内容紹介
30人の人気クリエイターが語る、とっておきの“私のおやつ"!
子どもの頃にいつもお母さんがつくってくれた懐かしいケーキ、自分で初めてつくったクッキー、友だちの家でごちそうになった不思議なおやつ、いちばんお気に入りのスイーツ、どんなに豪華なお菓子より魅力的だったアレ……30人の人気クリエイターが「おやつと言えばこれ! 」というとっておきを、それにまつわる思い出とともに語ります。
ポプラ社の小説誌「asta*」掲載の人気エッセイ30篇をまとめた、おいしい記憶がたっぷり味わえるエッセイ・アンソロジーです。
★執筆者一覧(50音順) あさのますみ/天野頌子/彩瀬まる/安東みきえ/伊藤たかみ/絲山秋子/犬童一心/内澤旬子/大崎梢/大島真寿美/加藤千恵/金原瑞人/壁井ユカコ/越谷オサム/中脇初枝/梨屋アリエ/仁木英之/原宏一/東直子/平松洋子/平山夢明/万城目学/益田ミリ/ ミムラ/宮下奈都/森まゆみ/森見登美彦/椰月美智子/山崎ナオコーラ/柚木麻子
ポプラ社の小説誌に掲載されていた、「3時のおやつ」についてのエッセイをまとめたものです。
上記の「執筆者一覧」を見ていただければわかると思うのですが、読んでいて、「世の中にはこんなに有名作家というのがいるものなのだな」と妙に感心してしまうくらいの豪華メンバー。
世代的にも、還暦を過ぎた「大御所」ではなくて、30〜40代くらいの僕と同じくらいの人が多くて、「そうそう、こんな感じだったよなあ」なんて、いろいろ思い出してしまいました。
僕が子供の頃、いまから35年前くらいは、「生クリームのケーキ」なんて、めったに見かけなかったんだよなあ。そもそも、ケーキそのものが「ごちそう」だった。誕生日とかクリスマスだけの特別なデザートで。当時はバタークリームのほうが多かったし。
今は、コンビニで「なんとなく食べたくなったから」という理由でケーキを買っているのですから、なんのかんの言っても、食生活はけっこう「豊か」になってきているのかもしれませんね。
でも、当時のケーキは、バタークリームでも、なんだかそこにあるだけでワクワクしたものです。
それにしても、子供の頃の記憶というのは、時間が経つと、ものすごく曖昧になってしまうものだよなあ、と思いながら読みました。
椰月美智子さんの「さきいか」の中に、こんな話が出てきます。
小学生になってハマったのはチーズ味のカール。軽い食感、チーズの芳香。カレー味はごくたまに食べるのならいいけれど、あれは食感があまり好きではないので点数が低い。
(中略)
(小学校)高学年の頃にしお味のカールが発売され、一時期、鬼のようにハマったがあれは飽きる。やっぱりカールはチーズ味なのだった。
僕のなかでは、カールは「しお味」がスタンダードで、チーズ味やカレー味が後発だったんですよね。
あれほど人生でカールを食べてきたはずなのに、発売順を完全に間違っていたとは。
益田ミリさんの「チョコクリーム」には、こんな給食の光景が。
レーズンパンは、レーズンが苦手という子にとっては手間のかかるパンである。レーズンをひとつひとつ指でほじくり出しているクラスメイトを見ていると、ああ、レーズンが嫌いじゃなくて良かった、とホッとした。
ああ、いたよなあ、レーズンが嫌いな同級生。
僕もそんなに好きじゃなかったけれど、あのほのかな甘みがないとちょっと寂しいような気もするし、わざわざほじくり出す手間をかけるほど嫌うようなものじゃない、と思っていたんですよね。
でも、「嫌い」って、理屈じゃないんだよなあ。
これを読んでいると、プロの作家というのは「3時のおやつ」という漠然としたテーマに対して、こんなにさまざまなイマジネーションが浮かんできて、個性的な文章を書けるのだなあ、と感心してしまいます。
同じような話が出てきてもよさそうなものなのに、それぞれ「その人らしいエッセイ」になっているんですよね。
金原端人さんのエッセイが「ロバのパン屋さん」だったので、ああ、これは車でやってくる『ロバパン』のことなんだな、と思いながら読み始めたら、なんと、昔は本物の生きたロバがパンを並べた箱を引いてくるパン屋さんがあったそうです。
世の中には、まだまだ知っているつもりで知らないことがたくさんある。
そこから、『ロバパン』というのができたのか……