無敵の仕事術 君の人生をドラマチックに変える! (文春新書)
- 作者: 加藤崇
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/03/18
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
無敵の仕事術 君の人生をドラマチックに変える! (文春新書)
- 作者: 加藤 崇
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/03/18
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内容(「BOOK」データベースより)
世界一のヒト型ロボットをグーグルに売った東大発ベンチャー・シャフト元CFOが究極の仕事術を熱く語る。Encounter、Empathize、Dive、Learn、Encourage、Celebrate。スタンフォード大学でも注目の「共感」を軸にした6つの仕組み。
この本のタイトルを見て、パラパラとページをめくった時点では、「なんだか暑苦しそうな本だなあ、どうせ仕事中毒みたいな超人が書いた自己啓発書なんだろ?」と思っていたのです。
とりあえず、「日本で初めてグーグルにベンチャー企業を売ったCFO」というのをみて、読んでみることにしたのですが。
正直なところ、僕は著者みたいに情熱を持って仕事に取り組んではこなかったし、これからも難しいだろうな、とは思うのです。
でも、この本に込められている熱量みたいなものは、きっとこれから働こうと思っている人や、人生の意味みたいなものを考えてしまう人に、何かを考えさせてくれるのではなかろうか。
僕は以前、世界中のどのベンチャー企業よりも先進的なヒト型ロボットベンチャーをつくって、米国グーグル(Google)本社に売却した経験がある。日本人として初めてグーグル本社に自分のつくった会社を売ったことで、一躍話題になった。ところが当初、日本人は誰もこのベンチャーを、その経営者である僕を、相手にはしてくれなかった。しかし、このベンチャーは結果として、ロボット事業にすさまじい予算を使って乗り込んでいこうとするグーグルの中心に埋め込まれることになった(2015年8月、このロボット事業はグーグルの組織再編に伴って、グーグルの親会社となる「アルファベット(Alphabet)」の傘下に入ることがアナウンスされた)。自慢話めくが、日本人として、素晴らしい技術を支援し、正しいタイミングを捉えて世に送り出した結果だったと思う。
この中で、東大を辞めてまで、ベンチャーでロボットをつくろうとしている人たちの熱意とそのロボットの性能にに著者が動かされる場面が出てきます。
僕は彼をジッと見つめ、
「そんなね、酔狂でお金を出す人なんて、マーケットにはいませんよ。ビジネスは、そんなに甘い世界じゃないんだから」
と彼をたしなめた。大学の先生が、ビジネスに手を出してヤケドをするパターンかもしれない。こっちは、これまで死ぬ思いでベンチャーを経営してきたんだ。ナメてんじゃない。中西さんは黙って僕の話を聞いている。会議室に、しばらく沈黙が訪れる。
そこで事件が起こった。
何を思ったのか、いきなり中西さんが激昂したのだ。
「僕は、適当に自分の仕事をやろうとしているわけじゃない! ロボットを作るためなら、お金も彼女もいらない! これに人生のすべてを捧げてもいいと思っているんです!」
と、彼は叫んだ。あまりに急な出来事に、会議室にいた人間は全員呆然とした。
僕は、ビジネスはそんなに甘い世界じゃないといったつもりなのだが、どうやら彼は、自分のロボットに対す熱い思いを否定されたと感じたようだった。
僕はこの出来事に心底びっくりしたのと同時に、中西さんは真面目な男だな、と思った。世の中、みんなリスクヘッジをしてうまいこと生きている奴らばかったりだ。ところが、彼の頭の中には、ただただロボットを作りたいという思いしかないらしい。それ以外の世の快楽をすべて捨ててもなお、彼はロボットだけを作っていたいのだ。
中西さんは、ある意味「コミュ障」なのかもしれません。
でも、これだけの熱意を持って、東大の先生という地位をなげうってでも「ロボットをつくりたい。そのためなら他人が思うような『成功』や『楽しいこと』は全部捨ててもいい」という人がいるのだな、と僕も圧倒されました。
ところが、著者がバックアップしても、素晴らしい性能のはずの中西さんたちのロボットに投資をしてくれる人たちは、なかなか見つからなかったのです。
すぐに結果を出して、お金を稼げるようなものではないだろう、という判断で。
困った著者は、それならば、日本の将来の産業を支える技術として、国からの援助を得られないかと試みたのですが、それも不調に終わりました。
Googleに買収されてみると、「なんで日本の投資家や国は、こんなすぐれた可能性に気づかなかったのだろう?」と疑問なのですが、「目先の利益を生まないものに対して、大胆になれない」というのは、いまの「目先の成果主義」の大きな弊害ではないかと思います。
それにしても、Googleの先見の明と思いきりの良さ、アメリカという国のベンチャーへの理解の深さには圧倒されるばかりです。
「日本のため」にはならないかもしれないけれど、中西さんたちや彼らがつくるロボットにとっては、Googleで開発ができるというのは、大きなアドバンテージになることでしょう。
著者は、このGoogleへの買収劇とともに、銀行で働いていたとき、独立を決意した経緯や、倒産しそうな会社を若きリーダーとして建て直したときのエピソードを臨場感満点で語ってくれます。
池井戸潤さんの小説みたい!
本当に「アツい」人なんですよ、仕事にも人間関係にも。
それでも、すべてがうまくいくわけじゃなくて、信じていた人に裏切られたり、リストラを余儀無くされたりもしています。
そんな痛みを抱えながらも、著者は、戦い続けている。
この新書のなかで、僕にとっていちばん印象的だったのは、この文章でした。
僕は、何が日本人に足りないのだろうか? という問いを立てて、リアルな経営の現場を渡り歩いてきたが、その過程で、ある重要な事実に気がついた。
優秀だが、成果が残せない人たちに共通していること、それは彼らのひとり一人に、圧倒的に「当事者意識」が欠落しているということなのだ。仕事をやっていても、彼らはどこか他人事。つまりは「傍観者」なのだ。「当事者意識」が希薄なために、目の前の仕事に強烈な執着心を持つことができない。強烈な執着心が持てないために、もう少しで成功するかもしれないのに、自分からサッと諦めてしまい、結果として成果につながらない。これでは大きな仕事などできるわけがないのだ。
なぜ日本人の多くがこうして「当事者意識」を持てないのか? という問いを考え続けるうち、もしかすると、当時者であり続けるための理由がないからかもしれないという考えに至った。
そして、小さくてもいいから、若いうちに当事者になって物事を切り拓いた経験がないことから、いつまでたっても自分で何かを決める感覚が得られないのではないかと、考えるようになっていった。
これ、僕自身に痛いほど当てはまる話だよなあ、って。
これは「自分の仕事」なんだけれど、専門からちょっと外れたり、きつい当直とかをやっていると「なんで自分がこれをやらなければならないんだ?」とか、「偉い人たちは、現場のことは考えずに『俺たちも昔は寝ないで頑張っていた』とかばっかり言いやがって」というような感情ばかりがつもってくるんですよね。
でも、目の前にあるのは「自分の仕事」であり、誰が代わりにやってくれるものでもなかったのです。
にもかかわらず、「自分じゃなくても良い仕事なのだから、それなりにこなしておけば良いだろう」というくらいの情熱しか持てなかった。
結局、その「当事者意識の欠落」が、僕を残念な人間にしてしまったのではなかろうか。
そこで、「社畜になるべきだった」かどうかはわかりません。
ただ、「経営者になったつもりで働く」ことができれば、僕も経営者になれていかかもしれません。
向き不向きは、別として。
そういう「当事者意識を持てるか」というのも、それまでの人生の積み重ねとか才能なのかもしれませんが、これから仕事をやっていく人は、知っておいて損はないと思います。
著者は、大学時代の柔道部の後輩の就職活動が難航していた際、相談を受けて、こんなアドバイスをしたそうです。
「杉山(後輩の名前)、お前に足りないのは自信だけだ。今晩から寝る前に『俺って天才だああああぁ〜』と百回唱えて眠ろう。百回唱え終わったら、毎日俺にメールしろ」
といって、毎日夜中にメールさせた。そして僕はそれに、
「そうだ! 間違いなくお前は天才だ!」
と返した。
結果として何が起こったか? 僕が杉山に会って一週間後の面接から、彼は一度も面接に落ちなくなった。あっという間に希望の会社の内定を取ってきてしまったのだ。
若者は、何も持っていない。成功体験なんて、あるはずがない。何しろまだビジネスマンとしてのキャリアが始まったばかりなのだ。ならば、自分を後押しするのは、自己暗示しかないだろう。
僕などは、こういう自己暗示みたいなのをバカにしたり、「成功した経験もないくせに、偉そうに理想ばかり語りやがって」と反感を抱いたりしがちなんですよね。
あたりまえなんだよな、若者に「成功体験はない」「実績がない」ことなんて。
だから、「自己暗示で自分を後押しする」というのは、合理的な戦略なんだよなあ。
もちろん、杉山さんは「あとは自信だけ」という、もともと優秀な人ではあったのでしょうけど。
僕のような40過ぎのオッサンが読んでも、自分に足りなかったことについて気づかされますし、仕事に対する向き合い方を考えさせられる「アツい本」なんですよ。
正直、著者のすさまじい勉強法や生き様を全部真似できるとは思えないけれど、取り入れられるところもあるはずです。
「キャリアポルノ」と言われそうな本ではありますが、実録エンターテインメントとしても、楽しめる新書です。
ドラマ化待ったなし!