琥珀色の戯言

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【読書感想】スターバックスのライバルは、リッツ・カールトンである。 ☆☆☆



Kindle版もあります。

コーヒーショップとホテル。一見まったく異業種のこの2つの企業には意外な共通点があった。成熟社会に突入した日本がめざすべき「ホスピタリティ」ビジネスの真髄を両社の元トップが語り尽くす。


 いやあほんと、「意識高い系会社」どうしだよなあ、と思いつつ読みました。
 僕はリッツ・カールトンには縁がないのですが、スターバックスには時々行って、書店で買ったばかりの本を読んだり、しばらくボーッとしたりしています。
 僕がいつも行く店は、居心地が良いし、店員さんの接客も素晴らしい。
 まだ幼稚園児だった息子と妻が通っていた際も、息子がいつも「ミルク」を頼んでいたのを覚えていてくれて、笑顔でつくってくれていたそうです。


 ただ、個人的には、スターバックスの、あの「感じが良すぎる店員さんたちの接客」に、ちょっとプレッシャーを感じてしまって、「普通の接客」をしてくれて安い、ドトールとかに浮気してしまうことも少なくありません。
 まあ、こういうのは好みというか、僕自身が「なぜか、感じが良すぎる人の前だと緊張してしまう」から、なんですけどね。われながら、自意識過剰なのか、自信がなさすぎるのか……


 この本、スターバックスコーヒージャパンの元CEOである岩田松雄さんと、リッツ・カールトン元日本支社長である高野登さんが、対談形式で、両社の企業文化や「ホスピタリティ」に対する考え方について語り合ったものです。
 どちらも「接客」には定評がある会社なので、僕自身、「接客」のヒントになるのではないか、などと思いつつ。

岩田松雄:スターバックスのお店では、「私達の存在理由、このお店の存在理由、スターバックスの存在理由」という言葉をよく聞きました。その「存在理由」=「ミッション」なわけですね。ミッションである「人々の心を豊かで活力あるものにするため」にスターバックスは存在するのです。


(中略)


 お客様に満足してもらうにはマニュアルどおりの接客でいい、マニュアルどおり完璧にやればいいんです。だけど、感動のレベルまで達するのは、ある意味マニュアルを壊すことだと思うんですね、ルール違反。「あ、そこまでやってくれるの」とお客様に思われたときに感動が生まれる。
 これはあちこちでもお話しているエピソードですけど……スターバックスが大好きだという心臓病を患っている女子高生がいて、海外で手術をすることになったんですね。渡航するその日の朝に、好物のシナモンロールを彼女のお父さんに頼まれたスタッフが、早朝に駅までお届けしたという話があるんです。これなんて完璧にルール違反ですね。就業時間外に商品を持ち出して、お金のやりとりするなんて普通ならノーですよね。1000店舗というような規模になってきたら「そんなのやっちゃダメ」という会社のカルチャーになっていくと思うんですよね。でも私は、「それがスターバックスだ」と言って称賛し、ルール違反をある意味では認めている。


 その女の子が置かれた状況を考えると「美談」だとは思うけれど、「特例」をつくることによって、他の人もそれを求めてくると、大変なことになるんじゃない? 
 僕はそう思ったんですよ。
 でも、その疑問に対して、岩田さんは、こう仰っています。

 よく聞くのは、「一人のお客様にそういうことをやったら、すべてのお客様に同じことをやらなきゃいけなくなっちゃうから、それは出来ません、経済的に成り立たない」ということ。でも、お客様だって良識がありますからね。スターバックス性善説に立って接客をしている。

 この本にも書いてあるのですが、スターバックスって、注文したコーヒーを受け取るとき、レシートを確認しないんですよね。
 あれは、僕が行っている店が「手抜き」をしているのだろうか、と思っていたのですが、「お客様を信頼しているから、あえて確認しない」のだそうです。
まあ、それとなく、どんな人が注文したかくらいは、見ているのかもしれませんけど。
たしかに、あの雰囲気のなかで、悪いことはやりにくい、っていうのもあるよなあ、と。
 ちなみに、スターバックスはアルバイトでも70時間も教育するそうです。
 それで、コスト的に見合うのだろうか、と疑問に感じたのですが、「やめてしまう人が少ないから、帳尻が合う」のです。
 この対談のなかには「人がなかなか辞めないのが、人事にとっては悩みの種」なんて話も出てきます。

高野登:リッツ・カールトン大阪が開業してから私は『サービスを超える瞬間』(かんき出版)という本を書いたんです。本の中に「2000ドルのエンパワメント」の事例をいくつか紹介しました。すると、その本を持ってきて、「部屋でサンマ焼かせろ」と言うお客さんもいました。泊まっている部屋でね、「美味いサンマが食いたい。ここで焼きたいから七輪持って来い」とかね。


―――うわ!


高野:でもね、それは消防法上ムリなんです。法律違反は絶対にしません。だから、「こういう理由で部屋では無理ですが、夜遅い時間であれば教会のガーデンで場所をお作りできます。いかがですか?」あるいは、「サンマが美味しいと評判のお店がホテルから近いところにあります。そちらまでご案内しましょうか」と提案します。結局、お客様が欲しているのは、どこまで我々が話を聞いてくれるのかの一点だけなんですね。サンマが食べたい、ということではなく、自分の言ったことにホテルがどこまで真剣に向き合ってくれるかということですね。本当に欲しているのは、サンマではなく真心なのでしょう。


 ほんと、酷い客だとは思うのですが、こういう人が欲しているのは「どこまで我々が話を聞いてくれるかの一点だけ」というのは、なるほどなあ、と。
 言っている人だって、大型ホテルの居室でサンマが焼けるなんて、内心では考えていないはず。でも、そこで「そんなの無理に決まっているじゃないですか」と言われたら、やっぱり良い気分はしないでしょう。
 こういうのは、ある種の「知恵競べ」みたいなところは、あるのでしょうね。


 いやまあしかし、この本を読んでいると、「スターバックスリッツ・カールトンで働いている人々」の「忠誠心」みたいなものに、僕自身の価値観が揺さぶられるようなところがあるんですよね。

岩田:スターバックスで働いている人は辞めない人が多いんです。他にもいい職場はいっぱいあるだろうに、アルバイトでも5年10年働いてますから。最近で知っているのは、超一流大学を出た女性。モデルみたいな方で、公共機関で広報担当をしていたんです。その後、スターバックスにアルバイトで入って、店長になって、結婚して1回辞めたんですが、今またアルバイトからやってます。多分、他で働いたら年収1000万円くらいとれる人だと思うんです。だけど、「スターバックスで働くことが報酬です」と言うんですね。じつはご主人もスターバックスで働いてます。決して給料は高くないわけだし、今は以前ほどガンガン店舗が増えているわけでもないから、再び店長になれる確率もそんなに高くないわけですよね。やってることも基本的には他のコーヒーショップと同じです。掃除したりコーヒー淹れたりね。ただ、そこに意義付け、ミッションを感じているかどうかですね。


高野:「働くことが報酬です」って最高ですね。「その場にいることが報酬、そこで働けることが報酬、この仲間との時間が報酬」。


 うーむ。他の人が好きでやっていることに疑問を抱いてもしょうがない、とは思うのだけれども、僕はこれ、なんだかすごく「引っかかる」のです。
 スターバックスでコーヒー淹れるために、超一流大学を卒業したわけではなかろうに、とか、つい考えてしまう。
 でも、本人も幸せ、会社も優秀な人材をそんなに高給じゃなくてもつなぎ止められて幸せ、お客さんも良い接客をしてもらえて幸せ……
 文句を言うところなんて、ないんですよね。


 こういうのが「やりがい搾取」なのかどうか、僕にはなんとも言えません。
 本人が満足していれば、良いのかな、やっぱり。
 でも、僕がスターバックスを「凄いな」を思いつつも、なんとなく苦手な理由も、このへんにあるのかな、とは感じました。
 そんなふうに考えてしまうのは、僕が自分の仕事を好きじゃないから、なのかもしれないけれども。

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