琥珀色の戯言

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【読書感想】まんしゅう家の憂鬱 ☆☆☆☆


まんしゅう家の憂鬱

まんしゅう家の憂鬱


Kindle版もあります。

まんしゅう家の憂鬱 (集英社文芸単行本)

まんしゅう家の憂鬱 (集英社文芸単行本)

内容紹介
Kindle版について)
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まんしゅう家で日々起こることとは――。漫画家のアシスタントを辞め、自暴自棄になっていたきつこ。新天地を求め、オムツプレイ専門店の面接を受けることに!? 小さな雑居ビルへ向かうとそこには――「オムツ倶楽部の面接」。ある日突然「姉ちゃん、オレが包茎手術した時の話を書いてくれ」と言い出した弟。戸惑いながらも、術前から術後の経過を描ききった姉のきつこ。あまりに痛々しく微笑ましいその結末とは――「包茎手術」。ブログ漫画に加え、「小説すばる」連載のエッセイを収録。身の回りのゲスな話をユーモラスに、時にシュールに描く、抱腹絶倒の全17編! 漫画家“まんしゅうきつこ”の原点がここにある!


 僕は基本的に、ひとりの人間の体験ってそんなに大きな違いはなくて(逆に、まったく同じ、ということもないのだけれど)、解釈のしかたというか、事実を見る、ひとりひとりのレンズの差のほうが大きいのではないか、と考えています。
 でも、この「まんしゅうきつこ」さんのエッセイ(+マンガ)を読むと、「うーん、やっぱり、ヘンな体験を引き寄せてしまう人って、いるのかもしれないな……」という気がしてくるんですよね。
 そして、こんなに「濃い」内容なのに、まんしゅうさんは、そんな自分を他人事のように観て、描いているのです。
 最初がいきなり「オムツ倶楽部の面接」だものなあ。
 そこに「ちょうど転職を考えていた」という理由で電話してしまう、まんしゅうさん。
 そして、経営者の男性が放った言葉。

 うちに来るお客さんは大概うんこするよ
 アンタ うんこのオムツ 替えられんの?

 そうか、赤ん坊のオムツならともかく、オッサンのうんこのオムツを替えるのは、けっこうキツいよね……
(というか、赤ん坊でも、自分の子どもじゃないと、けっこうキツいと思う)


 ほんと、こういうのが淡々と描かれているんですよ。
 私、すごいことしてきました!っていう力こぶは、まったく感じられないのです。


 キャバクラ勤めとしていたときのお客さんと、一度だけデートをした、というときの話。

 山田氏は競艇がかなり好きなようだったが、その日は300円賭けたものが一度当っただけだった。桐生競艇場を出てから、山田氏馴染みの定食屋に行った。定食屋さんの大将は山田氏のギャンブル仲間らしく、パチンコの話や、競艇の話で調理そっちのけで盛り上がっていた。山田氏は先程のレースで当てた話を得意気に話していたが、当ったレースでの掛け金がいつの間にか10倍した額の3000円になっていて、
(へー、ギャンブラーってこういう見栄のはり方をするんだなー)
 と、へんに感心してしまった。

 ああ、なんかほんと、「リアル」だなあ、と。
 釣ってきたザリガニをお父さんが「食べられるんだぞ」と言いだし、後に引けなくなって食べた話とか、あまりにも強烈で、僕もエビが食べられなくなりそうでした。


 この本のなかで、いちばん印象に残ったのは、

 なぜなら、頭のおかしい人のフリをすることは、ものすごく気持ちが良かったからだ。

 という言葉でした。
 大学生が「カッコつけてタバコを吸っているふり」をしているうちに、いつのまにか「喫煙者」になってしまうように、「おかしい人」のふりをしているうちに、それが「自然に」なってしまうことって、あるのではなかろうか。
 あるいは、本人は、ずっと「フリ」をしているつもり、だとか。


アル中ワンダーランド

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ハルモヤさん 1 (BUNCH COMICS)

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