- 作者: 高橋秀実
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/09/17
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (2件) を見る
Kindle版もあります。
- 作者: 高橋秀実
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/09/25
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
内容紹介
「損したくないニッポン人」はなぜこんなに多いのか。妻から「あなたは貧乏じゃなくて、貧乏くさいのよ!」と罵倒されても、ついつい「損したくない」行動に走って、損ばかりしている高橋秀実さん。まじめに「損得」について取材と考察を重ねた結果行き着いた「ニッポン人の新・行動経済学」とは? (講談社現代新書)
読み終えてから気づいた(というか、巻末のプロフィールに書いてあった)のですが、この本の著者の高橋秀実さんって、『「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー』を書いた方だったんですね。
Wikipediaで調べてみると、村上春樹さんが地下鉄サリン事件の被害者の方々にインタビューした『アンダーグラウンド』のリサーチャーもつとめておられたとか。
この本、その高橋さんが、日常生活のなかで、「損得」について考えたことが書かれています。
僕もよく「貧乏くさい!」と言われるので、「そうなんだよねえ……」と頷くところ多数でした。
いまの世の中は、ネットなどで、「お得な情報」を容易に入手できるようになりました。
でも、実感として、「得するようになった」ような感じは、あまりしないのです。
むしろ、「なんか損をしているのではないか」という不安のほうが強い。
高橋さんは、「いちばん安くて、お得なスパゲッティ」を買おうと、近所のスーパーを回ってみるのです。
どこかにもっと安いモノがあれば損することになるので、私は覚悟を決め、メモを片手に全部回ってみることにした。そして3軒目あたりで気がついた。最終的に最安値を判断できるのは最後の1軒を確認した時で、実際買うにはそこから最安値のスーパーまで戻らなければいけない。
閉店していたらどうするのか。値段はあくまで今日の値段であって明日はどうなるかわからない。となると明日はまた早朝から巡らなければいけないのか。
ネットや電話で事前に値段を確認する、という手も考えられるが、もし一番遠いスーパーが最安値だと判断した場合、行く手間と労力を換算するとやはり損しかねない。結局近場の安値で買うことになるのだろうが、いったんどこかに最安値が存在するということを知ってしまうと、それより高い値段で買ったという損した気分は拭えなくなる。「知らないと損する」とはお買い得情報の決まり文句だが、実際は「知ると損した気分になる」のである。情報は損しないために集めるものだが、実際に集めると損をする。知れば知るほど驚きもなくなり喜びもなくなって損するわけで、情報は損の素ではなかろうか。
そうなんですよね。こんなに情報が簡単に得られる前の時代は、「とりあえず近所のスーパーで買う」とか、「近場を何軒かまわってみる」くらいのもので、「満足」できていたのです。
ところが、こうして「最安値を知る」ことができるようになると、「なんか損したような気分」を拭えなくなる。
ただ、ある商品が安くても、他の商品でバランスがとられているようなこともあるし、だからといって、買うものひとつひとつを最安値の場所で買うのは手間がかかります。
そもそも、何軒も店をまわるという時間的なコストもあるし、車で移動するのなら、ガソリン代もかかる。
そういえば、学生時代、「一番安いガソリンスタンドで給油する」ために、1時間かけて、車でそのスタンドまで行っていた同級生がいたなあ。僕は内心「それって、総合的に考えれば、近所で入れたほうが得なんじゃない?」と思っていたんですよね。
まあ、そういうのは本人もイベントをして楽しんでいる面もあるのだろうけど。
「損したくない」とこだわりすぎると、かえって、「損した気分」になることが多くなるのかもしれません。
レストランやコンビニのレジでは、なぜか「Tポイントカード(Tカード)はお持ちですか?」と訊かれる。レンタルビデオ屋のカードは関係ないだろうと訝った私は、当初「いいです」と拒絶していた。ポイントを貯めれば現金として支払いに使えるそうなのだが、カードを使うことで知らず知らずのうちに私の個人情報をただで売ることになるので、損としか思えないのだ。するとそのうち店のほうが「Tポイントカードはお持ちですか?」と訊かなくなった。なぜ訊かないのか、知らせずに俺に損させるつもりかと不審に思い、結局自分から「Tポイントカード持ってます」と申告するようになってしまった。使っても損だし、使わなくても損。損の度合いを比較するのは難しく、それを考えること自体も損なので、使って損するほうを選んでしまったのである。
家電量販店の来店ポイントもそうである。何も買わずともポイントが貯まるので「得」のようにも思えたが、店に行くのも大変である。本当に貯まっていくので私もうれしくなって毎日通ったものだが、いかんせん歩いて20分ほどかかる。途中、のどが渇いたりして近くのコンビニで缶コーヒーや新聞や雑誌、おやつを買ったりする。毎回ポイントの20倍ほどの金額を使ってしまい、やっぱり損しているような気がするのであった。
「ポイントとか特典につられて、つい余計なものを買ってしまう」とか、寄り道して無駄遣いするなんてことは、僕もよくあります。
ポイントカードに関しては、あれを毎回「持ってますか?」と訊かれるのは、ものすごくめんどくさいですよね。
訊く側の店員さんも、毎回確認するのは大変なんだろうけど。
欲しかったら、自分から言うし、持ってたら自分から出すから!
……でも、訊かれなかったら、それはそれで「損している」ような気分になるというのも、なんとなくわかります。
人生における「損得」、長生きの「得」について、こんな話が出てきます。
――どうすれば得を実感できるのでしょうか?
私がたずねると彼は即答した。
「大事なのは交友関係でしょうな。第一の人生で蓄積されたものが第二の人生で開花するといいましょうか。ゴルフとかマージャンはダメですよ。あれは4人一組ですから世界が狭くなるし、会社の延長ですからね。もっと広くお付き合いをしないといけません。そう考えると、男は長生きが下手ですな。なにしろこれが取れないから」
彼はそう言って、右手で肩をさっと払った。肩書が取れないということである。つい先日も78歳の男性が「誰かに老後の面倒をみてもらいたいが、誰もみてくれない」という相談をもちかけてきたという。佐田さんが「ご家族、ご親戚の方とは……」と言いかけると「付き合いたくない」と言う。「じゃあ、ご近所の方とお付き合いしなくちゃ」とアドバイスするとをそれも「付き合いたくない」。「それじゃ、民生委員の方によく話をして」と行政の窓口を紹介しようとすると、「民生委員とは付き合いたくない」と一蹴した。誰かに面倒をみてもらいたいが誰とも付き合いたくないのである。
「ボランティアに来ても、『おじさん、ちょっとそのハシゴ取って」と言われたぐらいで、すぐカチンときたりする。銀行の元支店長とかね。組織にいた時の感覚が抜けないんでしょうな。すぐに『効率』『営業』『経営』『戦略』なんていう職場用語を使ったりしちゃう。地域用語を使えない。地域は競争社会じゃないのに……」
こういう「誰かに面倒をみてもらいたいけれど、誰とも付き合いたくない」みたいなのって、僕も近い将来そうなりそうで、あまり笑い話にはできないんですよね。
今のうちから、いろいろと慣れておいたほうが、良いのだろうなあ。
「損して得取れ」という言葉がありますが、人間社会って、自分が得することばかり考えていると、かえってうまくいかなくなり、大損害をくらってしまうことが多いような気がします。
情報を得るのが容易になって、「損した気分になりやすい」世の中だからこそ、かえって、あまり目先の損得にとらわれすぎないほうが、生きやすいのかもしれませんね。
「弱くても勝てます」: 開成高校野球部のセオリー (新潮文庫)
- 作者: 高橋秀実
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/02/28
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (14件) を見る
- 作者: 高橋秀実
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/03/29
- メディア: Kindle版
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (5件) を見る