琥珀色の戯言

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【読書感想】「試し書き」から見えた世界 ☆☆☆


『試し書き」から見えた世界

『試し書き」から見えた世界

内容(「BOOK」データベースより)
世界106カ国、2万枚収集!試し書きをとおした世界の紀行文、はたまた文化人類学


 規模の大きな文具売り場に行くと、本当にさまざまな筆記用具があって、「試し書き」もできるようになっていますよね。
 僕も筆記用具はけっこう好きなので、ついつい、目についたペンの書き心地を確認してしまいます。


 この本は、そんな「試し書き」に魅せられ、ついには「試し書きコレクター」として世界中の「試し書き」を集めて、個展を開くまでに至ってしまった著者が、「試し書き」の世界を紹介したものです。

 いまから9年前、26歳のとき、会社員をやめ、自分探しの放浪の旅を始めてまもなくのことでした。
 約1年半をかけて、ヨーロッパ、アフリカ、北南米、アジアを巡ったその旅で、世界中の試し書きを集めました。その間、各地に友達ができ、試し書きを送ってくれるようになりました。帰国後、ラジオやテレビで試し書きのことを話すと、それを視聴して送ってくださる方も現れました。
 そんなこんなで、現在106カ国の試し書き、2万枚を所蔵しています。
 各地で試し書き博覧会を開催したり、月に1回、試し書き愛好家の人たちと文具店を回るツアーも行なっています。

 
 こういう話を聞くと、「ああ、試し書きのなかでも、綺麗な絵が描いてあったり、面白い文章が書かれているものを集めているのかな」と思いますよね。
 もちろん、たくさんの試し書きのなかには、そういう「特別な試し書き」もあるのですが、著者がこの本で紹介しているものの中には、僕が東急ハンズの文具コーナーで見かけるような、丸をぐるぐる描いたものとか、波線とかいう「いかにも試し書き」というものが多いのです。
 しかし、こうして世界中のものを並べてみると、そんな「試し書き」にも、お国柄みたいなものがあるんですね。
 そして、「試し書き」は、「国民性」だけではなくて、その国の経済力も反映しているのです。

「試し書き」の意味は、国によって違います。
 途上国では不良品のペンも多く、インクがちゃんと出るとは限りません。ですから、「インクが出るか」「書けるかどうか」を確かめるのが試し書きの意味になります。
 その分、試し書きの「本気度」が違います。途上国では筆圧の強い、本気度の高い試し書きが多いのです。書くのも、波線やグルグルとした線など、いかにもインクの出を確かめている感じの線になります。
 先進国では、ペンのインクが出るのは当たり前で、その書き味や色合いを知るのが試し書きの意味。ですから、試し書きにも余裕が感じられ、遊び心の感じられる絵や字も見られます。
 試し書きにちいて、印象深い国の例をあげると……


・エチオピア、ケニア=筆圧が高い。まさに本気度の高い試し書き。
・フランス、イタリア=おしゃれ。国に対するイメージそのもの。
・中国=「疲れた」「信じることができない」など後ろ向きな書き込みが多い。
・マレーシア=日本のアニメが人気。ドラえもんNARUTOなど。
・インド=計算式がたくさん出てくる。さすが「0」を発見した数字の国
・アルゼンチン=ラテン系の陽気な気質が現れている。カラフルで奔放。
・エジプト=アラビア書道の発達した国。試し書きにも筆(日本の毛筆とは違い、竹の先を加工して作る)を使ったアラビア文字が見られる。


 この本のなかでは、実際にその試し書きが写真で紹介されています。
 本当に中国人は後ろ向きなことばかり書き込んでいるのか?というか、いくつかの試し書きだけで、そんな傾向を語ってしまっても良いのだろうか?とか、つい考えてしまうのですが、まあ、それこそ「統計学」じゃないですからね。


 日本では、「試し書きしたペンをそのままレジに持っていく」という人は、少ないのではないかと思います。
 このペンは、こんな書き味なのか、と確認し、別の新しいペンを買う。
 ところが、「本当に書けるかどうか確認して、そのペンを買う」ための「試し書き」が必要な国もあるのです。
 僕自身は、「売られているペンは書けるのが当然」だと思いこんでいました。
 世界には、そうじゃない国も、少なからずあるのです。


 ちなみに、日本の試し書きには、こんな話があるそうです。

 日本では、年末年始に限らず、試し書きが漢字で書かれることも多いのですが、その中で圧倒的多数を占めるのが「永」の字。永には「永字八法」といって、漢字を書くときの八つの技法がすべて使われています。「点、横線、縦線、はね、斜め右上への線、左はらい、短いはらい、右はらい」の八つです。
 そのことが知られているので、試し書きには、「永」の字が打ってつけだといわれています。


 そうか、だから「永」なのか……
 著者が紹介している試し書きには「永」の傍に「六輔」と誰かが書き足しているものがあって、「たしかに、その気持ちわかる!」と言いたくなってしまいました。
 リレー試し書き、みたいなのもありますよね。


 知っていたら何かの役に立つというわけではないけれど、文房具好きにとっては、ちょっとした楽しみが増える「試し書き」の世界。
 それにしても、本当にいろんなものに興味を持つ人がいるものだなあ、と感心してしまいます。
 
 

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