- 作者: 壇蜜
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2016/02/18
- メディア: Kindle版
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Kindle版もあります。
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内容紹介
誰もが出あうであろう戸惑いの一瞬を切り取り、壇蜜流の解釈でそのやり過ごし方(処世術?)を綴る書き下ろしエッセイ集。
人生は“どうしよう”の連続。いろいろあるけれど、私はこうして生きています――劣等感も弱みもちょっとした色恋沙汰も、世間が想像する”壇蜜”をしっかり務めるその裏側、ひとりの30代女性としての素顔が詰まった1冊です。
壇蜜さんのエッセイ集。
壇蜜さんの書く文章、僕は好きです。
『壇密日記』もすごく面白い。
この『どうしよう』は、壇蜜さんの日記が「日常の細々とした気づき」を淡々と書いているのと比較すると、エッセイらしい起承転結、みたいなものが意識されているように感じました。
僕としては、『壇密日記』のつかみどころがない感じのほうが、少しだけ好みではあるのですが、この『どうしよう』もなかなか興味深いエッセイ集です。
「不器用でめんどくさい人間が、この世の中をどうやって渡っていくか」についての知見が、けっこう散りばめられていますし。
いきなり「たぶん知っている人」に声をかけられたのだけれど、相手の名前が思い浮かばないときの対処法。
大抵向こうから声をかけられる(向こうは知っているから声をかけるのだが)。顔は知っている……だが名前が出てこない。挨拶をしても近況を聞いても思い出せない。どんどん進む会話に、相づちも慎重になる。この辺りまで来ると、願うことはただ一つ、「どうかこの人が『私のこと覚えてます?』なんて、間違っても言ってきませんように!」である。この台詞を言われたら、もうなす術がない。「覚えてる」と言えば嘘になるし、「覚えていない」と言えば失礼……。こんなどっちも血を見るような恐ろしい二択問題は絶対に避けたい。何とかして記憶や会話から名前を探ろうとしなくてはいけない。社員証や名札をつけている人の場合なら、「いっつもコレ(社員証)見えるところにつけてなきゃダメなんですか」や「あ、名札の写真なんか違う」なんて言いつつ、さりげなく名前を確認するポジションまで体を持っていくことが可能なので挑戦している。
上級編も記述しておこう。これは出身校の教頭先生のアイデア。「君、名前は?」と堂々と聞く。「忘れちゃったんですか? やだなあ」といわれても聞く。「○○です」と答えたら一言、「違うよ、下の名前。名字は知ってる」とさらりとかわすという手法……さすが先生。
まあ、後者は学校の先生でもないと、使えない方法ではないか、とは思うのですけど。
世の中には「人の顔や名前を覚えるのが得意」な人っていますよね。
「自分のことは、相手もきっと覚えているはずだ」という確信をなぜか抱いている人も。
僕などは、そういう記憶力も努力も枯渇しているにもかかわらず、人に会うことが多い仕事なので、この「誰だか覚えていないけれど、相手はこちらを認識している人」に声をかけられることがときどきあるのです。
いやほんと、気まずいですよねこういうシチュエーションって。
別にたいした話題があるわけでもないのに……とか、つい考えてしまいます。
芸能人として、壇蜜さんがこんな話をしても良いのだろうか、とも思いつつも共感せずにはいられませんでした。
「ここの学部を選んだ理由は?」
「どうしてこのアルバイトをしようと思ったの?」
「わが社を志望する動機は?」
「この世界(芸能界)に入ったのは何で?」
……過去に聞かれてもすぐには答えられなかった質問を、一気にあげてみた。これらの質問事項を並べてみて思うことは、世の中がいかに「理由」を大事にしているかということだった。確かに人と人とが交流し、社会を作っていく上で、「自分と一緒にいる者が何を考えているか」というのは大変気になることだ。
(中略)
残念なことに、私には「〜だから〜したい」と答える「理由説明」の内容があまりにも残念な内容で、しかもそのまま伝えてしまうため、理由を知りたい方を落胆されるようなことばかり起こる。学部を選んだ理由は、「その昔、英語の成績が悪かった母が、私にはせめて大学で英語を勉強してほしい……と願っていたから」が真実である。母も喜ぶし、まあいいか、という気持ちが第一だった。アルバイトも「制服が可愛く、働くことが嫌いでも緩和剤になるかなと思ったから」。会社の志望動機に至っては、「大学出て就職してないなんて、誰から何を言われるか分かったもんじゃないから。私が入れる会社なら、どこでもいいです」「駆け込み営業してこいとか言われなくて17時に帰れるなら、なおさらいい」だ。さすがに言えなかったが。しかし、言わなくてもそんな雰囲気は伝わるのか、結局、採用してくれる企業などなかった。「結局、いい大学と美人至上主義かよ。何やったって不採用でしょ〜? 口が上手い、イイ人間しか雇わないんでしょ〜?」と部屋で悪態をついてふて寝していたのが、つい12年ほど前の話だ。今以上に腐りきっていた。
でも、内心は大概こんなものだよね。
逆に、みんな脚色していることがわかりきっているはずなのに、なんで面接で「志望理由」というのを聞くのだろう、と疑問になってきます。
答えの内容ではなくて、答えているときの態度とか話し方とかを見ている、ということなのだろうか。
僕はこれまで面接する側になったことはないので、よくわからないのですが。
ところで、このエッセイ集の「働きたがりの反動」という回に、ものすごく気になるところがあったんですよね。
小学校を「お受験」したという壇蜜さんの体験談。
そんなうっすらとした「お受験準備中」、母が学習ドリルらしくものを開き、私に問題を出した時があった。「しーちゃん(私、シズカなので)、この中からしーちゃんが小学生になったら出来るようになることは、何かな?」と言う母。開かれたドリルには4つのイラストが書いてあった。「台所でコンロを使い、目玉焼きを作る女の子」「図鑑や本を部屋でたくさん読む女の子」「朝起きてパジャマをたたみ、一人で着替えをする女の子」「ハンカチにアイロンをかけている女の子」だったと記憶している。私はイラストを見た瞬間に「目玉焼きとアイロン!」と答えた。私にとってその2つのイラストは「働いている」ように見えたからだった。当時は家事でも買い物でも、大人がやっていることは「仕事」に見え、羨ましくて仕方なかった。「目玉焼き作りたい」とせがむ娘に、母は落胆を隠せなかったそうだ。
ちなみに、この問題の正解は現在もわからない。出題者に聞いてみたいものだ。
この問題の「正解」って、どれだったのだろう?
もしかして、全部正解? それとも「図鑑や本」のような「勉強系」が正解? 火やアイロンは危ないからダメ、とかなのかな……
僕もわからないのですが、小学校の入試問題って、こういうのが本当にあるんですよね。
結局、壇蜜さんは受験した小学校に合格されたそうなのですが、こういう子ども時代の疑問って、けっこう忘れないものだよなあ、って。