琥珀色の戯言

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【読書感想】スタンフォードの自分を変える教室 ☆☆☆☆


スタンフォードの自分を変える教室 (だいわ文庫)

スタンフォードの自分を変える教室 (だいわ文庫)


Kindle版もあります。

スタンフォードの自分を変える教室 スタンフォード シリーズ

スタンフォードの自分を変える教室 スタンフォード シリーズ

内容(「BOOK」データベースより)
60万部のベストセラーがついに文庫化!これまで抽象的な概念として見られていた「意志」の力についての考え方を根本的に変え、実際の「行動」に大きな影響を与えてくれる。目標を持つすべての人に読んでもらいたい一冊。


 僕は基本的に「ビジネス書」ってやつがあまり好きじゃなくて(そもそも、仕事のことを、いちいち「ビジネス」って言う人が好きじゃないし)、この『スタンフォードの自分を変える教室』も、書店で平積みにされているのを見て、売れているのも知っていたのですが、単行本には手を出しませんでした。
 どうせまた、いつもの「自己啓発」なんだろうな、って。
 そういう本って、書かれている内容はみんなほとんど同じなんですよね。
 慣れてくると同じ内容だからスイスイ読めて、自分がわかったような気分になれるだけ。


 今回、この本を手に取ってみたのは、出かけた際に、ちょっと書店に寄って、何か一冊、移動中に読める文庫本を探していたときでした。
 なかなか読みたい本が見つからず、Kindleで読んだほうが便利かなあ、という作品ばかり。
 そこで目についたのが、この『スタンフォードの自分を変える教室』だったのです。
 いや、この本もKindle版があるんですけどね。
 せっかくだから、普段は手に取らないような本にしてみよう、と思って。


 そうして読み始めてみると、僕はこの本にけっこうハマってしまいました。
 スタンフォードで人気の講義になったのは、ダテじゃなかったんだな、と。
 自己啓発本などでは、「自分の心を変えれば、世界が変わる」みたいな話から始まるじゃないですか。
 それで、トイレを掃除しろとか、親孝行しろとか。
 もちろん、それをすることが悪いというわけじゃないけれど、なぜそれをやると「心が変わる」のか、よくわからない。


 この『スタンフォードの自分を変える教室』の序章で、著者は、こう自己紹介しています。

 私はスタンフォード大学の医学部健康増進プログラム担当の健康心理学者および教育者として、みなさんがストレスと上手に付き合い、健康的な選択をするためのお手伝いをしています。長年にわたって、多くの人が自分の考えや感情、体や習慣を変えようとして苦労している姿を見てきましたが、そのうちあることに気がつきました。意志力に関する思い込みの多くが、成功を妨げ、不要なストレスを生んでいるのです。
 そうしたことをきっかけに、私は「意志力の科学」という講座を立ち上げました。スタンフォード大学生涯教育プログラムの公開講座です。
 この講座では、心理学、経済学、神経科学、医学の各分野から、自己コントロールに関する最新の見解を取り上げ、「どうしたら悪い習慣を捨てて健康的な習慣を身につけられるか」「物事をぐずぐずと先延ばしにしないようになれるか」また、「集中すべき物事を決め、ストレスと上手に付き合うにはどうしたらよいか」を説明します。
 そして、「私たちはなぜ誘惑に負けてしまうのか」「どうしたら誘惑に打ち勝つ強さを身につけられるのか」を解き明かしていきます。
 また、自己コントロールの限界を理解することの重要性を説き、「意志力を鍛えるための最適な方法」を紹介します。


 実際に読んでみていただければ、この講座がどうしてそんなに人気になったのか、理解していただけると思います。
 この講座、論理的かつ身体性を重視したもので、「とにかく気持ちの問題」などという話は、全く出てこないのです。
 むしろ、「精神論で立ち向かおうとすると、かえって状況を悪化させる」ことを、さまざまなデータに基づいて教えてくれるのです。
 読んでいて、僕プロ野球チームのO方監督に、この本を進呈したくなりましたよ僕は。

 恐怖管理戦略によって、私たちは逃れられない死から目をそらすことはできるかもしれません。しかし、誘惑に負けて快楽を味わっていたら、かえって死に急ぐことになりかねません。2009年のある実験によれば、死亡の危険性をうたうタバコの警告表示は、喫煙者にストレスや恐怖を与えることがわかりました。公衆衛生当局の狙い通りです。
 けれども残念なことに、不安に駆られた喫煙者たちが頼ったのはお決まりのストレス解消法、すなわち喫煙でした。なんということでしょうか。おかしな話ですが、ストレスが脳にどんな影響を及ぼすかを考えれば納得できます。ストレスのよって欲求が生まれ、タバコをひとめ見るだけでドーパミン神経細胞が異常に刺激されてしまうのです。
 もちろん、喫煙者はタバコの箱をにらむようにして警告メッセージを読みますが、そんなものは役に立ちません。喫煙者の脳が「<警告>タバコはガンの原因になります」というメッセージを認識し、自分の死に向き合ったとしても、脳のどこかから叫び声が聞こえてきます。「心配ご無用、タバコを吸えば気分がよくなるよ!」

 意志力を強化するには自分にもっと厳しくするしかないと思っているかもしれませんが、そう考えるのはあなただけではありません。しかし、それはまちがいです.数々の研究でも明らかになっているとおり、自己批判はつねにモチベーションの低下や自己コントロールの低下を招きます。また、自己批判うつ病の最大の予兆であり、うつ状態では「やる力」や「望む力」が失われてしまいます。これに対し、自分への思いやり――自分を励まし、自分にやさしくすること――は、やる気の向上や自制心の強化につながります。
 例として、カナダのオタワにあるカールトン大学で行われた実験を紹介しましょう。この実験では、学生たちが勉強を先延ばしにする様子を学期の最初から終わりまで記録しました。最初の試験では、多くの学生がぎりぎりまで試験勉強を始めませんでした。しかし、すべての学生にそんな習慣がついてしまったわけではありません。
 最初の試験で直前まで勉強しなかったことで自分を責めた学生たちは、自分を許した学生たちに比べて、その後の試験でもやはり勉強を先延ばしにする傾向が見られました。最初の試験の準備に失敗したことで自分を責めた学生ほど、次の試験ではさらにのんびりしてしまったのです! 自分を責めるより許した学生のほうが、次回は着々と準備をする気になりました。


 なぜそうなるのか? 興味がある方は、ぜひこの本を手にとっていただきたいと思いますが、簡単に言うと「自分を強く責めると、そのことに触れたくないあまりに、かえって現実から逃避してしまうのに比べて、自分の弱さを受け入れて許すと、事実をありのままに見つめたり、他者のアドバイスに耳を傾けたりすることができるようになる、ということなのです。
 講義のなかでは、「受け入れるためには、具体的にどういう行動をとればいいのか」ということも説明されています。
 過剰に反省しているように見える人が、なぜか同じ失敗を繰り返す。
 それは、反省していないから、ではなくて、「反省しすぎて、現実を見なくなってしまうから」なんですね。
 もちろん、「反省しているフリだけの人」もいるのでしょうけど。


 あと、身体的な条件というのも、非常に大切であることが説明されています。

 睡眠時間が6時間未満の人は、もしかしたら意志力がみなぎっている感覚を思い出せないかもしれません。睡眠不足が慢性化すると、ストレスや欲求や誘惑に負けやすくなります。
 また、感情をコントロールしたり、意識を集中させたり、「やる力」のチャレンジに取り組むのも難しくなります(授業でそう言うと、はっとする受講生が必ずいます。新生児の親御さんたちです)。
 あなたも慢性的な睡眠不足なら、一日の終わりにはがっくりと肩を落とし、なぜ誘惑に負けてしまったんだろう、どうしてやるべきことをちゃんとやれなかったのだろう、と後悔しているかもしれません。そんな状態が続くと、屈辱や罪悪感に苛まれるようになります。そんなとき、たいていの人は「もっとしっかりしなくちゃ」と思うばかりで、「もっと眠らなきゃ」と思う人はほとんどいません。


 こういうのって、本当にそうだよなあ、と。
 新生児がいると、睡眠時間が削られるのはやむをえないのですが、それでも、理由が「睡眠不足」であることを認識しているかどうかで、少しは対処法が違ってくるはずです。
 まずは、少しずつでも睡眠時間の確保を。

 大半のストレス解消法は役に立たないとしても、なかにはほんとうに効果があるものもあります。米国心理学会は最も効果的なストレス解消法として、「エクササイズやスポーツをする」「礼拝に出席する」「読書や音楽を楽しむ」「家族や友だちとすごす」「マッサージを受ける」「外へ出て散歩する」「瞑想やヨガを行なう」「クリエイティブな趣味の時間をすごす」などの例をあげています(最も効果が低い方法は、ギャンブル、タバコ、お酒、やけ食い、テレビゲーム、インターネット、テレビや映画を2時間以上観る、などです)。
 効果のある方法とない方法では、おもにどこがちがうのでしょうか?
 ほんとうに効果のあるストレス解消法は、ドーパミンを放出して報酬を期待させるのではなく、セロトニンやγアミノ酪酸などの気分を高揚させる脳内化学物質や、オキシトシンなどの気分をよくするホルモンを活性化させます。また、脳のストレス反応をシャットダウンし、体内のストレスホルモンを減らして治療反応や弛緩(リラクゼーション)反応を起こします。
 そのようなストレス解消法を試した場合は、ドーパミンが放出されたときのように興奮したりはしないため、どんなに気分がよくなったか、はっきりとは気づかない事が多いのです。したがって、私たちがそのような効果的なストレス解消法を忘れがちなのは、効果がないからではありません。ストレスを感じているときの脳は、どうすれば気が晴れるかについて正しい判断ができないからです。そのため、確実に気分転換できる方法を私たちは選ばないことが多いのです。こんどストレスを感じて息抜きをしようと思ったときは、「効果的な息抜き方法」を試してみましょう。


 ほんと、なんで僕はこんなに「最も効果が低い方法」が大好きなのだろうか……
 こういうことを、科学的な根拠とともに、ちゃんと教えてくれる本なんですよ、これ。
 自己啓発本なんて信じない!という信仰を持っていた僕も、自分でイライラしていると感じたときに、この本で紹介されている呼吸法をごく短時間ですがやっています。
 思い込みなのかもしれないけれど、それなりの効果はあるのではなかろうか。


 とりあえず読んでみるだけでも、「ストレスに対する先入観」が、かなり変わるはず。
 それこそ、騙されたと思って、読んでみてください。
 インターネットやテレビゲーム、飲酒より、「効果的なストレス解消法」になりますよ、きっと。

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