琥珀色の戯言

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【読書感想】世論調査とは何だろうか ☆☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
世論調査の数字は不思議だ。同じような質問なのに、結果はしばしば各社各様。どの数字が信頼できるのか?本書は、そんな疑問に答えながら、世論調査の仕組みと働きについて考える。結果次第で内閣の運命も左右する世論調査。国民の意思や意見のありかを伝え、権力を監視する強力な手段としての重要性を説く。


 「内閣支持率」とか、最近では「集団的自衛権憲法改正への賛否」とか、「みんなはどう考えているのか?」を知ることができる(とされている)「世論調査」。
 この新書では、その世論調査の背景が、なるべくわかりやすく紹介されています。

トム・ソーヤーの冒険』で有名なアメリカの作家マーク・トゥエインは数々の名言を残しています。「タバコをやめるのは簡単なことさ。私はもう何千回もやめた」は、私がタバコをやめられなかった20年前に何度も活用させてもらいましたが、それ以上に有名な格言があります。彼が引用したことで世に知られるようになったこの文句です。
 「世の中には3つの嘘がある。嘘、大嘘、そして統計だ。」
 統計の数字をきちんと受け止め、正確に理解することの難しさを示しています。数字で説明されるとなんとなく納得してしまうのは、洋の東西を問わず、ありがちなことなのでしょう。
 世論調査を活用するには、数字がどういう意味を持つのか、また、その数字で本当に事象を説明できるのかをきちんと理解すること、すなわち数字にだまされないことが重要なのです。


 健康食品のCMで、「個人の感想です。効果は人によって異なります」と注意書きがしてあるじゃないですか。
 なぜ、そんな当たり前のことをわざわざ表示しているかというと、世の中には「信頼できないデータに基づいて、効果が証明されたものであるかのように見せかけるもの」が少なくないから、なんですよね。


 世の中の「データ」と主張しているもののなかには、誰か、あるいはごく少数の人から得られた結果を「科学的に効果が証明された」とミスリードしようとするものがあるのです。


 これは、必要な数のデータを、有効な方法で集め、正しく解析したものなのか?
 「データらしきもの」がグラフとか表で出てきたら、「ああ、これは効果があるんだな」と思い込んでしまいがちです。
 ところが、よくよく確認してみると、「この健康食品を1人が使用したら、その人は効いたと言っています。(1分の1で)100%の人に効果があります!」みたいな「データ」って、けっこうあるんですよ。
 まあ、1分の1は極端すぎる例なんですが、その手の「統計学的には全く信頼できないものを、いかにも科学的なデータのように扱ってアピールしているもの」が、世の中には存在している。
 「ソースを出せ!」「データを見せろ!」はネットでの「ツッコミ」の定番なのですが、そう言っている人が、「ソース」や「データ」の正しい見方を知らなければ、意味がありません。


 この新書は「世論調査」を題材にして、「世の中の統計的な調査結果との向き合い方」を教えてくれます。
 数式は一切使わずに(これは著者の意向のようです)、数学アレルギーの人にも最低限のニュアンスは理解できるように書かれているのです。


 これを読んで感じたのは、「マスメディアというのは、少なくとも著者が属しているNHKは、けっこうキチンと世論調査をやっているのだな」ということでした。
 テレビ番組でよく紹介されている「番組調べ」のアンケートには、「訊いた人の数や年齢層」「質問の形式」などの、さまざまなバイアスがかかっています。
 実際、街頭アンケートをやっている様子をみれば「答えてくれやすい人」の回答率のほうが高くなるのは間違いないでしょうし、そういう人たちを狙って訊くはず。
 『めざましテレビ』の街頭アンケートには、田舎の高齢者や引きこもりの意見は反映されません。
 「アンケート」や「番組調べ」というのは、「これは統計学的に有意な調査ではありませんよ」というサインでもあるのです。
 
 
 世論調査の代表格といえば「選挙」に関するものです。

 選挙は世論調査の専門家にとって別の面でも非常に重要なのです。それは何かというと、選挙は世論調査の「答え合わせ」ができるほぼ唯一の機会だからです。
 例えば、NHK放送文化研究所が行った最新の「日本人の意識」調査では、「結婚して子どもが生まれても女性はできるだけ職業を持ち続けたほうがよいと考える人は56%になり、40年の調査で初めて半数を超えた」という結果が出ました。これは、科学的な方法で細心の注意を払いながら出した結果で、もちろん自信があります。でも、本当にそうなのかを国民一人一人に聞き直して答え合わせをすることは、当然ながらできません。国民からもう一度ランダムに選んだ人たちを調査して確かめるのがせいぜいですが、それには費用もかかります。
 でも、選挙の場合は必ず投票が行われ、開票で正確な結果が出てくるわけです。

 こういう理由で、「世論調査の手法」の進歩には、選挙予想が大きく関わっているのです。
 もちろん、選挙が国民の大きな関心事である、ということもあるのですが。


 世論調査の結果が、調査したマスメディアによって異なる理由についての解説も書かれています。

 ここで、「はじめに」で書いた、集団的自衛権に関する世論調査で各社の結果が違っていたのはなぜかという疑問について、一つの答えを出しましょう。
 集団的自衛権憲法の解釈変更によって承認しようという第2次安倍内閣の方針について、読売新聞は2014年5月12日、一面トップで《集団自衛権 71%容認 本社世論調査「限定」支持は63%》と伝えました。
 記事をみると、実際の質問は、集団的自衛権を「日本と密接な関係にある国が攻撃を受けたとき、日本への攻撃とみなして反撃する権利」とした上で「政府はこれまで、憲法上、この権利を使うことはできないとしていました。この集団的自衛権について、あなたの考えに最も近いものを、1つ選んで下さい」と尋ねていました。その結果、「全面的に使えるようにすべきだ」が8%、「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」が63%で、2つの回答をあわせると容認が71%だったのです。「使えるようにする必要はない」は25%でした。


(中略)


 一方、憲法改正に慎重な立場の朝日新聞はどうだったかというと、読売新聞の記事が出る1ヵ月あまり前の4月7日に、一面で《行使容認反対 63% 集団的自衛権 昨年より増加》と正反対の報道をしていました。答えの選択肢は2つで、「行使できない立場を維持する(ほうがよい)」が63%だったのに対し、「行使できるようにする(ほうがよい)」が29%でした。
 各紙を読み比べると、日本国民は、わずか1ヵ月の間に意見を正反対に変えてしまったようにみえます。なぜ、こんな結果になったのでしょうか。


 調査法の違いや読売新聞と朝日新聞の「読者の傾向」の違いについても言及したうえで、著者は、このように述べています。

 賢明な読者の皆さんならすでにお気づきかとは思いますが、実は、このように結果が正反対になったのは「回答の選択肢」による影響が大きいのです。
 朝日新聞の選択肢は「行使できない立場を維持する」「行使できるようにする」の二者択一ですが、読売新聞と産経新聞は若干文言が異なるものの「全面的に使えるようにすべきだ」「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」「使えるようにする必要はない」の3つから選ぶ形になっていたのです。
 まず、わかるのが、読売と産経は賛成に関する選択肢が2つ、反対が1つと、バランス的に賛成方向が多いことです。


(中略)


 選択肢の種類によって、回答は大きく左右されるのです。
 賛成と反対の間の選択肢は「中間的選択肢」と呼ばれます。
 この中間的選択肢について国際比較をした有名な調査があります。統計数理研究所の故林知己夫氏が、アメリカ・フランス・イギリス・旧西ドイツ・日本で、国民が中間的選択肢を選ぶ割合を調べた結果、日本人は中間的選択肢を選ぶ傾向が強いことが明らかになったのです。逆にアメリカ人は、最も中間的選択肢を選ぶ人が少なかったということです。さらにハワイの日系人を調べた結果、中間的選択肢を選ぶ傾向はアメリカと日本の中間になりました。林氏は、これらの結果から、中間的選択肢を選ぶという好みは日本人の特性と結論づけています。
 また、NHK放送文化研究所の実勢調査では、普段あまり考えないようなことを質問された場合、中間的選択肢を選ぶ傾向が強くなることが確認されています。


 質問のしかたを変えることによって、結果は大きく変わってくるのです。
 これは、僕が同じことを尋ねられたら、と想定してみると、すごくよくわかる。
 著者によると、読売の質問にある「必要最小限」という言葉は、本来は世論調査の「NGワード」なのだそうです。
 「必要最小限」だったら、「必要」なんだよね……と感じてしまうから。
 読売新聞が意図的にこういう質問内容にしたのかどうかはわかりませんが、読む側としては、質問形式にも注意しておくべきなのです。
 データを「捏造」しなくても、世論調査の結果を「コントロール」することは可能なのです。
 その他にも、「目で見て答える質問だと、最初の選択肢を選ぶ人が増え、耳で聞く質問(電話調査など)では、最後の選択肢を選ぶ人が増える」という傾向もあるそうです。
 人の「選択」なんて、けっこう曖昧なもの、なんですよね。
 自分が確たる考えを持っていない問いに対しては、けっこうその場の勢いみたいなもので答えてしまう。
 でも、それが「政策決定」の参考にされてしまうというのは、けっこう恐い。


 いまの世の中で、「統計という嘘」に騙されないための、最低限(NGワード!)のリテラシーが書かれている新書です。



 もう少し数学的な概念も含めて、「統計」について知りたい方には、この本をオススメしておきます。

統計学が最強の学問である

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