琥珀色の戯言

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【映画感想】君の名は。 ☆☆☆☆☆

トピック「君の名は。」について
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あらすじ
1,000年に1度のすい星来訪が、1か月後に迫る日本。山々に囲まれた田舎町に住む女子高生の三葉は、町長である父の選挙運動や、家系の神社の風習などに鬱屈(うっくつ)していた。それゆえに都会への憧れを強く持っていたが、ある日彼女は自分が都会に暮らしている少年になった夢を見る。夢では東京での生活を楽しみながらも、その不思議な感覚に困惑する三葉。一方、東京在住の男子高校生・瀧も自分が田舎町に生活する少女になった夢を見る。やがて、その奇妙な夢を通じて彼らは引き合うようになっていくが……。


www.kiminona.com


 2016年14作目の映画館での観賞。
 平日の16時からの回にもかかわらず、100人くらい観客がいて、人気のほどを思い知らされました。
 毎月1日の「ファーストデイ」で、1100円だった影響も大きいのかもしれませんが。


 物語の序盤、三葉と瀧(ちなみに僕は「瀧」というのは「名字」だと思い込んでいて「なぜ、この人は『立花』というネームプレートをつけているんだろう?」と、ずっと考えていました)の身体が入れ替わって、三葉(の身体に入り込んでいる状態の瀧)が「あれ?」と自分の胸を揉む、というシーンをみて、「あっ、これは大林宣彦監督の『転校生』だ!」と思ったんですよね。
『転校生』は1982年の映画なのですが、「男女が入れ替わる若者向け青春映画」っぽいふれこみだったのに、冒頭で身体が入れ替わったことに困惑した男子の側が「あれ?あれ?」と自分の胸を揉むシーンが、当時小学生だった僕にはかなり衝撃的でした。文部省推薦的な青春映画だと思ったら、いきなり生乳ですよ、「ほえっ?」とまさに目が点になったものです。いや、それ以外にはとくに、そういうシーンは無いんですけど、なんかその場面と階段から落ちるところだけよく覚えています。
 この『君の名を。』の冒頭のシーン、『転校生』へのオマージュだと思うんだけどなあ。「ほえっ?」はありませんが。


 この『君の名は。』ありがちな「男女入れ替わり」+「歴史改変もの」なのですが、僕はなんだかすごく惹き付けられてしまいました。
 新海誠監督というのは、ドラマの「背景」とか「風景」の部分をものすごく丁寧に描いていて、普通のアニメーション作品では「つなぎ」の場面に、ものすごく注力していることが伝わってきます。
 組紐のシーンのために、この映画をつくったんじゃないかと思えてくるくらいです。
 東京で、駅から街に出たとき、誰かが大声をあげているわけでもないのに、大勢の人の会話が入り混じって、突然「ざわっ」となる感じ、僕も田舎者なので、あの空気はよくわかります。

 
 そして、残酷なものを、ものすごく美しく描いているんですよね、新海誠監督は。
 そういうものに対する、第三者の容赦なさ、みたいなものを、さりげなく、かつ執拗に描いているのです。


 うーん、いろいろ書こうと思ったのですが、ネタバレ無しでは難しそうなので、以下ネタバレ感想にします。
 未見の方は、ぜひ映画館でご覧になってください。


 本当に、ネタバレですよ。


 さて、ここからはネタバレに気をつけずに書きますね。

 この『君の名は。」を観終えて、僕は、「これは、『秒速5センチメートル』で、結局、再び出会うことができなかった二人への『やり直し』ではないかと思ったのです。
 宮崎駿監督が『人魚姫』から、『ポニョ』をつくったように(これも僕の勝手な想像ですが)。
 

 ストーリーとしては、かなりご都合主義というか、二人の身体が交替するルールもよくわからないし、しばらく入れ替わって過ごしていた町の名前くらい覚えておけよ、とか、なんでいちいち過去の記録まで消えていくんだよ、とか、ついツッコミを入れたくなってしまいます。
 歴史を変える方法も強引だし、あの酒を飲んだらタイムスリップする、というのはありえないような気がする。
 ああいうオカルト趣味的なところは、新海誠監督の『星を追う子ども』で僕には受け容れがたかったのだけれど、今回は「まあ、それもありかな」と思ったんだよなあ。なぜかはよくわからないけれど。
 もっとも、「男女の身体の入れ替わり」+「3年の時間差」なんてこと自体が、そもそもありえないわけで。


 僕はこの映画、すごく好きです。
 こんなことはありえない、そう、絶対にありえない。
 もしこんなことができたら、自分の大事な人を救えるのに、という人もたくさんいるはず。
 ただ、東日本大震災や熊本の震災を(あくまでも「外部から」だけれど)経験してきた人間のひとりとしては、この物語がハッピーエンドで良かったなあ、と思わずにはいられないのです。
 そして、こんなに直接的ではなくても、あの震災で亡くなった人たちも、いろんな形で、僕たちと「つながっている」のだと思うのです。やり直すことはできなくても、彼らの存在に思いを馳せることはできる。
 彼らの営みを少しでも受け継ぐことはできる。
 なんというか、「せめて、フィクションの中でだけでも、ハッピーエンドを迎える」ことによって、生き残った人間たちも、多少は「救われる」のかもしれません。


 ラストで、瀧と三葉がお互いを見つけながらすれ違いを続けたあげく、最後にようやく「出会う」場面、僕は心のなかで「よかったねえ」とつぶやきました。
 ちょっといま恋愛映画はキツいなあ、という心境だったのですが、たとえそれが永続するものではないとわかっていても、いや、だからこそ、こうして「出会うべき人と出会える」というのは、ものすごく素晴らしいことなのだろうし、そういう良い時間・瞬間を人は素直に喜ぶべきなのでしょう。


「幸せになりなさい」
 それは「どこかにある幸せを見つけろ」ということではなくて、「いま、ここに存在して、日常を過ごしていること」そのものが「幸せ」であること受け入れてもいいんだよ、という意味なのではなかろうか。
 そして、「忘れていく」のは、僕やあなただけではない、人間とはそういうものなのだ。


ああ、僕も年を取ったな。
ちょっと前までは、こういう作品に対して、「ただしイケメンに限る」映画だろ、って毒づいていた気がする。
 

この映画の感想、僕にはうまく書けない。
上映が終わったあと、前の席に座っていた女性が振り返った。彼女の目は潤んでいた。
ああ、この映画はきっと、「瀧くんと三葉ちゃんが出会えて、多くの人の命が救われてよかったね!」で、良いんだよね。
まあでも、てっしー、ちょっとかわいそうだったな、三葉に憧れていたから、あそこまでつきあったのだろうし、たぶん、三葉もてっしーの気持ちを知っていた。
最終的には、あれで幸せそうではあったけれども。


ふたりの再会(いちおう)のシーンで電車が出てくるのは、あの古典映画『君の名は』のオマージュだと思っていたのですが、最後の階段は、やっぱり『転校生』なんじゃないかな。


ところで、この映画の中で流れている曲、僕はずっとBUMP OF CHICKENだと思い込んでいたんですが、RADWIMPSっていうバンドだったんですね。改名しただけかと思って検索してしまったよ。


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