琥珀色の戯言

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【読書感想】日本懐かし自販機大全 ☆☆☆☆


日本懐かし自販機大全 (タツミムック)

日本懐かし自販機大全 (タツミムック)

内容紹介
嗚呼、懐かしきあの頃よ…
絶滅寸前!!深遠なるレトロ系フード系自販機を巡る旅


うどん・そば・ラーメン、ハンバーガー、トーストサンド…etc.
ひと昔前までは主に国道、県道沿いのオートスナック、コインスナックなどに
設置されていたフード自販機。
自販機大国ニッポンならではの貴重な文化であるそれらも今や風前の灯、
絶滅寸前の状況です。
本書では、人気サイト『懐かし自販機』の管理人・魚谷祐介が自ら全国各地を
旅して出会ったたくさんの「レトロ系フード自販機」および店舗などを
紹介していきます。
さらに激レア資料なども満載の、ほかに類を見ない集大成本です。
フード自販機巡りの旅のガイドとしても。


 この本の冒頭に「懐かし自販機『御三家』大解剖」というページが出てきます。
 さてここで問題。
 この「御三家」とは、何の自販機のことでしょうか?



 答えは、「めん類」「ハンバーガー」「トーストサンド」。
 そういえば、最近、めん類(カップラーメンじゃなくて、生麺のうどんやラーメンが出てくるもの)や、ハンバーガーの自動販売機って、見かけなくなりましたよね。
 いまは、ちょっとした田舎でも、道路を走っていればどこかのチェーンのコンビニが営業しているのですから、こういう自販機が無くなってしまうのは、致し方ない気がします。
 逆に、現役で稼働しているところがこれだけあるのか……と、この本を読んで、ちょっと驚きました。

 日本の食品自販機は、昭和46年以降に生産が本格化した。その先陣を切ったのがハンバーガー自販機だった。続いてカップラーメン、弁当、うどん・そばなどの自販機も登場した。当時はカップラーメンに自動でお湯が注がれるだけでもワクワクしたものだ。24時間いつでも温かいものが買える自販機は、大人にとっても子供にとっても、まさに夢のマシンだった。
 全盛期には新しい種類の自販機が開発され、そのバリエーションも豊富になった。昭和45年に15万台だった食品自販機は、14年後の昭和59年には25万台を突破。当時はまだ、食品自販機の未来は明るかった。
 こうした自販機を数台並べ、24時間営業で軽食がとれる店舗が日本各地に広がった。いわゆる「オートスナック」「コインスナック」コーナーだ。また、1960年代半ばから郊外に続々とオープンしたドライブインにも数多く設置された。

 1970年代はじめに生まれた僕は、この本で「川鉄のめん類自動調理販売機」や「富士電機めん類自動販売機」の写真をみると、自分の子ども時代を思い出さずにはいられません。
 この「うどん そば」って大きく書いてある「富士電気」の自販機、あちらこちらで見かけていたものです。

 富士電機めん類自販機は、昭和50(1975)年から富士電機が製造販売を開始したロングセラー自販機だ。製造終了まで、およそ20年をかけて約3000台が全国各地に設置された。
 正式名称は「富士電機めん類自動調理販売機」。硬貨を入れて商品選択ボタンを押すと、たったの25秒で熱々のめん類が出てくる。商品の収容数は84食。ドラムの上段と下段に2分割して収容できるため、1台で2種類のメニューを販売できる。主なメニューは天ぷらうどん・そば、ラーメンで、西日本に行くと、肉うどんも多い。味は各店によってかなりの差があり、地方によってだしやつゆの色の違いを楽しめる。


(中略)


 現在、日本全国で稼働中の富士電機めん類自販機は約70台。登場から約40年が経過した今なお、当時の姿そのままに24時間稼働している姿は感動ものだ。ファンも多く、現存する懐かし自販機の中で最も生存率が高いのもうなずける。

 自動販売機から温かいうどんが出てくる、ということそのものがすごく特別な感じがして、親に「このうどんを食べてみたい」とアピールするのですが、親は「うどんを食べたいんだったら、自動販売機じゃなくて、ちゃんとしたお店で食べようよ」と、いつも僕を諭していました。
 僕としては、「普通にお店で出てくるうどん」じゃなくて、自販機の中から出てくるうどんだからこそ、食べたかったのに……
 それでも、何度か口にした記憶はあるのですが、味はあんまり覚えていないんですよね。
 僕が大人になったときには、もうすでに、24時間営業のコンビニやファミリーレストランが珍しくない時代になっていました。


 ちなみに、この本では、「この自販機の中は、どうなっているんだ?」という僕の少年時代の疑問に寄り添うように、ちゃんと「内部メカニズム」が写真付きで紹介されています。
 いまのものと比べれば、ものすごくアナログな機械なんですけど、それだけに、工場感満載で、ちょっとワクワクしてしまいます。


 この本を読むまで、僕は疑問だったのです。
 数少なくなった「うどん」「そば」「ラーメン」「トースト」などの自販機の中に、いまでも現役で稼働しているものがあるそうだけれど、中の商品はどうやって補充しているのだろう?


 たとえば、路傍のジュースの自動販売機であれば、各メーカーの人が商品を補充してまわっている様子を、ときどき見かけますよね。
 でも、いまの「富士電機めん類自動販売機」は、日本全国、それもあまり交通の便がよくなさそうな地域に散在しているのです。
 どこかの工場で「うどん」をつくっていたとしても、それを全国に配送するのは、あまりにも大変だし、そもそも機械の数が全国で100台もなければ、手間のわりに利益なんて出ないだろう、と。


 「自販機の神」こと、田中健一さんの話より。

 同じ機械でも店によって味に工夫ができるから自販機は面白いんですよ。素材は、地元のめん、地元の野菜、かまぼこは山陰産と、なるべく地元のものにこだわっています。

 この本を読んで、僕は自分が長年誤解していたことがわかりました。
 これらの「めん類」「トースト」の自販機の商品って、自販機メーカーが提供しているわけではなくて、中に入っているうどんや具材、トーストなどは、それぞれの自販機の所有者が自分で作るなり、近くで調達するなりしているものなのです。
 同じ「富士電機」の機械でも、中に入っているうどんや具材は、一軒一軒違う。
 自販機うどん全盛時代には、どこかで集中的に製造し、配送されていたのかもしれませんが、いまは、それぞれの所有者が、それぞれのうどんを自販機の中に入れています。
 共通しているのは、それを「熱々の状態で、お客さんに提供するシステム」。
 だからこそ、これだけ稼働台数が減っても、細々とやっていく店が存在しうるのです。
 それを聞くと、「全台制覇」してしまいたくなるのも、わかるような気がします。
 
 
 全国の「懐かし自販機」のマップも掲載されていて、それぞれの店も紹介されています。
「懐かし自販機の稼働台数全国一は群馬県」だとか、山口県島根県には数十軒の「めん類自販機」のメンテナンスを行っている「自販機の神」と呼ばれる男(田中健一さん)がいる、というような「自販機好きにはたまらない知識」も、読んでいて楽しかった!
 それぞれの店の人びとの話を読んでいると、こういう「懐かし自販機」好きは、「ものすごく多くはないけれど、それなりに存在している」みたいで、それを目当てに全国各地から人が来ることもあるそうです。
 たぶん、どんなに美味しい「自販機うどん」でも、やっぱり、専門店で提供される最上の一杯にはかなわないと思うんですよ。
 でも、「懐かしさ」とか「思い出」というのは、ときに、味覚以上に、食べ物を美味しく感じさせてしまうのです。

 徳島県阿波市、県道12号線沿いにあるシンプルなトタン屋根の建物。ここコインスナック御所24には、日本で唯一、現役で稼働するボンカレーライス自販機がある。全国からこの1台のためにファンが駆けつけるというほどの人気自販機だ。


 「日本で1台」は確かに珍しいけれど、出てくるのは、家でいつでも作れるはずの「ボンカレー」。
 にもかかわらず、全国からファンが徳島までやってくるのです。
 「好き」っていうのは、すごいことだよなあ。


 僕も近くに寄ったら、ぜひ寄ってみたいと思いますし、同好の士には必携の一冊ではないかと。
 こうやっているうちに、「懐かし自販機」がどんどん減っているのはまぎれのない事実で、だからこそありがたみが増してきている、というのも、考えてみればちょっと皮肉な話ではあるんですけどね。
 

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