているのですが、この映画では「いつのまにかそうなっていた」という感じで、メインの登場人物以外の「背景」は見事にスルーされています。
陪審員に選ばれたメンバーとか、原作ではけっこう個々の事情が丁寧に紹介されていたのですが、この映画では、いきなり決まっているし、判事役の井上君とか「とりあえず学年でいちばん勉強ができて、性格的にもキッチリしてそうだから」というような感じで選ばれています。
とりあえず、『ソロモンの偽証』という小説の「あらすじ」はわかるようにつくってある。
でも、この映画を観て、「ああ、こんなミステリなんだ」と思われてしまうとすれば、原作を読んだ人間としては、悲しい。
なんかね、ワイドショーの中に出てくる「再現ビデオ」みたいな映画になっちゃってるんですよこれ。
典型的な人間が、典型的な行動をとって、物語をシナリオ通り進行させているようにみえる。
たぶん、成島監督は、ものすごく丁寧に原作を「まとめた」のだと思います。
でも、まとめただけになってしまった。
原作では、こんなにうまくはいかないし、藤野涼子も「偽善者と柏木に言われたことがずっと引っかかっていたがために、学級裁判をやろうとした」なんて、シンプルな人間ではありません。


ただ、原作は文庫だとかなり厚いものが全部で6冊になるというボリュームなので、読むのがかなり大変ですし、単行本での3巻めの『裁判』は盛り上がるのだけれども、そこに至るまでの2冊は、読んでいて、けっこうダレるな、と感じてもいたんですよね。
「ちゃんとプロセスを描く」というのは、読む側からすれば、「なかなか話が進まない」のです。
原作を読み切れた人にとっては、この映画は「なんかあらすじを辿っただけみたい」なのですが、原作未読で時間がなかったり、長い小説を読むのが得意じゃない人にとっては、この映画くらいの長さでちょうどいいのかもしれません。
僕も、「レトロな雰囲気の映画だなあ」と思いながら、とりあえず2時間あまり退屈しませんでしたし。


個人的には、これをわざわざ映画館で観る必要はないな、というか、WOWWOWのスペシャルドラマみたいな感じだな、と。
原作の小説を読むのが難しければ、DVD化されてからでもいいかも。


今回は「前篇」なのですが、観終えて驚いたのは、本当にこの前篇が「学級裁判に至るまでの状況説明」だけで終わってしまったことでした。
前後篇の映画って、ときどきあるんですけど、『GANTZ』でも『寄生獣』でも(って、『寄生獣』は、まだ前篇までしか公開されていませんが)、3部作の『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』でも、とりあえず、前篇にもそれなりの「見せ場」というか「クライマックス的な場面」がつくられています。
「前篇」だけでも、起承転結が含まれている。
ところが、この『ソロモンの偽証・前篇』は、そういう形での「観客サービス」を行っていないのです。
いやまあ、原作がそうだから、しょうがない、という面はあるし、実際に原作を読んでいても、2巻あたりはけっこうダルかったものなあ……


とりあえず、あまりに消化不良な状況で前篇が終わるので、「後篇も観なくては」と思うのだけれど、それはあくまでも前篇に付き合ってしまったから、であって、これからの人は「前後篇まとめてDVDレンタル」のほうがスッキリのではないでしょうか。


全体的にレトロな演出のこの作品のなかで、人が車にはねられるシーンだけがポップというか、人がピュ〜ンとすごい勢いで免許更新ビデオで車にぶつかったマネキンのように飛んでいったのは、なんかヘンだった……
これ、真面目な映画だったはずなのに、息抜きの小笑いシーンなの?
にしては、かなり深刻な状況のような……なんだか、1シーンだけ、『寄生獣』で、人が突然食われるシーンが挿入されたような違和感がありました。
なぜあんな見せ方にしたのだろう、謎すぎる……


ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

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