鎌倉で暮らす、幸(綾瀬はるか)、佳乃(長澤まさみ)、千佳(夏帆)。そんな彼女たちのもとに、15年前に姿を消した父親が亡くなったという知らせが届く。葬儀が執り行われる山形へと向かった三人は、そこで父とほかの女性の間に生まれた異母妹すず(広瀬すず)と対面する。身寄りがいなくなった今後の生活を前にしながらも、気丈かつ毅然と振る舞おうとするすず。その姿を見た幸は、彼女に鎌倉で自分たちと一緒に暮らさないかと持ち掛ける。こうして鎌倉での生活がスタートするが……。
2015年14作目。
平日のレイトショーで観賞しました。
観客は僕も含めて3人。
原作は未読で、「3姉妹が、腹違いの妹を引き取って一緒に生活する話」というくらいの予備知識で観ました。
綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずの4人が、主役の4姉妹を演じるということで、人気女優をエサに集客を狙った作品かと思いきや、人情の機微と鎌倉の風景がものすごく丁寧に描かれている大変良い映画だったのです。
最初は、綾瀬さんと長澤さんを眺めつつ、「なんてスタイルの良い姉妹なんだ!」と、半ば茶化すような気分だったのですが、見ているうちに、見かけ云々だけじゃなくて、役者としての力量を踏まえての起用だったんだな」と納得してしまいました。
さすが、『そして父になる』の是枝裕和監督。
脚本・編集も是枝監督がやっているということで、綾瀬さんたちに「マンガのキャラクターを演じさせる」というよりは、マンガのキャラクターにあてはまりそうな人をキャスティングして、あまり無理なく役柄に嵌るようにしたのかもしれません。
綾瀬さんが演じていた長女の、他人には優しいのだけれど、真面目すぎて、身近な人には「こうあってほしい」という理想が高くて融通が効かず、厳しくあたってしまうところとか、「ああ、素顔の綾瀬はるかさんって、こんな感じなのかな……」と。
夏帆さんの「何も考えてなさそうで、実は周囲のバランスをとるために気を遣いまくっている三女」なんて、観ていて本当に上手いと思う。いるよね、こういう人。大概、周囲からは、あんたはお気楽でいいよね、なんて言われているんだけどさ。
描かれている緑が多い風景とか、庭に立派な梅の木があって、そこでとれた梅の実で毎年梅酒をつくったり、ぬか床を大事にしたいたりしているところとか、4姉妹が総出で障子を張り替えているところとかに、「ああ、丁寧に日常を過ごすって、何だかすごく良いなあ」と感心してしまいました。
その一方で、「のどかに、一日一日を丁寧に」暮らしているように見える人たちも、その内面にはさまざまな矛盾を抱えていて、「自分がやられていやだったこと」を他人に対していつのまにかやっているのです。
他人に対して、優しかったり、気配りをしていたりすることそのものが、相手にとってはプレッシャーになってしまうこともある。
小説とか映画とかドラマを観ていると「どうして実の親子なのに、いつまでもわだかまりを抱えているのだろう、どちらかが歩み寄るか、赦してしまえばいいのに」と僕も思います。
でも、僕も他人に対してしたり顔でそんなアドバイスをしながらも、自分自身が「身内を赦せない人間」なのです。
幸(長女)の気持ちは、なんだかもう、ものすごくわかる。
「つまらない意地なんか張らないで」と他人は言うけれど、自分にとっては、その「つまらない意地」が自分のアイデンティティの根っこだったりするんだよね。
山崎貴監督作品のような「懇切丁寧に説明しすぎてくれる映画」を最近は見慣れているおかげで、「えっ?すずちゃん、なんであのお母さんとは血が繋がってないの?どういうこと?」とか30分くらい悩んでしまいました。
是枝監督というのは、最近の日本映画では少数派の「幕間を読む力」を求めてくる人なので、観ながらさまざまな情報を自分で分析しなければならないことにけっこう疲れます。
疲れるにもかかわらず、観てよかったと思えるんですよ、これ。
すごい特撮が使われているわけでもなく、「DVDで観ても同じ」って感じがするかもしれないけれど、観ながらあれこれ思考をめぐらすためには、映画館で観たほうが愉しめる作品です。
個人的に、「いかにもリリー・フランキーがやりそうな役を、相変わらずの演技力でやってしまう、リリー・フランキーさんと、それをやらせる人」にやや食傷した以外は、すごく好きな映画でした。
人は、いつか人を赦せるかもしれないし、やっぱり赦せないかもしれない。
でも、「赦さなきゃダメだ」なんて思う必要もないし、もし、「その時」が来ることがあれば、ためらわずに赦してあげればいい。
『そして父になる』では、「生みの親か、育ての親か?」について考えさせられたのですが、この『海街diary』では、「血がつながっている」ということのややこしさと粘着力、みたいなものが丁寧に描かれています。
僕自身、自分が親というものになるまでは「血なんか繋がっていなくても、人は子どもを育てたり愛したりできるはずだし、血縁にばかりこだわるなんておかしい」なんて思っていたんですよ。
でも、自分の息子をみていると「このムカつく感じをなんとか抑制できるのは、『こいつのこの行動は、僕の遺伝子がやらせているのではないだろうか、要するに、僕に似ているのでは……』と反省するからではないか」という気がしているのです。
「血のつながり」って、一筋縄じゃいかないよね、本当に、そう思う。
4姉妹が人気若手女優てんこもりのため、「ミーハー映画」だと観られてしまいがちかもしれませんが、これ、本当に良い映画ですよ。ものすごく地味だし、「何も起こらない映画」なんだけど。
「何も起こらない」のに、2時間観ていて退屈せず、エンドロールが流れはじめたときに、「ああ、これからまたこの『物語』が始まっていくのだな」と思いました。
ぜひ観てほしいなあ、これ。
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