- 作者: 佐滝剛弘
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/08/08
- メディア: 新書
- この商品を含むブログを見る
Kindle版もあります。
- 作者: 佐滝剛弘
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/12/09
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
内容紹介
テーマパーク化著しいPA、SAの魅力など最新観光情報から、珍標識、ランキング、絶景スポット等のトリビアまで。また、新東名、新名神、圏央道等の開通で進む物流革命や、震災復興で高速が再評価される今、インフラの未来予想図をコンパクトに示す。郵便局巡り、世界遺産巡りで著名な旅のプロである著者は、日本の高速道路をほぼ全路線走っているだけでなく、欧州をはじめ諸外国でもレンタカーで旅を重ねて各国の道路事情にも精通している。豊富な実地見聞とカラー図版200枚をおりまぜて、マイカー一台に一冊必携の完全保存版。
数年前くらいに、高速道路のサービスエリアがけっこう話題になっていましたよね。
僕が子供の頃や若かった頃、20〜30年前のサービスエリアって、トイレと土産物売り場と値段が高いファミリーレストランのような食堂があるくらいで、「疲れたときに休憩するために寄るだけ」の場所だった記憶があります。
それが、今はサービスエリアが「テーマパーク化」しており、サービスエリアに行くためにドライブする、というのも珍しくないそうです。
たしかに、サービスエリアにもコンビニやコーヒーショップができて利便性が向上し、食べ物の質も格段に向上してきています。
ETCの利用率は、2015年度末で90.3%になっているそうです。
ちなみに、ETCの装着率は全車両の6割くらいだそうなので、「高速道路には乗らない車」というのも、けっこう多いみたいです。
2000年頃から高速道路上のSA(サービスエリア)、PA(パーキングエリア)と連結された公園や地域振興施設「ハイウェイオアシス」がつくられるようになったそうです。
このハイウェイオアシスが一般に注目される一つのきっかけは、2004年にオープンした伊勢湾岸道路刈谷PAに隣接する刈谷ハイウェイオアシス(愛知県刈谷市)が2009年に記録した、年間入場者数830万人という道路施設としては桁外れの数字であった。これはこの年の日本のテーマパーク・遊園地の中で、東京ディズニーリゾート、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに次いで堂々第三位にランクイン、「知られざる集客施設」として雑誌やテレビ番組で取り上げられたことで一気に知名度が上がった。現在でも人気は維持されていて、最近の数字でも、ナガシマリゾート(三重県桑名市)に抜かれたものの、いまだに四位をキープしている。ランドマークの高さ60メートルの大観覧車をはじめ、遊園地の遊具が充実、日帰り入浴施設、大規模な産直マーケット、女性専用の絨毯張りのデラックストイレなど、高速道路の施設の概念を打ち破ったことで、高速道路からの利用者が多いのは言うまでもないが、近隣住民の憩いの場としても機能、利用者の半数は高速道路ではなく、一般道路を使って入場している。流通業界、レジャー業界では、「刈谷モデル」とまで呼ばれてもてはやされるなど、社会現象に近い人気を不動のものにした。
この「刈谷ハイウェイオアシス」、九州在住の僕は「なにかのテレビ番組で観たことがあるようなないような……」というくらいの印象なのですが、ここまで大きな集客力がある施設なんですね。
地元密着型、という感じなのかな。
ディズニー、USJは突出しているのだとしても、その次がハイウェイオアシスというサービスエリアの拡大版みたいなものだというのには驚きました。
実際に行ってみれば、「もうこれはサービスエリアなんて規模のものじゃない」のかもしれませんが。
ただ、SA、PAって、近くであれば車に乗ればいつでも行けるのだけれど、遠いところになって、飛行機や鉄道を使う場合には、縁遠いというか利用しづらいところはあります。
最近は「駅弁」がSAで売られることも多いそうですが。
あと、「SAにありそうでなかった」こんな商業施設もできたそうです。
これほどバラエティに富んできた高速道路で、ありそうでなかったのが本屋である。どこかにできたらいいのにと思っていた矢先に、新東名のネオパーサ駿河湾沼津上り線に、2015年12月、蔦屋書店がオープンした。これまで週刊誌や道路地図などは売店の片隅で売られていたが、本格的な書店はこれが初めてである。正式には、ブック&カフェ「TSUTAYA」で、スターバックスコーヒーと同居しているところや本がテーマごとに緩い括りで並べられているところは、本好きの間でよく知られている東京・代官山の蔦屋書店の雰囲気を思わせる。車を長時間運転するとどこか体の、あるいは頭のある部分が凝り固まってしまうような疲れが出てくる。それをほぐす方法は人それぞれで、おいしいものを食べることで切り替えができる人もいれば、書店で逍遥することで気分転換できる人もいるだろう。オープンして二週間ほどでたまたま利用してみたが、SAでの立ち読みはとても新鮮で、なるほど、「高速道路に書店」は決してミスマッチではないと感じた。
そのうち、本格的カラオケルーム、ダンスが踊れるクラブ、卓球やビリヤードが楽しめるスペースなども、SAに登場するかもしれない。
本好きとしては、書店が増えることは嬉しい。
でも、SAに本格的な書店があっても、そこで本を読むより、さっさと目的地に向かったほうが良いのでは……どうせ運転中は読めないのだから、買う人がそんなにいるのだろうか?とも考えてしまいます。
そう思う人が多いからこそ、これまでSAに書店は入っていなかったのでしょうけど。
ただ、考えようによっては、ここでゆっくり本を読むことそのものが目的になりうる可能性もありますよね。ドライブ込みで気分転換に、とか。
これがうまくいくのかどうか、気になります。
そして、高速道路の開通というのは、ひとつの地域の人の流れを変えてしまう効果もあるのです。
東北の各県はいずれも面積が広い。都道府県別では岩手県が北海道に次ぐ第2位、福島県第3位、秋田県第6位、青森県第8位、山形県第9位とベスト10に宮城県を除くすべてが入っている。仙台市は東北における政治・経済・文化の中心都市だが、各県の県庁所在地とはそれなりの距離があり、それぞれの県の経済圏は、各県内でほぼ独立していると言ってよかった。新幹線の開通で、福島〜仙台間が25分程度で結ばれるなど時間距離がかなり縮まったところもあるが、買い物や通学で日常的に使うには新幹線は割高なので、生活路線にはなっていない。
そんな中で、これまでも鉄道があったものの、高速道路の開通とその高速を利用したバス路線の充実で一気に心理的距離が近づいたのが、仙台市と山形市である。仙台は太平洋側、山形は東北地方の中央回廊にある盆地に位置しているが、水系では日本海側で、両市の間には奥羽山脈が横たわり、両市を結ぶJRの仙山線も、戦前から全通していたとはいえ直行する列車は1時間に1〜2本で、決して便利とは言えなかった。
ところが、1998年に山形道が県境部分の高速道路への編入を経て仙台と山形を直結、乗用車で1時間弱、高速バスでも1時間ちょっとで結ばれ、片道1000円のバスが山形市民の心を捉えた。商業集積の面でも大学の充実度の面でも仙台と山形の間には相当の開きがある。片道1000円、往復割引なら2000円もかからないとなれば、気軽に行き来ができる。しかも、バスはJR仙台駅だけでなく、仙台の商業の中心である一番町に停留所がある。両市を結ぶ高速バス路線は人気を博し、本数も増え、それがまた客を呼んで、という好循環を繰り返し、2016年春現在、1日85往復。朝などは5分おきに発車する。都市間高速バスとしては、福岡〜北九州(小倉)間、福岡〜熊本間の路線に次ぐ高密度路線となっている。この結果、若者を中心に「週末は仙台で買い物」という文化が定着、山形の県都であるはずの山形市は、実態として仙台市山形区のような様相を呈している。
九州在住の僕が感じている「九州での博多への一極集中」と同じことが、東北でも高速バス路線の整備にともなって起こっている、ということなんですね。
最近では、新幹線以外の新しい鉄道の路線が地方に開通するということはまずありえないのですが(都会での地下鉄路線の再編、延長はあるとしても)、高速バスによって、潜在的なニーズが掘り起こされることは少なくないようです。
福岡の場合も、交通の中心である博多駅と商業の中心である天神は地下鉄で何駅か離れていて、少し離れたところから行くと、ちょっとめんどくさいところがあったんですよね。
JRの電車で行くと乗り換えが必要なのだけれど、バスなら、買い物目的の人は、天神に直行できるというメリットもあったのです。
いまは、JR博多シティの開業などで、博多駅近辺が買い物需要も「総取り」を目指していて、また新たな展開をみせているわけですが。
この「仙台市”山形区”化」は、山形の人々にとっては便利でも、山形市の店舗にとっては厳しい状況なのでしょうね。
だからといって、「鎖国」するわけにもいかないし。
高速道路の歴史から、サービスエリアの現在、高速道路による都市への影響、そして、外国の高速道路体験記まで、「高速ファン」にはたまらない新書だと思います。
しかし、そんなにいるのかな「高速ファン」って。けっこういそうな気もするけど。