琥珀色の戯言

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【読書感想】なぜ、世界から戦争がなくならないのか? ☆☆☆


なぜ、世界から戦争がなくならないのか? (SB新書)

なぜ、世界から戦争がなくならないのか? (SB新書)


Kindle版もあります。

なぜ、世界から戦争がなくならないのか? (SB新書)

なぜ、世界から戦争がなくならないのか? (SB新書)

内容紹介
戦争は世界のビッグビジネスだ!?


21世紀の戦争は「お金を得るための戦争」だった?
これまで誰も指摘してこなかった、「資本主義社会における“戦争"の位置づけ」に池上彰が切り込む!


「なぜ、世界から戦争がなくならないのか?」
世界の戦争史を振り返っても、侵略のためだったり独立のためだったり、
宗教による争い、資源の独占、内乱などなど、その要因はさまざまです。
しかし、21世紀に突入してからの戦争に目を向けると、「お金儲けのための戦争」、
すなわち「戦争ビジネス」という側面が浮かび上がってきます。
そう、世界には「戦争」によって生活が成り立っている大勢の人々がいるのも真実なのです。
本書では、戦争がなくならない原因に向き合うことから、戦争に対する解決の糸口を探ります。
「戦争が世界のビッグビジネスである」という新たな切り口から、
資本主義社会における「戦争」を客観的にとらえることができる1冊です。


2016年2月12日にフジテレビで放送され、
大反響を呼んだ「金曜プレミアム 『池上彰緊急スペシャル』」を書籍化!
「素晴らしい内容」「戦争に対する心ある警鐘」「あらゆる世代に見てほしい」
「ぜひ再放送を! 」などの視聴者からの声も多数寄せられた、高視聴率番組。


 子どもたちや、これまでニュースに興味を持たなかった人たちにも、わかりやすく世界でいま起こっていることを伝えたい、という池上彰さん。
 この本は、2016年2月にフジテレビで放送されたスペシャル番組を書籍化したものだそうです。
 僕はその番組を観ていないのですが、率直に言うと、「池上さんの戦争についての本やテレビ番組を読んだり観たりしたことがある人」にとっては、「似た話の使い回し」感がけっこう強いのではないかと思います。
 観ることができるのであれば、テレビ番組を観たほうが良いんじゃないかな、これ。
 とはいっても、こういうスペシャル番組って、なかなか再放送はされませんから、本になったものを読むしかないのかもしれないけれど。
 ちょっと最近、池上さん関連の本が多すぎて、「またこの話か……」と思うことが増えてきています。
 同じ人が短期間でどんどん別の話をしていくのはおかしいし、情報はどんどんアップデートされていくべき、という考え方なのだろうか。

「戦争はなぜなくならないのか?」
 究極の質問です。よく子どもが大人に発する質問でもあります。「戦争はいけないこと」とみんなが言っているのに、どうしてなくならないのか。当然の質問です。この質問に、あなたなら、どう答えますか?


 この本って、子どもにいつかそう問われるであろう親たちのためにあるのかな、と思いました。
「なぜ戦争はなくならないのか? みんな悪いことだ、やってはいけないと言っているのに」
 子どもにそう言われたら、黙ってこの新書を差し出せば良いのです。
 まあ、それはそれで「思考停止」っぽくはあるけれど。


 いまの世の中では、戦争は「経済活動の一部」になっているというのは、厳然たる事実です。
 「みんな戦争なんてしたくない」というわけではなくて、「自分たちが儲ける(あるいは、食いつなぐ)ために、誰かに戦争をしてもらわなければ困る」という人たちが存在しているのです。
 ネットをやっていると、ブログに「ユーザーを黙すようなグレーゾーンの怪しい出会い系やオンラインカジノの広告」を貼っている人を少なからず見かけます。
 人間には「他人の不幸を黙ってみていられない」という善性とともに「直接目に見えないところで他者が不幸になってもしょうがない。そうしないと自分や家族が生き延びられないのだから」と「自分に言い訳をしてしまう面」も持っているんですよね。
 

 「軍需産業」といえば、武器や兵器、爆弾などの「直接人を殺すもの」を想像しがちなのですが、そこに「人間」が介在してくるかぎり、実際にはもっと広範なものが含まれてくるのです。

 たとえば軍用食。兵士も食べなければいけないので常に持ち歩ける保存食が必要です。戦争のときだけでなく、ふだんさまざまな訓練をするときにもこれを持ち歩きます。軍服も当然必要です。
 空から敵の様子を探るのに欠かせないのが人工衛星です。実は軍事を目的とした人工衛星、軍事衛星が世界中の空をたくさん飛んでいます。
 意外なのがフェイスペイントです。これは化粧品のようなものですね。戦地で、たとえばジャングルに身を潜めていると、迷彩服を着ていても顔の肌の色で敵に見つかってしまう可能性があります。そんな時、ジャングルのような色に顔を迷彩して見つからないようにするのです。

 軍用食や軍服に関しても「戦争の手助けをしている」と糾弾すべきなのか、それとも「それは単なる食べ物や衣服の一種なのだ」と考えるべきなのか。
 この新書のなかで、アメリカ・ノースカロライナ州の戦闘服製造会社を取材したときの話が紹介されているのですが、従業員は、「戦地に向かう兵士のズボンを作っていること」について問われ、こんなふうに答えていたそうです。

「ここで働いて10年になるけど、軍への貢献に誇りを感じているわ」(32歳の女性)
「息子はかつて海軍にいたの。海兵隊に入隊したばかりの甥もいるわ。(去年)10月に基地に派遣されたばかりよ。海外にいるアメリカ兵のために機能性に優れたズボンを作っていることに誇りを案じているわ」(創業当時から働いているという67歳の女性)

 アメリカという国では、「軍のための仕事に従事する」ということに対して、多くの人はシンプルに考えているのです。
 この人たちを「反戦主義者」の感覚で、「でも、あなたのつくった服を着て、彼らは人殺しをしているんですよ!」と責めることに、意味があるのかどうか?
 むしろ、国家として、産業としては「自分の仕事に誇りを持って、一所懸命にやってくれる」ほうが良いはずです。


 戦争というのは、所詮「勝てば官軍」なのだろうし、勝っても罪悪感を抱け、というのは無理だよなあ、と考えずにはいられません。
 日本人だって、日清・日露戦争の時代の「明治日本」を理想化しがちなのだし。


 あと、民間軍事会社の人は「迷彩服を着てはいけない」というルールがあるということもはじめて知りました。
 ちなみに、米軍下士官の日給が約16800〜22800円で、民間軍事会社の戦闘要員の日給は約14万6600円だそうです。
 そんなに「格差」があるのか、と驚きましたが、民間軍事会社の人の場合、亡くなっても「国のせい、政府のせい」になりにくいという世論対策と、遺族年金や負傷した場合の補償金を国が負担しなくても良いので、長い目にはコストカットにもなる、とのことでした。
 こういう「民営化」もあるのだな……


 また、日本と同じ、第二次世界大戦の敗戦国であるドイツでの「戦争についての教育」についての取材には驚かされます。

 授業は、歴史の先生が生徒たちへ問いかけるように行われていました。


先生「第二次世界大戦の責任は誰にある?」
生徒「ドイツと国民です」
先生「その通りです。ドイツに100%責任があります。人類史上最大の犯罪です。正気とは思えない行為です」


 この日、生徒たちに問いかけていたのは戦争の責任問題についてです。当時、ヒトラーをドイツの首相として選んだのはドイツ国民です。そんな人物を選んでしまった自分たちにも責任があるんだということを徹底的に教えているのです。
 ところで、生徒たちは挙手するとき、一本指を立てていました。これはなぜだと思いますか?
 そうしないと「ハイル・ヒトラー!」というナチス式敬礼に似てしまうからです。戦前のドイツでは民衆が右手を挙げて熱狂していました。「ハイル・ヒトラー!」とは、ヒトラー万歳ということです。日本では普通の挙手でも、ヒトラー率いるナチス・ドイツの時代はこれが敬礼だったのです。
 かつてのナチス・ドイツのようなことを二度と起こさないために、戦後のドイツではナチス式敬礼を禁止しました。もし見つかると民衆煽動罪で5年以下の禁錮刑に処せられます。そのため、ドイツの学校ではどの授業であっても、一本指を立てて挙手することになっています。


 こういう話を聞くと、「ドイツに比べたら、日本は『反省』していないじゃないか!」と言う人がいるのもわかるような気がします。
 個人的な印象としては、ここまで徹底して自分たちの父祖の世代がやったことを全否定できるドイツ人って、切り替えが早いな、とさえ思うのですが。
 日本で同じような「教育」をしようとすれば、かなり強い反対を受けることは確実でしょう。
 

 現代社会ではイデオロギーの対立で戦争が起こるだけでなく、経済的な事情から武器や兵士を「消費」するために戦争が行われるようになっているのです。
 そして、「軍需産業」というのは、「一般的な経済活動」と地続きになっています。
 「戦争」で生活している人たちがここまで増えてしまっては、「気持ち」だけで「戦争をしない」ことは難しい。
 そして、戦争が一度はじまってしまえば、戦争をしていくうちに、相手への憎しみはどんどん大きくなっていくのです。
 戦争は「相手への善意や敬意」で終わることはなく、どちらかが「もう戦えなくなる」まで続きます。
 「戦争がない世界」をつくるためには、「平和教育」以上に、人々が生きていくための糧を得るシステムの劇的な転換が必要なのです。
 でも、それは本当に難しいことですよね……

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