ニュースの"なぜ?"は世界史に学べ 日本人が知らない100の疑問 (SB新書)
- 作者: 茂木誠
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2015/12/05
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
ニュースの“なぜ?”は世界史に学べ 日本人が知らない100の疑問 (SB新書)
- 作者: 茂木誠
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2015/12/04
- メディア: Kindle版
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内容紹介
ビジネスマン必須の教養!
新聞やTVだけで世界情勢は理解できない!
世界史の講師が、現代ニュースの素朴な疑問100に答える!!
シリア難民や中国とアメリカの対立、イスラム国のテロ……激動の世界情勢は、ニュースを見ているだけでは理解できないもの。そこには世界史の知識が必要なのです。
本書は、「国際ニュースがいまいちよくわからない」というビジネスマンの悩みに、人気予備校講師が答えます。「なぜアメリカは戦争をするの?」「中国が海洋進出を急ぐ理由は?」などなど、TVや新聞では教えてくれない「100の疑問」をQ&A形式で解説します。
ベストセラー『経済は世界史に学べ!』の著者が贈る、ビジネスマン必読の1冊!
●目次
第1章 台頭するイスラム過激派と宗教戦争
第2章 ヨーロッパの憂鬱――ウクライナ問題と移民問題
第3章 アメリカのグローバリズムと中国の野望
…など
世界で「いま」起こっていることの多くには、歴史的な背景があるのです。
さまざまな「因縁」とか「下地」があるからこそ、外交というのは一筋縄ではいかないわけで。
この本は、人気世界史講師が、現在の世界情勢についての「100の疑問」をQ&A方式で、その歴史的な背景とともに、わかりやすく解説してくれます。
正直、池上彰さんや佐藤優さんの本やニュース番組などで「世界情勢」をこまめにチェックしている人にとっては、「同じことのくり返し」になってしまうと思うのですが、ニュースをみても、いまひとつよくわからない、という人にとっては、わかりやすくて簡潔な「歴史からみた世界情勢入門」になっていると思います。
国会を取り囲んで「戦争法案反対」を叫ぶデモ活動や、国会内での「乱闘可決」の模様など、日々何が起きているかはテレビや新聞がセンセーショナルに報道します。
しかし、それが「なぜ?」「どうして?」起きているという背景は理解できないままではないでしょうか?
では、次の問いはどうでしょう? あなたは答えられますか……
・TPPの締結で何が変わるのか?
・IS(イスラム国)が台頭した原因は何か?
・中国が海洋進出を急ぐ理由は?
いかがでしょう? ニュース番組や新聞をなんとなく見ているだけでは、ニュースの「本質」をつかむことはできません。時間や紙面の制約という問題だけでなく、学校教育では国際情勢を理解するための「世界の常識」をきちんと教えないからです。
「アメリカの二大政党である、共和党と民主党はどう違うのか?」
「イスラム教の二大宗教、スンナ派とシーア派は何が違うのか?」
こういった「世界の常識」を知っておくと国際ニュースの「本質」が見えてきます。
いま、アメリカ大統領選挙で、共和党のドナルド・トランプ候補の躍進が大きな話題となっていますが、共和党と民主党の政策や支持基盤の違いについて、問われてすぐに説明できる日本人は、そんなに多くはないと思います。
トランプ候補のパフォーマンスは印象に残っても、「本当にこんな人が大統領候補で大丈夫なの?アメリカ人、正気か?」と疑問になるばかり。
でも、トランプ候補がこれだけ人気になっていることには、それなりの「背景」があるのです。
著者は、ヨーロッパの移民問題について、こんな話を紹介しています。
北アフリカからの移民は、1960年代にからすでに活発でした。
当時はまだヨーロッパの景気が良かったので、各国は合法的に移民労働者を受け入れ、仕事もいっぱいありました。パリやローマの郊外に、移民向けの集合住宅が大量につくられました。
現在でもローマに行くと、「ここは本当にローマ?」と疑うほど人種のるつぼです。少し裏道に入ると、1プロック全体が黒人という地域もあります。フランスも人口の約1割がイスラム教徒ですし、2009年に、イギリスで生まれた男の子の名前でいちばん多かったのが「ムハンマド」でした。イスラム教徒の出生率が高いからです。
この「イギリスで生まれた男の子の名前でいちばん多かったのが「ムハンマド」というのを読むと、どんどん増えていく移民に対して、元からの住人が不安感を抱くのもわかるような気がします。
ちなみに、日本の労働人口減少対策として、移民をもっと受け入れるべきだ、という意見に、著者はこのように反論しています。
多くの中国人が日本への出稼ぎを望むことでしょう。仮に中国人の10%が日本に来たとしても、1億4000万人です。日本の人口を軽く超えてしまいますよね。
そうなれば、日本人はたちまち職を失う結果となります。当然、中国系移民は参政権を要求するでしょうから、将来は中国系の日本国首相が生まれることになります。
日中関係をヨーロッパでたとえれば、フランスとアルジェリアです。いくら近い国だといっても、文明も宗教も価値観もすべてが違います。経済格差も大きすぎます。
経済統合や通貨統合の絶対条件は、同じ価値観をもっていること。そして、経済格差があまりないことです。これを無視すれば大混乱が起こることは、ヨーロッパの移民問題ですでに証明済みです。今でさえ大勢の不法移民が入ってきているのに、欧州と北アフリカを経済統合して国境という壁をなくしたら、それこそ収拾がつかなくなるでしょう。ヨーロッパの人たちは、地中海という防波堤をなんとしても死守したいと考えているのです。
日本の場合は、海に囲まれていることと、日本語という「障壁」があるとはいえ、「移民受け入れ」が自由になってしまうと、日本人の仕事がさらに減ってしまう可能性が高いのです。
ヨーロッパでは、移民に対する労働者階級の反発がかなり強まり、移民排斥をとなえる極右勢力が伸びてきている国もあるのです。
移民受け入れも、けっして簡単な解決法ではないんですよね。
日本の場合、職業訓練などの名目で受け入れた外国の若者を、文字通り「酷使」している例も多いようで、「労働者の扱い方」そのものがまだ未熟なのかもしれません。
著者は、中国、韓国に危機感を抱いているような記述が多く感じたのですが、それに関しては、あまり引きずられないほうが良いのかな、とは思います。
Q75:ペリーが日本にやってきた本当の理由は?
アメリカがメキシコを侵略した話には続きがあります。
カリフォルニアがアメリカ領になってからすぐに、金鉱が見つかりました。すると「ゴールドラッシュ」が起きて、移民がカリフォルニアに殺到(ラッシュ)します。
ところが、人口の多いアメリカ東部からカリフォルニアに行くには、ロッキー山脈という4000メートル級の山を越えなければなりません。これは当時の交通手段である馬車では越えられず、アメリカの東部から「船で」カリフォルニアを目指すことになりました。
当時はまだパナマ運河もないので、ショートカットすることもできません。最も近い航路は、南米大陸をまわっていくルートですが、南アメリカの最南端は南極に近く、海も荒れるので、遭難の危機をはらんでいます。
では、どこが早くて安全なルートだっったか、それが、実は東海岸から大西洋を渡り、アメリカ南端の喜望峰をまわって、インド洋へ抜ける。そして、日本をかすめて太平洋を越える世界一周のルートだったのです。
アメリカがカリフォルニアを奪ったのは1848年、ペリーの黒船が日本にやってきたのは1853年です。
多くの日本人は、ペリーはカリフォルニアから太平洋を渡ってきたと思っていますが、誤解です。当時、まだカリフォルニアに軍港などありませんでしたから、ペリーの黒船艦隊は、喜望峰をまわってインド洋からマラッカ海峡を抜けて日本にやってきたのです。
そうだったのか……僕も太平洋を渡ってきたと思っていました。
というか、ペリーの航路をあらためて考えてみることもありませんでした。
その航路を考えると、中継基地としての日本の重要性をあらためて理解することができます。
さまざまな歴史的背景をわかりやすく説明してくれるだけではなく、こういう「歴史的な常識だと思いこんできたことの間違い」についても、かなり丁寧に説明されている本なんですよね。
アメリカとイランの関係とか、サダム・フセインは「悪の独裁者」だったのか?とか。
これ一冊読んでおけば、とりあえず、世界情勢について「ちょっと知ったかぶり」くらいはできる、コストパフォーマンスの高い新書だと思います。