琥珀色の戯言

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【読書感想】大ヒット連発のバンダイナムコが大切にしているたった1つの考え方 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
ガンダムワニワニパニック太鼓の達人アイドルマスター―業績絶好調のバンダイナムコ会長が、楽しく仕事をしながら結果を出すコツを初公開!


 バンダイナムコの石川会長、以前、『ゲームセンターCX』に出演されているのを観たことがあります。
 やり手のビジネスマン、というよりは、なんか「いいひと」っぽいなあ、というのが僕の印象でした。
 この本は、その石川会長が、「バンダイナムコ」という会社でやってきたこと、そして、どういうふうな方針で、これからやっていこうと考えているかを述べているものです。
 石川会長は、もともと高校の英語の先生になりたかったそうなのですが、それが叶わず、どうしようかと悩んでいたときに、まだあまり知られていなかった「ナムコ」の募集をみて応募したそうです。
 当時のナムコは社長も技術畑の人で、アミューズメント産業も、「技術的にどんなハードをつくることができるか」という黎明期だったので、理系の技術者が優遇される社風があったそうです。
 同期入社44人のうち、文系学部の出身者は、石川さんとあと1人の合計2人のみ。
 「技術的なことがわからない」ことで、石川さんはかなり肩身が狭い思いをしていたのですが、付け焼き刃で勉強しても、そう簡単に技術のことはわからない。

 私は越えられない大きな壁のようなものを感じました。しかし、うなだれてばかりもいられません。どうしたら、この逆境を克服できるだろうと考えて、とった方法が優秀な技術員の力を借りることでした。
 プログラムを書くならあいつ、音響の技術あらこいつといったように、自分にはない知識や技能をもった人間を自分の周囲に集めてチームをつくり、彼らの協力を得ながら集団体制で仕事を進める。そういう方法を摸索したのです。
 

 このことは、私のなかにマネジメント能力やプロデュース能力をつちかう始点ともなった出来事だったような気がします。そうであるなら、文系出身という当初のハンデは、長い目で見ればプラス方向に作用したといえるでしょう。

 
 自分で「できるかぎりのこと」をやってみようとしたのだけれど、やはり「専門家」の領域には届かなかった。
 でも、そうやって「外側」から見ることができる立場だったからこそ、こうして「できる人に協力してもらう」という境地に至ることができたのです。
 自分自身が技術者だったら、全体を見渡すことは難しくなりがちだし、プライドが邪魔をして、同じ仕事をしている人に「頼む」のはハードルが高くなるかもしれません。
 ここで「助けを借りる」というのも、誰にでもできることではないんですよね。
 

 具体的なエピソードというよりは、「理念」みたいなものが語られているところが多くて、ゲーマーとしては若干物足りない感じもするのですが、だからこそ、多くの「まとめる立場」にある人には、ヒントになりそうです。
 「バンダイナムコ」って、最近はあまり目立ってないなあ、というのが僕のイメージなのですが、ナムコバンダイが「合併」したときには、お互いの企業文化の違いや遠慮もあって、なかなか統合がうまくいかず、一時は赤字もかさんで大変なことになっていたそうです。
 石川さんはその時期の反省も率直に書いておられます。
 では、そこから「バンダイナムコ」は、どうやって立ち直っていったのか?

 現在、バンダイナムコの組織には、「チーフ・ガンダム・オフィサー」とか「チーフ・たまごっち・オフィサー」「チーム・パックマン・オフィサー」など、他社では聞きなれない役職が存在しています。
 各キャラクターの事業展開における責任者です。
 このキャラクターを中核とする事業展開は現在のバンダイナムコのもっとも重要な基本戦略であり、それをわれわれは「IP軸戦略」と名づけています。IPとは「インテレクチュアル・プロパティ(知的財産)」の意味です。


(中略)


 バンダイナムコが統合した当初、国土は大きくなったものの国境は以前のままで、互いの領域は侵犯しないという遠慮があり、それが事業ごとの壁をつくって、業績低迷を招く要因になったことは前に述べました。
 当時ゲーム事業を行なう組織では家庭用ゲーム、業務用ゲームなどの事業領域ごとに組織が分かれており、それぞれがばらばらに商品開発をしていました。人気ゲームのブランドがあっても、会社全体に共通なはずのその知的財産を横断的に共有、活用するノウハウにとぼしく、各事業部がそれぞれ独自に「非連動的な活動」をしていたのです。
 そのため、ある商品がヒットしても、そのノウハウや成果は当該の部門だけにとどまって、他の事業領域まで波及していかない。あるキャラクタ—が業務用ゲーム機でヒットを飛ばしても、その成果を家庭用ゲーム機にも生かすことが十分にできなかったのです。
 そんな、たて割り組織による弊害は小さくありませんでした。そこで事業領域ごとの壁や遠慮を取り払うべく、キャラクター(ブランド)を軸にしたIP経営へと大きく舵を切ったのです。
 つまり、それまで事業部ごとにくくっていた組織構成をIPごとのチームにくくり直し、チームごとにプロジェクトマネージャーを一人置いて、その人に向こう三年間の売り上げ、販売、マーケティングなどのプランづくりを一任するなど多くの権限を与えました。


 このほうが「やりやすい」のは自明の理なのに、大きな企業になると、その「たて割りの壁」を壊すのが難しかったのです。
 この本のなかでは内部の軋轢についてはあまり詳細に触れてはおられませんが、実際はこういう横断的な組織づくりには抵抗もあったはずで、理念だけではなくて、実際にそれを成し遂げたのが凄いことなんですよね。


 石川さんは、この本の冒頭で、「ヒットは多数派から生まれ、大ヒットは少数派から生まれる」という原則を紹介しています。
 そして、自ら「後悔していること」として、こんな事例を挙げておられるのです。

 音楽ゲームのブームをつくり出したダンスゲームなども、それまでになかった新しいジャンルをゲームの世界に確立した画期的な商品であるといえます。悔しいことに他社さんの音楽ゲーム機などが、ダンスゲームの先鞭をつけたといえるでしょう。
 このダンスゲーム、じつは当時、同様のアイデアがわが社にもあったのです。しかし企画の段階で却下されている。その最大の理由が、「人前で踊るなんて、恥ずかしがって誰もやらないだろう」というものでした。
 お客様は恥ずかしがってやらない。あるいは、筐体が大きくて場所をとる。だから、流行らない——こういう考えこそ悪しき先入観というものなのですが、十人中七、八人の多数派はその固定観念にとらわれて、新しい可能性を排除してしまうことが多いのです。
 やがてバンダイナムコでも、音楽リズムゲーム分野において「太鼓の達人」というヒット作を出すことになりますが、これも当時はあやうくボツになりかけていた企画でした。
 当該の担当者は(入社してまだ数年の若手社員でした)、「これまでの音ゲーとはちがう」という確信と熱意をもって、コツコツと開発を進めていたのですが、音ゲーブームがすでに峠を越えていた時期のことでもあり、「今さら音ゲーでもなかろう、もう古いよ」という理由から、部内の会議でも評価が低く、企画としてはほとんどお蔵入りしていたのです。
 しかし、当時の習慣で、私が社内をぶらぶら歩きまわってはあちこちの社員と雑談まじりの話を交わしていたとき、その若い担当者から直接アイデアを直訴されたのです。私は直感的に「面白い!」と思い、その場ですぐに指示を出して、試作品を作らせることにしました。
 そのことが「太鼓の達人」が世に出るきっかけとなったのです。
 こうした例は、既成概念の延長線上には時代をつくる劇的な商品、エポックメイクな製品は生まれてこない——すなわち、多数派から大ヒットは生まれにくいことのひとつの証左となっています。
 そう考えると大ヒットを生み出すような少数派の人材が、とくにここ数年において、いかに重要かがわかります。


 僕も「人前で踊るなんて恥ずかしくて誰もやらないだろう」と思ってしまう側の人間なので、この話には考えさせられました。
 たぶん、ほとんどの人も、同じように考えたはずです。
 リスクが低い挑戦であれば、とりあえずやってみれば、と言えるかもしれないけれど、ゲームの開発となれば、しかも、大型筐体となれば、うまくいかなかければ大損害ですし。
 ところが、蓋を開けてみれば、『ダンスダンスレボリューション』も『太鼓の達人』も大ヒットとなり、逆に「みんなが見ている前でパフォーマンスをしたい、という人」が少なからずいることが、発見されたのです。
 おそらく、これらのアイデアは、とにかくたくさんアイデアを出せ、と言われれば、多くの人が、そのなかの一例として思い浮かべることができるものだと思うんですよ。
 でも、それを「みんな踊らないだろう」という先入観にとらわれなかった企画者と、それを受け容れる経営陣がなければ、「製品」にはならないのです。


 もう少し具体的なバンダイナムコの製品の開発エピソードを読みたかったな、と、やや食い足りないところはありますが、組織のなかで仕事をするときに大事なことが書かれている本だと思います。

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